今年度版のこのライトノベルが凄い!がつい最近発売された。
自分の推した作品がランクインしてたりしてなかったり、知らなかった作品がウケいいのを知って興味を持ったりできるラノベ界隈にとって貴重なビッグイベントであるが、今年はそれに伴ってある一つの騒ぎが起きた。
結果が出た直後、入賞作の作者から「売れてなかったので入賞したけど打ち切りです」報告が相次いだ。
無論、打ち切り判断はこのラノのランキング発表前なので、発表前のランキングに売り上げをあげる効果などある訳もなく、この結果に宝島社側の非は無い。
けれど評判が良かったことが可視化される前から打ち切りが決定するのは理不尽だろ!という反応が相次いだ。
それに伴って、当記事執筆者が以前書いた記事がまた拡散され始めた。
一年ちょっと前になんとなく思って手動で調べてみた記事だ。
そう。手動だ。正直言って我ながらかなり精度に不安がある。
そんなものが拡散され始めるのは正直言ってめちゃくちゃ恥ずかしいんだ。
なので、よりマトモな結果で上書きするため、改めて調査を行った。
調査目的
当記事では以下の事柄を検証する。
打ち切りで早期引退したライトノベル作家はどのぐらいいると推測できるか?
新人ライトノベル作家の数は増えているのか?増えているなら何故か?
ライトノベルの出版点数は増えているのか?それは作家数に比例するか?
ライトノベル作家の生存率が下がっているという話は本当か?
ライトノベルの中身がWeb書籍化系ばかりだという評判は正しいか?
準備品
使用データ
ラノベ界には、ラノベの杜という新刊情報収集サイトが存在する。
左下の方にDB検索という項目があり、そこからなんと半世紀分近くのライトノベルらしきものの出版データを取得することができる。
「ライトノベル」の範囲定義論は色々あるが、本記事では上記サイトに掲載されている範囲をライトノベルとして扱う。
ライトノベルの周辺ジャンルとして
・新文芸(主にWeb書籍化を主体とする大判の本類を指す)
・ライト文芸
・少女向け文庫本
等があるが、それらも上記サイトに掲載されているため範囲とする。
今回は21世紀に入ってからの2001〜2021の20年分のデータを使用した。
登録されているレーベルは151レーベル、
作家の人数は総勢9082名となった。
尚、作家の人数はレーベルと作家名が一致しているものごとにカウントしたため、榊一郎先生等の多数のレーベルをまたいで活動している・複数名の共作として出している者はレーベル・グループごとに別人と数えられていることに注意されたし。
判断基準
取得して来たデータは「発売年月」「レーベル」「タイトル」「著者」「イラストレーター」「ISBN」「ページ数」の形式になっている。
前回同様打ち切り率を判断するにはタイトルで判断するべき……であるのだが、自分の技術力ではタイトルから同一シリーズであることをプログラムに判断させるのは困難だった。
蟲と眼球とテディベアの続きが蟲と眼球と殺菌消毒であることをプログラムに教えるの、無理!
なので、今回は機械的に取得可能な「その作者がそのレーベルで出した数は何冊か」「その作者がそのレーベルで何年仕事を続けているか」を調査することとした。
前回同様、3冊以下で1年間新作が出ていないことを打ち切りラインとして設定する。
全体カウント結果
総勢9082名のうち、5453名が3冊以下でその文庫キャリアを終えている計算になる。
パーセンテージでいうと約6割だ。
1冊しか出していない人の率も34%ある。
三分の一が一冊止まりで作家歴を終わらせてしまうと考えるとなかなかに辛い世界である。
グラフ化して見ても解る通り、三冊までの壁の時点で凄くそそりたっている。
ちなみに最大の同一レーベル113冊(2021年12月時点)の記録を出しているのは、大方のご想像通り鎌池和馬先生である。
2位の81冊は富士見ファンタジア文庫での鏡貴也先生、3位の72冊はコバルト文庫の桑原水菜先生だ。
デビュー者数推移も見てみよう。
いや待って多い多い多い多い!!!
2010年代の間に急激に増加しすぎでしょデビュー者数!!
