アイドリッシュセブン モブ妄想 3_居合わせた子

「本日も始まりましたー!キミと愛なNight!!たくさん楽しんでくださいね!」

小さなイヤホンから、優しい響きの元気な声が聞こえる。推しはいつだって笑顔で元気いっぱいで、すごいなぁと思わずため息が出た。

昨日、大きな失敗をしてしまった。
取り引き先の会社にも迷惑がかかることで、上司がカバーしてくれたものの損害は取り戻せない。入社して6年目、ここまでのミスをしたのは初めてで、酷く落ち込んでしまった。落ち込んでも仕方のないことだとは分かってるけど、どうしても気分が晴れない。私の落ち込んだ顔を心配したのか、今日は早退していいよと上司が気を使ってくれた。いい人に恵まれたと思う。そんな人に迷惑をかけたことに、いけないのにまた落ち込んだ。
いい加減反省して復活しないといけないな。そう思い、空いた午後を使ってカフェに行き、配信されている愛なnightを少しだけ見る。
スマホの小さな画面で、男性にしては小柄な身体を精一杯に動かし、気を抜けばすぐ散らかってしまう6人のトークをまとめあげる彼。彼は私の推しで、尊敬する人だ。私よりも7歳も若いのに、私よりもずっと大変な仕事を精一杯やっている。彼を見ると、私も頑張ろうといつも元気づけられる。
カフェで一息ついた私は、お気に入りの服屋さんに向かうことにした。そこはナチュラルテイストのユニセックスなデザインが売りのお店で、三月くんも好きそうだな、来てたりしないかなといつも考えてしまう。トップスはもう沢山あるから、ボトムスを増やしたいな。そう思いながら見ていたのに、コーデュロイ生地のコートに目移りしてしまう。その時だった。

「ねえねえ、この前のキミと愛なNight、見た?」

思わぬ同士との遭遇に、胸が高鳴る。チラッと見ると女子高生の2人組のようで、キャッキャと話す姿が可愛らしい。面白かったよね、わかるよと心の中で相槌を打ち、

「でもさ、三月邪魔じゃない?センターでもないのに仕切ってさ」

瞬間、時が止まったかのように感じた。

「わかるー、もっとりっくん映してほしいよね」

そんな私とは裏腹に、彼女らの会話は進んでいく。

「人気ないくせに、もっと空気読んで欲しいよ」

ぐっと込み上げてきたものを堪えて、ぁう、と嗚咽が漏れた。言い返すことは出来ない。感想は人それぞれだから、私には何も言えない。

でも、でも、どうか、彼にこんな言葉が届きませんように。願うことしか、その時の私には出来なかった。

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