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パエリアの奇跡
「スペインと言えば、パエリアだ」
初めてスペインを訪れた10年前の夏、きっと旅行者なら誰もが思うのと同じように、ぼくも思った。
入国して3日経つというのに、まだ本場のパエリアを食べていない。
今夜こそ食べようと、バレンシアの街のレストランに飛び込んだ。
だが、ウエイトレスに注文すると、「パエリアは2人前からしか作れないのよ」と言う。受け入れ難かったが、どうやら本当にそういうものらしい。ぼくは渋々、パスタを頼んだ。
(スペインに来てパスタを食べるなんてなぁ…)
残念に思いながら周りを見渡していると、ふと隣に座っているおじさんが目に止まった。
!!!!?
(このおじさんはひとりなのに、パエリアを食べているではないか! 何故だ!? パエリアは2人前からではなかったのか!?)
ぼくは、思わず話しかけてしまった。
「すみません、パエリアって2人前からじゃないと注文できないと聞いたんですが」
「そうだよ」
「え? でも、おじさんひとりですよね?」
「あぁ、だが食べきれないことはないさ」
「え?」
見ると、大きな鉄鍋に盛られたパエリアを間もなく完食するところだった。なるほど・・・2人分をひとりで食べていたのか。
その手があったか、と思ったが、さすがにこんな量、ぼくには食べられそうになかった。
「君は何を注文したんだい?」
「パスタです」
「おいおい、スペインに来てパスタか!はっはっは!」
「……」
そんな調子で仲良くなったステファノさん。実はイタリア人で、仕事の出張でバレンシアに来ていたそうだ。
「そうか、君は自転車でヨーロッパを旅しているのか。これからイタリアへ向かうのか?」
「はい。南フランスを通ってイタリアへ行きます。ステファノさんはイタリアのどこに住んでいるんですか?」
「モデナという街さ」
「あ、知ってます。ぼくはモデナの近くのボローニャに寄るつもりです」
「そうか。ではボローニャに着いたら、私に連絡しなさい」
彼はそう言うと、電話番号の書かれた小さな紙切れをぼくに渡して、去って行った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
それから2週間後、ぼくは地中海沿いにフランス、モナコを走り、イタリアに入った。
ボローニャの広場に着くと、見覚えのある人物が向こうからやってきた。
「ヨータ、よく来たな!はっはっは!」
ステファノさんは彼の娘と友人、さらに日本人の知り合いの方まで通訳として連れてきてくれ、ガイドブックに載っていない、地元の人しか知らないような人気のレストランへ連れて行ってくれた。そこで食べたポルチーニ茸のパスタのおいしさは、今でも忘れられない。
この広い地球で、スペインで初めて出会った人と、2週間後に今度はイタリアで再会し、ご飯をご馳走してもらったのだ。奇跡としか思えなかった。
「人間は一生のうち、逢うべき人には必ず逢える。しかも一瞬早過ぎず、一瞬遅すぎない時に」
以前何かで読んだ、この言葉を実感した。きっと旅に限ったことではないだろうが、しかし旅では出会いがより浮き彫りになる。
あのとき、レストランで話しかけずにいたら、何も起きなかったのだから。
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