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循環器部長が残した、忘れられない言葉

こんにちは、iCAREの山田です。今回はいつもと違って、当社の産業保健師である立山が運営する「ことばの日」企画に参加して、私が忘れられない言葉を紹介したいと思います。

金沢大学医学部時代から、数々の優れた臨床医と共に過ごす中で、この人の言葉と風景は頭に残っているという名シーンがいくつかあります。その中のひとつを今回ご紹介します。


私は研修医時代、全国的に有名な沖縄県立中部病院でトレーニングを受けました。初期研修医1年目では、2週間単位でチームがローテーションし、診療科は月単位でローテーションしていました。私は内科系研修を希望していたため、2年間の研修期間中、長い期間を内科スタッフと過ごしました。


今回お話するエピソードは、約15年前のことで記憶が曖昧な部分もありますが、循環器内科部長が頭を下げる姿が鮮明に残っています。



沖縄県立中部病院の研修医だったあの頃


沖縄県立中部病院は、戦争で荒廃した沖縄のうるま市に建てられた県立病院です。米軍統治時代にハワイ大学と連携し、北米式研修医制度を築き上げ、全国的に有名な病院でした。多くの優秀な医師たちが研鑽を積み、全国に、そして世界に活躍していました。沖縄県立中部病院は夜になると電灯が輝き、遠くからでも目立つ存在でした。当時は医療が乏しかったため、救急車が10台以上並ぶこともありました。


救急、循環器内科、心臓血管外科、麻酔科と研修医たち


研修医の1年目で、救急車対応台数の目標が1000台だったのに、私はたったの700台しか対応できず、恥ずかさを感じるくらいに、私が研修していたときも、救急車は絶えず来ていました。

沖縄という土地柄もあり、飲酒運転による自動車事故や、修学旅行中の高校生がホテルから誤って転落して心肺停止で運ばれてくるなど、驚くべき環境でした。また、先生方の多くが緊急状況が大好きで、超重症患者さんが救急車で運ばれてくると、すぐに診療科を超えて集まり、手術室へ連れて行く様子は圧巻でした。患者さんを救うためのアドレナリンが一体化した瞬間の高揚感は、本当に素晴らしいものです。


研修3年目で救急・病棟を同期全員でほぼまわすというビックリ

当時は、研修という形でどれだけ症例を経験し、早く一人前になれるかが重要な価値観だったこともあり、研修医ながらさまざまな経験をさせていただきました。



あれは準夜勤だった記憶…


研修医1年目の救急当直で、40-50代の男性が、夕方6-7時頃に心肺停止寸前の胸痛で救急車で運ばれてきました。救急で初期アセスメントを行い、緊急で循環器チームに連絡しました。おそらく循環器内科部長の外来患者で、糖尿病を含めた自己管理が難しく、心筋梗塞の可能性が高いことが事前に伝えられていたと思います。

救急に到着したご家族の不安な顔と同時に、救急医や循環器内科医から迅速な説明が行われました。私は研修医1年目で、対応できない立場だったため、指示されたら血液検査や血ガス測定を急いで行い、カルテを記入していました。

すぐに点滴治療が始まり、カテーテル手術室の準備も整い、緊急カテーテル治療が開始されました。循環器内科部長が率先してカテーテル手術を行っている最中、患者さんは心肺停止し、最後まで救うことができませんでした。



今回、私の力が及ばす残念な結果になって申し訳ありません


循環器内科部長が手術室から出て、外の廊下で待っていたご家族に声をかけました。

『今回、私の力が及ばす残念な結果になって申し訳ありません』


部長はご家族の目を見て、とてもきれいなお辞儀をしました。ご家族は、尽力してくれたことに感謝するような会話を交わしました。1%の可能性でも命を救う強い意志と、今回の結果に対する申し訳なさ、そしてご家族の気持ちを労る循環器内科部長の背中が強く記憶に残りました。



満足したらプロじゃない


働くことに対しては様々な考え方があって良いことだと思います。しかし、これまで心療内科や産業医として働く人々と向き合ってきた経験から、働くことの根底には「常に自分と向き合うこと」があると感じています。

非常に挑戦的であり、批判されるかもしれない結果にもかかわらず、「自分の力が及ばずに申し訳なかった」と心の底から言えた循環器内科部長の厳しくも優しい表情には、プロとしての崇高な想いと同時に、悲しんでいる人への優しさを忘れない姿勢、そして何より次につなげるために決して自分の技術に満足しないという強い覚悟が感じられました。

この経験から学んだことは、プロフェッショナルであることは、単に技術や知識を持っているだけではなく、自分自身と向き合い、常に成長し続けることが求められるということです。そして、困難な局面でも、それに関わる方々に対して誠実であり、心からの労いや感謝の気持ちを忘れないことが大切だと痛感しました。

私たちも、それぞれの職業において、このようなプロフェッショナルな姿勢を持ち続けることで、より良いサービスや成果を生み出すことができるでしょう。また、自分の力が及ばなかったとしても、その経験を次に活かし、成長し続けることが大切です。

iCAREには、パーパス、クレドに続いてバリューというものがあります。このバリューは、仕事の進め方、仕事に対する向き合い方を示しています。

満足したらプロじゃない。
この言葉は、まさにこの部長をみていて思うことなのです。

私の好きな言葉の「苟日新 日日新 又日新」
(まことに日新たに、日に日新たに、また日新たなり)
もまさに同じようなことを言っています。
毎日を心機一転新たな気持ちで挑み、昨日よりも今日が、今日よりも明日へ自分を磨き続けることで大きなことを達成できるようになると。



最後に、どんな仕事であっても、プロフェッショナルであることは決して満足しないこと、そして常に自分自身を磨き続けることが求められるということを、私たちは心に刻んでおくべきだと思います。そのような姿勢が、最終的にはお客様、そして私たち自身にとっても、最善の結果をもたらすことに繋がるでしょう。


#忘れられないことば #ことばの日

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