見出し画像

クラフトビールと地元産食材の関係

雪と温泉で有名なニセコだが、農作物も一流だ。「倶知安のジャガイモ」「蘭越のお米」などと比較して「ニセコの〇〇」が埋まらないのは、小規模な農家が多く、多様な品種が生産されているからだろう。ただ、食いしん坊たちには良く知られていて、夏にはメロンをはじめとして、トマト、キュウリ、カボチャ、お米などを求めて、多くの観光客が道の駅「ビュープラザ」を訪れる。ニセコの農家は農協に卸すだけでなく、自分たちで工夫を凝らして商品の価値を上げ、独自に売る方々が多い。これもニセコ町に活気がある理由の一つだ。

こんなに優れた食材に溢れた町でクラフトビールを作っていると、「地元の食材をクラフトビールに生かさないか」と聞かれたり、ありがたいことに生産者から申し出を受けることがある。だが、私たちには、地元の食材を活かした料理と合わせて私たちのクラフトビールを飲んでほしいという思いが強い。素晴らしい食材は、素材そのままか、それを活かした料理にして欲しいということだ。私たちは自分たちのクラフトビールに、様々な食材を足して飲んでみるということを何度かやっているのであるが、いくつかのフルーツ、特に柑橘は良いマッチングが得られるものの、それ以外は衝突するか、馴染まないという結論に達している。残念ながら北海道では柑橘類が育たないので、地元産の原料を使うに至っていない。

ところで、私はハンバーガーが好きだ。ハンバーガーというものはバリエーションが豊富で、作る人の個性と創造性が現れる。かなり食べ歩いていると自負しているのだが、ニセコにもお気に入りの店がある。そこのオーナーは、静かだが熱いこだわりをハンバーガーに詰め込んでおり、話を聞くことができた。彼も道産食材を使わなければというプレッシャーを感じていて、北海道産牛肉でハンバーガーを試作してみたそうだ。だが何度試しても納得するものを作ることができず、結局は外国産の牛肉を独自の方法でブレンドすることに落ち着いたようだ。道産食材のプレッシャーについては、バンズに使用する小麦を北海道産のきたほなみなどにして、解決したとのことだった。いくら優れた食材に溢れた土地であっても、生かせるシーンは限られるということであろう。

他方、積極的に道産食材を副原料に取り入れているフリーのブルワーがいる。確かに道産食材を使ったクラフトビールのマーケットは存在しており、その分野では第一人者だ。彼の話には感心するばかりだが、知識や経験だけでなく、副原料の前処理に膨大な時間を費やしたりといった努力を惜しまない。また難しい副原料と向き合うことによって、技術を向上させてきたのだろうと思う。加えて食材の生産者やクラフトビールメーカーを巡っており、コミュニケーションにも長け、生産者の思いをクラフトビールに込めるのが上手い。

私たちも圧倒的に経験が不足しているということだ。なんとか本に書いてあった通りやってみることから始めて、最近はホップや麦芽の種類や分量を微調整して理想に近づけるということがやっとできるようになってきた。田舎の小さなブルワリーにふさわしくない機材や、分析機器も揃ってきた。まだまだ解決したいことは山ほどあるのだが、地元の食材を取り入れるというのは、今後の大きなテーマの一つになりそうだ。