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233階の釦を押して奥に立ち

233階の釦を押し て奥に立ち
閉まりかけた扉がふ たたび開き
不機嫌な乗客はさら に四分の一歩下がり
のってきたのは息を 切らせた風
扉は閉じ籠は留まり 昇降路は墜ちる

鼻息をとめてみあげ た天井は鏡面で
頭頂に混じる足の裏 にあいた円錐は
砂時計のくびれに続 き
流砂にのまれた私が 悲鳴をあげたのは
天地が逆となったと き

砂の上にでた昇降路 は白炎で目眩ましし
こじあけた中空をキ ャビンは浮き漂い
黒雲の巻上機は短絡 するたび発雷し
雲河の乱流に面や線 、点が明滅する
浮沈の軌跡は空の迷 路をあらわにする

息を吹きかけ歌曲集 をめくり
ミラノヴィッチ悲歌 の一節をうたう
私の隣で万華鏡を回 す彼女は
割れた天蓋の玻璃片 で瞳孔をきり
世界がいたいと休符 を抱き

象の一撃で中層から 崩壊した摩天楼の
地上に降り散る混凝 土塊に腰をかけ
大地におりた彼女は 黄煙をはらい
人人が掬い飲む空の あかい水溜りに
おちた彗星は叫びを あげ星に口は開き

象が踏みつけた菩提 樹

傷つき香る葉の一枚 に
歴史をひとつ記憶す る

ゴンドラはのぼり
襟足から這いでる蟲 蟲は糸を吐き
吊りあげられた繰人 形は踊りだし
浮いた足で泳ぐ私は 1階の釦を蹴った

【AN0TYB1】


注:本作品は、Branko Milanovic氏の次の著作に着想を得ています。"Global Inequality: A New Approach for the Age of Globalization," 2016; "Worlds Apart: Measuring International and Global Inequality," 2005.

【御礼】『詩と思想』(土曜美術社出版販売)2021年8月号の読者投稿にて、北原千代氏より選外佳作をいただきました。心より御礼申し上げます。

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