Babylon Healthとデジタルヘルスケア〜 Ⅱ. アフリカを中心に発展途上国へ事業を展開
iCAREの山田です。前回は、Babylon Healthの「Ⅰ. イギリスNHSとともに事業のゼロイチを作り、基盤を構築【前回】」についてはじまりを話ししました。当時のイギリスの時代背景や制度上のニーズ、NHSとともに歩んでしっかりと基盤をつくりました。
今回は
Ⅱ. アフリカを中心に発展途上国へ事業を展開【今回】
について話をしていきます。
残り2つで完結です。
Ⅲ. 急激な事業成長を遂げるアメリカ市場での展開(VBC)
Ⅳ. AI問診技術の現状とBabylon Healthの今
今回のnoteは下記の記事を中心にまとめています。
1.グローバル展開
Babylon Healthは、15カ国・16言語に対応できるグローバルヘルスケアサービスとなります。英国、米国、ルワンダ、カナダ以外に南アジア進出は、プルデンシャルと提携して、カンボジア、香港、インド、インドネシア、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、台湾、タイ、ベトナムの11カ国となっています。
カナダでは、ソフトウェア・ライセンス契約を通じて、バビロン・クラウド・サービスを提供しています。バンクーバーに本拠地のある医療技術サービスを提供するTELUS Heatlhへ7年契約で提供しています。
2.アフリカ、ルワンダでの医療事情
ルワンダは、1990年代の大量虐殺が起こり、その後ルワンダの奇跡と言われるまでに経済成長を果たした国です。独裁政権下と言われていますが、アフリカの中でも治安が良いとされています。農業改革やインフラ整備、汚職対策、IT産業の振興、海外からの投資の奨励などによって急速な経済成長を遂げています。中国やインドなど外国企業の進出も盛んです。
アフリカの国では珍しく、人口の85%以上がMutuelleと呼ばれる国民皆保険制度を利用しています。これは60,000人以上のコミュニティ保健労働者、健康施設、および健康センターを持つ紹介制度に基づいており、これらの施設が患者を地区病院に紹介する仕組みになっています。約1,200万人の国民に対して、医師数1,200名(2019年)しかおらずルワンダの医療システム体制を効率よく構築することは喫緊の課題ででした。
ルワンダの医療事情の詳細は、こちらにあります。
3.Babylの誕生
2016年ルワンダとビル&メリンダ・ゲイツ財団とパートナーシップを結び、Babyl(バビル)というローカルサービス名で医療サービス内に統合されました。Babylは、220万人対象とし、提携薬局120、提携医療機関418を通してルワンダ国内のどこからでも電話で医師や看護師の相談をすることが出来るものです。2020年にはルワンダ政府と10年契約を結び、2021年には、260万人が登録し、毎日4,000件の医療相談をこなすまでになっています。
この2分の動画がルワンダでBabylの使い方を説明しています。
国民の3/4がmobile telephoneを持ち、大多数がフィーチャーフォン(ガラケー)という中で、テキストメッセージを端末間で交換することが出来るUSSDという技術を活用しているとのことです。
2022年には、280万人まで広がり、約20%(国民数1,320万人)をカバーしたと言って良いでしょう。
4.Babyl の仕組み
対応する医師や看護師
ルワンダ国内にいる医師数はただでさえ少ない中で、どのように提供しているのでしょうか。仕組みとしては、都市に集中している医師の副業に近い形として、週6-8時間をBabylで働き、残り時間を政府の病院や診療所で働いているようです。医師は、カスタマーケアやITスキル、デジタルサービスに関するトレーニングを受けて対応をするようです。
支払いの仕組み
医療相談ごとに報酬が発生するFFS(Fee for Service、出来高払い) の形式のようです。
5.ビル&メリンダ・ゲイツ財団の存在
ビル&メリンダ・ゲイツ財団(B&MGF)とは
HPには、財団の沿革があるのですが、ゲイツ夫妻がなぜこの財団を始めたのかのストーリーがとても印象的です。1997年、発展途上国の数百万人の子どもたちが、下痢や肺炎で亡くなること新聞で読み衝撃を受けたゲイツが、8文字の文字を記事とともに父親に送り、行動へと変わるのです。
