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世界の本質はアワなのかもしれません


世界の本質はアワなのかもしれません
粘度の高い淀みほど円く大きく膨れます
いい過ぎました 最近酔いがはやいのです
私のアワは細胞に寄生した麦酒の一人口
r>gの先にある金満アワにも溺れます
あなたのアワはいかがでしょうか

   満員電車には乗りましたか
私は毎週少なくとも三人の 喉を掻き毟り
吹きあげるアワが詠う哀歌に心焼かれます
   安全ゲートは開きましたか
腕を振りまわす口から噴射されたアワで
部屋の中はアワだらけ おおアワてです
   携帯に着信はありましたか
心に届きましたか それともアワでしたか
返信する指先に 曇るアワはありませんか

瞑った瞼に モリアオガエルが美しい
池面に映る樹の上で雌雄が掻き回す希望は
ココロココロと啼く純白のアワです

樹樹の清流が流れつく 街の高い堤防で
黒いアワとアワアワが ごんろごろろと
愛のうたのメモリを上書きします

そう 人間ドックの結果が戻ってきました
消アワ剤をのんだ胃の中は滅茶苦茶でした
  「流れに浮かぶうたかたは」
私はぷちんと死ぬのでしょうか

昨年突然倒れた同僚の半分開いた眦のアワ
彼はそれに溶け込んで稚児へ化生しました

マルチ宇宙も真空にうまれる一瞬の アワ
アワは陽の光球面を攪拌し
星間を放浪する意思の足もとを照らします

涸れた川に雨が落ち はじけ ました
どうして私のいのちはこんなにもいま
アワについて考えるのでしょう

【ANONJB1】

注1:r>gとは資本収益率(r)が経済成長率(g)を上回ることをいう(参考:Thomas Piketty, ”Capital in the Twenty-First Century”, 2013.)
注2:第5連の引喩またはオマージュである「流れに浮かぶうたかたは」のオリジナルは以下です。
 「行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに 浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。」(鴨長明、『方丈記』、青空文庫:流布本系)
 なお、青空文庫の底本は、『國文大觀 9 日記草子部』(板倉屋書房、1903年)の541頁以降。全文は以下からPDFでダウンロード可能です。
 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/991361/2

【御礼】『詩と思想』(土曜美術社出版販売)2021年5月号の読者投稿にて、北原千代氏より入選をいただきました。心より御礼申し上げます。

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