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iCAREの山田です。
今日は「ことばの日」です。
他のひとにとっては、それほど重要じゃないって思ったひと言が、実は受け取った側にとってはとても嬉しかったり、逆に悲しかったりすることっていっぱいありますよね。


私がiCAREを起業した当時、大学院の先輩に相談したことがありました。彼は、働くひとの健康領域で挑戦することに対して、「絶対に成功しないからやめたほうがいいよ」と。おそらく、彼は「山田が成功しない」という意味ではなく、「この業界は難しい」という意味で話していたのだろうと今では思いますが、当時はその言葉にとても悲しい強い言葉だと感じました。

私自身がそんな経験をしたため、「こんな挑戦したいんだ」という人に出会うと、つい反射的に「良いじゃん。反対されても絶対にやっちゃいなよ」と言ってしまいます。挑戦にワクワクしている人に、冷水でかけるのではなく、失敗しても楽しいし、学ぶことがたくさんあるということを知ってもらいたいのです。どんな言葉をかけるのか、言葉ってパワーありますよね。

今日は、そんな話ではなく、前回と同様に私の心に残る言葉を紹介します。

週1日9年間総合内科・心療内科の外来

私は3-4年前に臨床を完全に辞めましたが、慶応MBAの2年目から心療内科を学びたくて、週に1日大船にあるクリニックで外来を始めました。1日に50-100人の患者を私一人で診ることも多く、本当に多くの適応障害やうつ病の方々を診させていただきました。さらに、80歳以上のご高齢の方々も多く診てました。今日は、そんな中でひとりの女性患者さんにまつわる心に残った言葉を共有します。

当時、78歳の女性患者さん(Aさん)が私の外来に3年くらい全般性不安障害で通院されていました。全般性不安障害とは、いろいろなことに対して漠然とした不安を感じるという病気です。Aさんはひとりで住んでおり、子供もおらず独身でした。Aさんは、2ヶ月に1回来るたびに、他愛もない話をして楽しんでお薬をもらって帰っていきました。待ち時間が1時間半になっても、不満を言わずに忍耐強く待って、嬉しそうに笑顔で外来に入ってきてくれる記憶があります。

ある時、彼女が空咳が止まらないとおっしゃりました。カルテを確認すると、「心因性咳嗽(がいそう)」という診断が数年に一度繰り返しついており、今回も同様の症状だったのかなと思い、不安を和らげるための話やお薬の微調整を行いましたが、改善されませんでした。しばらく経って足が浮腫んでいるとのことで、思い当たる節がありました。横になると咳がひどくなりますか?と心不全を疑い、血液検査を行いました。背中から聞こえるプツプツという肺に水がたまった音や下肢の浮腫、さらに心不全の血液バイオマーカーの上昇から、慢性心不全と診断し、近くの総合病院に紹介しました。Aさんは、「ちょっと行ってきますね」と言って、私の外来から病院へ向かわれました。


約1ヶ月後、私の外来に、高齢の女性が新規診察で来院されました。他の患者さんから紹介されたのか、それともHPを見られて私を指名したのかわからない中で、彼女と話を始めました。一般的な生活習慣病に関する質問とそれを説明する時間が10分くらいあったと思います。すると、彼女が言いました。

「あの~、Aって知っていますか?」

「Aさん!」と私は驚きました。1ヶ月前に私が総合病院に紹介した心不全の診断を受けた患者さんだったからです。彼女は続けて言いました。

「Aは、私の妹なんです」

私はさらに驚きました。「えっ!?」と言って、「そうでしたか。1ヶ月前に病院に紹介したばかりで、Aさんはお元気ですか?」と尋ねました。

彼女は答えました。「妹は、実は1週間前に病院で亡くなったのです」と。

私は混乱しました。心不全でこんなに短期間で亡くなることはあり得ないと思いました。そして彼女が続けて言ったのです。「妹は、緊急入院となり、末期の肺がんと診断されました」と。私は思い返しながら、これまで行っていなかった問診や検査が頭を巡り、誤診をしてしまったことに動揺しました。すぐに謝罪し、「申し訳ありませんでした。もしかしたら私が見逃してしまったのかもしれません」とAさんのお姉さんに謝りました。

しかし、彼女はしっかりとした口調で言いました。「今日は、先生を責めたり、訴えるためにここに来たわけではありません。妹がこの外来で先生と話したことを楽しそうに電話で話してくれたので、どんな先生なのか知りたかったし、妹のことを報告したかったから来たんです。妹は病院で亡くなった後、家に行ったらとても整理されていて、もしかしたら彼女は自分が死ぬことを予感していたのかもしれません」と。

私は動揺しながらも、彼女の言葉に安心感が押し寄せながら、少し涙ぐみ「Aさんの病気をもっと早く見つけることができればよかったです。力不足で申し訳ありませんでした」と伝えました。

Aさんのお姉さんは「先生、そんなに謝らないでください。妹がいつも楽しそうにしていた先生に会えて、こうして報告できたことが良かったです。先生もお元気でいてくださいね」と言って、外来の部屋を出て行きました。


ひとの想いを感じながら仕事を全うする

Aさんの出来事を思い出すたびに、私はプロとしての仕事を全うするとは何かを考えさせられます。当然、いちプロフェショナルな医師として、病気を見逃さないために今後はどうするのかといったこともありますが、いつの間にか目の前の病気だけを診てしまうことが仕事になってしまうことってあったりします。

医師として「病気を診るのではなく、人を診る」を実感した瞬間でもあります。医師以外の仕事も同じです。「業務をやり遂げるだけでなく、それに関わる人とその想いを感じながらやる」ことが仕事なのだと思います。業務を達成することが目的になってしまうのではなく、関わるひとの立場になって考えることが重要です。実際にやっている人とやらない人とでは、最終的な成果や納得感に大きな差が出ます。

この5年以上前のAさんの出来事とAさんのお姉さんからの言葉を思い返すたびに、私はプロとしての仕事を全うすることの重要性を確信する一方で、仕事は人々との関わりを通じて成し遂げられるものだということを再認識しています。


#忘れられないことば #ことばの日



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