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村上春樹ライブラリーと、彼から受けた影響について

今年10月1日にオープンした「村上春樹ライブラリー(早稲田大学国際文学館)」に早速行ってきた。

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早稲田大学のキャンパス内にあり、設計は新国立競技場も手掛けた世界的建築家の隈研吾さん。館内は素晴らしい空間だった。

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ここには、刊行された村上春樹作品がすべて(日本語・日本語以外のものをあわせて)所蔵されている。幅広い関連書とあわせて、閲覧スペースで読める蔵書が3000冊あるという。

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ちゃんと村上春樹の全著作が並ぶコーナーも用意されているので、ファンにとっては垂涎もの。彼の作品に限らず、ジャンルごとに様々な良書が並び、本が好きな人なら誰でも楽しめる空間だった。こんな施設を自由に使えて、学生たちが羨ましい。

公式サイトから予約すれば誰でも無料で入れる施設なので、気になる方はぜひ行ってみてほしい(ただし、人気のためしばらくは予約で埋まっているようだ)。

これまでに読んだ数々の作品の表紙を眺めながら、ぼくは村上春樹から受けた影響について、振り返ってみたい気持ちになった。

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彼の作品を読む最初のきっかけは、浪人時代にあった。予備校の現代文の先生が、「試験が終わり、大学が始まるまでの今の期間は、本を読むといいよ」とおすすめの本を何冊か教えてくれた。

そのなかで、特におもしろいと紹介してくれたのが、村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』という小説だった。

ぼくはそのときまで、村上春樹のことをまったく知らなかった。小説自体、ろくに読んだことがなかったが、「そんなにおもしろいという本はどんな内容なのだろう?」と気になり、読んでみることにした。そしたら、止まらなくなるほどのめり込んで、没頭した。文庫本で3冊ある長編にもかかわらず、あっという間に読んでしまった。すごく幸せな読書体験だった。

それを皮切りに、大学に入ってから『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』『ダンス・ダンス・ダンス』『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』『国境の南、太陽の西』『ノルウェイの森』などを読んでいった。(ちなみに一番好きなのは『ダンス・ダンス・ダンス』

これらの作品を読んでいた当時は、ぼくはまだブログすら書いていなかったし、将来自分がライターになりたいなどとはまったく思っていなかった。それでも、村上春樹の比喩表現にはたびたび度肝を抜かれた。たとえばこんなようなものだ。

「空の端の方に一筋青い輪郭があらわれ、それが髪に滲むインクのようにゆっくりとまわりに広がっていった。それは世界じゅうの青という青を集めて、そのなかから誰が見ても青だというものだけを抜き出してひとつにしたような青だった」(『国境の南、太陽の西』より)

ぼくは彼の美しい比喩表現を見つけては、いくつかノートに書き留めていたことを覚えている。それくらい、彼の表現にうっとりしていた。

物語の内容や設定は、正直言ってほとんど覚えていない。今でも覚えているのは、ノモンハンの皮剥ぎの描写(読んだ人は軽くトラウマものかもしれない)と、登場人物以外の人の気配がまるで感じられないこと、物語の舞台が特定しづらいこと(無国籍的)など。読んでいる最中は夢中になるが、しばらくするとどんな話だったか忘れてしまうことが多い(ぼくだけか?)。

村上春樹の文章は長くてもスラスラと読めるリズム感の良さがあり、ぼくが文章を書くうえで、彼の文体をたくさん吸収できたことはとてもプラスになったのではないかと感じている。彼はリズムをとても大切にしている。そのあたり、彼のユニクロでのインタビュー記事も参考になると思う。

社会人になってからは会社の仕事で忙しく、なかなかまとまった時間が取れなかったため、村上春樹に限らず小説はほとんど読まなかった。ただ、彼のエッセイは読んだ。『走ることについて語るときに僕の語ること』はある意味、ぼくがフリーランスになりたいと思うきっかけを作ってくれた本だ。

毎日ランニングをして、原稿を書くという生活。とくに、ハワイでそんな生活をしている描写を読んで、いつかぼくも彼のように生きてみたいという想いが強くなった。

こうして振り返ってみて、小説にしろエッセイにしろ、その瞬間その瞬間はただ村上作品を楽しんでいただけだが、ぼくが「フリーライター」になるまでの過程で、彼の文章から受けた影響の大きさを感じている。

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