”Dad, maybe we can do something about this"
それ以前の1994年には父親であるWilliam H. Gates(弁護士)の財団が創設され、2000年にB&MGFへと統合し、2006年にウォーレン・バフェット氏が財団へ寄付することで財団の規模が倍増します。
大きく5つの領域への活動を行っています。
Global Development:約2,800億円
災害対応、ワクチン、ポリオGlobal Health:約2400億円
HIVや結核、下痢、肺炎、マラリアなどの感染症、ヘルステクノロジーGlobal Growth & Opportunity:約1,100億円
農業開発、貧困層向け金融サービス、教育プログラム、栄養、水や衛生Gender Equality:約1,100億円
デジタル接続、家族計画、母子保健、女性リーダーシップ、女性の経済的エンパワーメントUnited States Program:約1,000億円
データ、初期解決学習、貧困解消、高等学校までの教育など
B&MGFの活動は幅広く、サイズも桁違いに大きい慈善活動となりますが、「健康 × テクノロジー × アフリカや南アジア」のキーワードは、Babylon Healthが事業を展開していくものと完全一致するものです。
だからこそBabylon Healthが英国NHSとの取り組みで大きなインパクトを感じたゲイツ氏が、アフリカの国で健康 × テクノロジーで社会課題を解決できるのではないかと導いたのではと推察されます。
6.発展途上国のデジタルヘルスのあり方
さてBabylon Healthが2023年8月に米国事業に関して破産Chapter 7 となったことで、ルワンダ国民の20%が利用しているBabylがどうなるのかが注目されています。現時点では最悪のケースをどうするのかを話し合っているようです。
その上で、Babylの展開から発展途上国のデジタルヘルスのあり方について私見を述べます。
発展途上国における医療体制構築は、「ひと・もの・金・情報」すべてが足りていない状況にあります。しかし、この中でもスマートフォンを中心に情報へのアクセス格差が縮小していく中で、テクノロジーを活用して今あるリソースとしての「ひと・もの・金」をいかに効率良く活用できるのかという着目点は、理想の姿として感動します。
ルワンダの奇跡と呼ばれるくらいに経済発展した国で発生した「混乱と混沌とするヘルスケアシステムにおける非効率性を効率よく医療資源を活用して解消する」ことで、全体の医療費削減が実現できないかという挑戦だったとも言えます。
ヘルスケアにおける専門家などの人材育成、さらに制度や体制づくりには、膨大な時間がかかります。一方で、経済発展スピードが著しい中で、国民が安全で健康的な状況になることで成長が未来に向けて安定的に実現できるようになります。そのような期待を考えれば、AI技術を中心としたヘルスケアテクノロジーを海外から輸入して、それを医療制度へ統合していくと考えたことは妥当なようにも思えます。特に、インフラが整っていない地方に住んでいる人々にとって、医療資源が乏しく、移動時間も長いような状況においてはニーズがマッチしていると言えるでしょう。
現時点において、Babyl導入前後の医療の質、コストについて情報がないために良いのかわかりませんが、スキームとしては個人的にとても応援したくなるものです。
7.最後に
メリンダ・ゲイツがインスタグラムでルワンダの医師にインタビューしている動画がとても夢ありますね。
そして、Babylon Health のCEOであるAli Parsaのルワンダでの成果と他の国への展開のコメントを聴いて終わりにします。次回は、いよいよアメリカ市場におけるBabylon Healthの躍進についてです。
【計4話】Babylon Healthとデジタルヘルスケア〜
Ⅰ. イギリスNHSとともに事業のゼロイチを作り、基盤を構築
Ⅱ. アフリカを中心に発展途上国へ事業を展開
Ⅲ. 急激な事業成長を遂げる米国市場での展開(VBC)
Ⅳ. AI問診技術の現状とBabylon Healthの今