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円形闘技場にいた我我は、何者だったのか

円形闘技場にいた我我は、何者だったのか
助命なしの興行にヒトが集まらないわけがない
テッセラは瞬時に売り切れ高値がつき
聳え揺れる塔の席を影のない群衆が埋めた

角笛の誘惑を邪な地唸りが搔き消し
脚絆を巻き口に砂を詰めた男が曳きだされ
整列した鉄砲隊は一斉に水鉄砲をうった
スノードロップが一輪、しぶきをあげてうつむく

露払いがひときわ声をはりあげ、女が進む
大きな腹には向日葵が咲き
あらたに渡された銃で隊員は太鼓をうち鳴らした
射しこむ陽に向日葵が二輪、かおをあげる

飽きた観衆は、花咲く男女の横に兄と妹をみた
空が青いねと仰むき手をにぎり
けむりがながれ
ふたりの肩には立ちあがる空色の羽がかがやく

澄んだ陽の下にたつ四つの脈打つ氷像
滴る雫が低きを探し流れて行く

書記の私は尋ねた「今日、我我は何を撃ったのか」
隊長は「実行すべきものだ」と言い出口へむかった
熱狂なき歓声とボタンの乱打音が闘技場に放射される
天空席に燻る一すじは、涙だったのかもしれない

融氷は流れを集めて朱殷い川となり奈落を満たし
溺れた猛獣使いが扉を開けた途端
三頭の獅子が地上へ跳びだし
すべてを喰いつくした 私も喰われた

光も底もない腹の中で
今日のできごとを記そうとしているが
溶けた記憶をたどることは もう難しい
木剣拝受者はなく 死神の小槌が額を貫いて舞う

朱砂に埋まる五つの箱 白燕が咥え天へ去る
夢なのか いつ目覚めるのか
暴れる隊長の軍靴が私の顔を蹴り
折れた前歯 幽門に消えた

それも夢なのか なぜこうなったのか 救われるのか
消化されていく 私 もう 何も 
わからな く なっ た

【改AN0WDB0】

【御礼】
本詩を、『詩と思想詩人集2021』(詩と思想編集委員会/編著、土曜美術社出版販売 、2021年8月31日刊行)に寄稿しました。掲載のお誘い、編集・著者校正、掲載本ご送付など、あらためて関係者皆様のご支援・ご協力に心より御礼申し上げます。誠にありがとうございました。

同誌は、以下にてお求めいただけます。 
https://userweb.vc-net.ne.jp/doyobi/sitosisou.html

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