ゼロ年代後半の間横ばいだったのが10年代の間に急激に伸びている。
無論、この理由はかなりシンプルに推測できる。
Web拾い上げがデビュールートになった為と、レーベル数の増加だろう。
ゼロ年代の間はデビューのルートと言えば各レーベルが行う賞だったので、デビュー者数は一定になっていたのだろう。
レーベル数が増えれば当然開催される新人賞の数も増えそれに伴ってデビュー者が増える。
更に当記事の集計はレーベルが違えば別作者としてカウントしているので、そこでもデビュー者が増えたカウントとなる。
青がその年に出たラノベの冊数で、赤がその年のデビュー者人数だ。
2020年で2010年時の三倍近くの人数がデビューしているが、出版冊数の増加量は1.7倍程度だ。
それでは年ごとの生存率を見ていこう。
同じレーベルで最初に本を出した年と、最後に本を出した年を取得し比較した。
よって間に何年ブランクがあろうと、同一レーベルで復活した場合は仕事が続いている期間とみなした場合の計算だ。
1年後生存率だと昨年の12月に1巻を出して実際活動期間1年未満という場合もあるので、2年後生存率でグラフを作ってみた。
ゼロ年代の時点でも4割台とは言え、思ったより激しい角度で落ちていた。
2011年(13年)をピークにしつつ、10年代後半から大きく下降している。
ジャンルごと
次はレーベルのジャンルごとに見ていこう。
本記事では2年後の新人同レーベル仕事継続率を調査してきたため、ジャンルごと比較においてもその周辺のデータを使用する。
2019年と2021年の作品点数
時系列的比較のため、2019年に存在していたレーベルのみを対象とする。
2020〜2021に誕生した新規レーベルは以下のグラフに含まれていない。
合計値は新規レーベル込みの数値を記載する。
男性向けライトノベル文庫
2019年:合計1033冊
2021年:合計879冊
消滅しているレーベル:4件
新文芸レーベル
2019年:合計1015冊
2021年:合計992冊
消滅しているレーベル:12件
女性向けレーベル
2019年:合計270冊
2021年:合計357冊
消滅しているレーベル:2件
ライト文芸レーベル
2019年:合計509冊
2021年:合計413冊
消滅しているレーベル:2件
2019年と2021年のデータから、男性向けライトノベル文庫と新文芸は、数年前から既に同等の出版点数があることが解った。
女性向け文庫やライト文芸は別ジャンルとして語られがちであるため、「ライトノベル」扱いされやすい領域の実質半分が新文芸、即ちWebからの拾い上げ作品となっている。
文庫の側にも拾い上げ書籍化作品があることから考えると、近年のライトノベルへの印象論でよく言われている「最近はなろう系ばかりだ」という論は、「なろう系」の定義を「Web拾い上げ作品」だとするのであれば割合的には事実であると言える。
2019年のデビュー者数
2019年の男性向けライトノベル文庫からのデビュー者合計:219名
2019年の新文芸レーベルからのデビュー者合計:331名
2019年の女性向けレーベルからのデビュー者合計:79名
2019年のライト文芸レーベルからのデビュー者合計:228名
以上の結果から、2019年の時点で一番デビュー者数が多い領域は新文芸レーベルであることがわかった。
2009年に比べてデビュー者数は約3.14倍となっており、下記おまけに掲載されている主要文庫の新人数が大増量されている傾向も見えない為、新文芸・ライト文芸というジャンルが発生したことによるレーベル数の増大がデビュー者数の増加の主要因であると推測される。
新人同レーベル仕事継続率
グラフは2019年・2021年両方で新刊を出していた、2019年デビュー者がまだ同レーベルで仕事を継続していたレーベルのみを対象とする。
男性向けライトノベル文庫レーベル
2019年の新人の活動継続レーベル:12件
2019年の新人継続率0レーベル:6件
2021年までに消滅しているレーベル:4件
新文芸レーベル
2019年の新人の活動継続レーベル:20件
2019年の新人継続率0レーベル:6件
2021年までに消滅しているレーベル:12件
女性向けレーベル
2019年の新人の活動継続レーベル:9件
2019年の新人継続率0:1件
2021年までに消滅しているレーベル:2件
ライト文芸レーベル
2019年の新人の活動継続レーベル:13件
2019年の新人継続率レーベル:3件
2021年までに消滅しているレーベル:2件
どのジャンルでも継続率はレーベルによりけり、という結果になった。
下に掲載しているレーベルごとの調査によっても年によって上下が激しく、一概にどこのジャンルどこのレーベルが活動継続しやすいと言い切ることは難しそうだ。
まとめ
提示した疑問に対する回答は以下のようになる。
Q:打ち切りで早期引退したライトノベル作家はどのぐらいいると推測できるか?
