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飽食した蜘蛛と法悦

飽喰した蜘蛛が 空を蓋い
げっぷする糸に 包まれた
喰べかすは夢見 心地の蛋白質は
糸の先で宙にゆ れ揺れる
吸血される法悦 に

いつから空に吊 られているのか
どうでもよいで はないですか
この浮遊感はた まらない
繭の中にある愉 悦
自慰の最中に声 はかけないで

あ あ

もっと包んで
もっと吸ってく ださい
とけていく一瞬 の幻影が
永遠のいのちよ りも愛おしい
きっとこのとき のために産まれてきたのでしょう

8本の脚が回す あかいジャグリングで、遊園地は廻転をはじめ
恋人の観覧車は 大地と空と闇の糸を巻きとり、軸から外れて蜘蛛の巣で
                               跳ね
親指によって止 めを刺された剣闘士は、発条で上下運動する空の重りと
                               なり
唇の毒を吸った マリオネットは、天の裂目に続くペンローズの踊場で舞い
妖精はいないと の一瞥で、ピクシいち 族はとけて地に滲むアイスクリーム
                              となる

あ あ なぜ

…1、 2…13  …987、1597…10946… 
宙に浮いた繭固 有の振動
算盤の館に刻ま れた無限数列
支配する2進法 の強欲は
道具が操り人と なる赤鼻の道化芝居

それは蜘蛛の戦 略
冬を省略したス パイダーイヤーの環境適応
蜜がしみでる繭 壺と壁に飾られたよく切れる剣
怒りにふるえる かなしい心に注がれた香油の共振する猥雑な扇動
おおそらごとの かたちなり

あ あ しかし

繭と繭は争って 落ちて腐って膿だらけ
糸のさきの空無 に項垂れて黒い血の上に嘔吐する(その崩れた半球で
                             ある私)
この鼻をつくひ りひりする腐腋は蜘蛛の求めるもの
とても美味しい サピエンスサピエンスカクテルへの醇化
子蜘蛛よ、この 美酒を召しあがれ

よく喰べよく学 び
遠くへ飛びなさ い
蜘蛛の世界をひ ろげるのです
糸と繭で捕囚す るのです
悦びをあたえ、 鬱血が快感となるほど賢くヒッと締めあげ吸いつくすの
                               です

あ あ 遂にラッダイト運動は起きなかった

【改AN0KFB1】

【御礼】
 第17回『文芸思潮・現代詩賞』(文芸思潮社)にて、本詩を含む3篇(「きんじ、する」「顔認証訴訟」「飽食する蜘蛛と法悦」)について、五十嵐勉氏、渡辺みえこ氏より最優秀賞いただきました。心より御礼申し上げます。

【原注】noteの制限にかかわる表記等について注記しました。
・行の文字数制限のため、以下で行を折っていますが、正しくは一行に収まるものです。連の行数は、5-5-1の繰り返しです。
第5連
 恋人の観覧車は 大地と空と闇の糸を巻きとり、軸から外れて蜘蛛の巣で跳ね
 親指によって止 めを刺された剣闘士は、発条で上下運動する空の重りとなり
 妖精はいないと の一瞥で、ピクシ一族はとけて地に滲むアイスクリームとなる
第10連
 糸のさきの空無 に項垂れて黒い血の上に嘔吐する(その崩れた半球である私)
第11連
 悦びをあたえ、 鬱血が快感となるほど賢くヒッと締めあげ吸いつくすのです
・第5連 ルビ(一族の「いち」)は、縦書では不要ですが、横書のnoteでは判別しにくいため便宜的に加えたものです。
・第9連 「おおそらごとの かたちなり」は以下の詩的な引喩です:
「よしあしの文字をもしらぬひとはみな まことのこころなりけるを 善悪の字しりがおは おおそらごとのかたちなり」(親鸞:『正像末和讃』より)。「よろずのこと、みなもって、そらごとたわごと、まことあることなきに、ただ念仏のみぞまことにておわします」(親鸞:『歎異抄』より)。

(参考)縦書き

イメージ 蜘蛛1
イメージ 蜘蛛2


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