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小説『わたしのお婆ちゃんは元巫女さん』(1話目)

1話 お婆の心配


「ねぇお祖母ちゃん、会社の同期の女子三人で、夏休みに温泉旅行に行くことになったんだけど。」

私は会社から帰ってお祖母ちゃんに話しかけた。
私のお祖母ちゃんは霊感が強く、実家は神社で元は巫女さんもしていたという。

「すごく人気の温泉旅館で、会社の同期のアヤがキャンセル待ちでやっと予約取れたんだって。だけどお祖母ちゃん、なんかこの旅館嫌な予感がしてね。」

私が旅館のパンフレットをお祖母ちゃんに手渡すと、お祖母ちゃんの形相が一変してしまった。

「違う旅館に変更はできないのかねぇ?」
お祖母ちゃんが困ったように言った。

「だって、アヤが頑張って予約取ったし、ユカも行く気だし、キャンセル料発生するのに言えないよ。」
私が口をとがらせて言うと、お婆ちゃんは更に困った顔で、
「お婆は勧めないよ。絶対にこの旅館の山側の建物に泊まらないようにね。」
と言ったものの、それでも眉間のシワをいっそう深くしている。
「山側の建物に泊まらなければ大丈夫?」
私がそうっと聞くと、お祖母ちゃんはしぶしぶ頷いたが、それを見ているとかなり不安になってきた。

お祖母ちゃんの実家の御先祖は陰陽師だったとかいうくらいだから、この手の話は信憑性がある。
「とりあえずお守りを。」
お祖母ちゃんが引き出しから小さな袋を出してきて、私の掌にお守りを握らせてくれた。

でも、それでは心もとないと思ったのか、
「ちょっと待ってなさい。」
と、塩の壺を持ってきた。お祖母ちゃんがお嫁入りの時に持ってきたという壺だ。

「浄めの焼塩だよ。温泉の宿の部屋がもしも山側だったら、四方と入口に塩を置きなさい。全部は使っちゃだめだよ。万が一の時には使えるものだから。」

万が一?どういうこと?

「お守りは肌身離さず、部屋の入口と四方に塩を盛って、それでも危険な時はこの塩で戦いなさい」
「え?お祖母ちゃん、戦うって・・・」

お祖母ちゃん何が起きるか本当は知っているのではないの?
私はお祖母ちゃんに問いかけたけれど、お祖母ちゃんは返事もせずに出かけてくると言って背を向けてしまった。

(2話目に続く)

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