A:刊行数3巻以下の状態で1年以上新刊を出していないことを早期引退と判断した場合、2001年〜2021年で本を出している総勢9082名のうちの約6割、5453名が早期引退状態にある。
Q:新人ライトノベル作家の数は増えているのか?増えているなら何故か?
A:年々増加しており、2021年時点では2010年の3倍ほどになっている。文庫レーベルからの新人数はさほど大増している訳ではないため、ライト文芸・新文芸レーベルの増加に伴う増大であると考えられる。
Q:ライトノベルの出版点数は増えているのか?それは作家数に比例するか?
A:年々増加しており、2021年時点では2010年の1.7倍ほどになっている。ただし新人の増加率の方がそれよりも高い為、比例できていない。
Q:ライトノベル作家の生存率が下がっているという話は本当か?
A:デビューから2年以上後に同じレーベルで新刊を出せているかを計測したところ、10年代の後半から大きく下がっているという結果は出ていた。
Q:ライトノベルの中身がWeb書籍化系ばかりだという評判は正しいか?
A:現在、文庫と新文芸の規模は同程度あるため、半分からそれ以上がWeb書籍化系であることはおそらく正しい。内容が偏っている印象を受けるのであれば、それはライトノベル市場全体よりも先に拾い上げの元となるWeb小説界隈環境の方の問題だと思われる。
以上が、データから推測されるライトノベル業界の状況だ。
とりあえず、現状がどうであろうともライトノベル業界は市場として動いている以上、新刊が売れることが何よりも業界の問題を解決することに繋がるだろうと思われる。
だが、近年のコロナ禍により、物理的に書店に赴くことが難しくなってきた者も増えてきており、インターネット上で新刊の情報を収集出来るような環境構築が出来ていなければ、新刊の存在にも気づきづらい状態となっている。
ところで、記事筆者はWeb小説サーチエンジンにプログラムの提供を行なっているのだが、そこでは運営費を回収するためにもとい面白い小説を知る機会を増やすために、AmazonAPIを用いて商業の新着ライトノベルの収集も行なっている。
Twitterアカウントの方では毎日20時にその週発売されるライトノベル一覧へのページのリンクを呟くようになっており、
新刊の発売日の0時・18時には発売を通知するツイートを送信するようにプログラムされている。
よって、フォローしていってくれるとお互いにとって益になると思われるのだが……どうだろう?
(つまりCM目的だったのさ、というお話)
おまけ:レーベル個別データ
対象とした151レーベルを全て掲載するのは大変なので、主要な文庫をピックアップしてそれぞれの冊数率とデビュー者数と2年後仕事継続率を見ていく。
尚、収集データの都合上、2001年以前から存在するレーベルではそれ以前から仕事をしている作者も含めて全部を新人としてカウントしてしまってそこだけ数が実際よりも多く見えるため、新人デビュー数グラフは2002年から始めることとした。
電撃文庫
角川スニーカー文庫
ガガガ文庫
MF文庫J
GA文庫
富士見ファンタジア文庫
講談社ラノベ文庫
オーバーラップ文庫
ファミ通文庫
HJ文庫
カドカワBOOKS
TOブックス
100%から0%へと極端な数値が出ているので補足を入れるが、TOブックスは2011〜13年の段階ではオーフェン新装版が出版点数の多くを占めるレーベルであり、新文芸レーベルとして活動し始めたのは実質2014年からである。
アース・スターノベル
GCノベルズ
MFブックス
エンターブレイン
アルファポリス