見出し画像

「中村さん連れてって」

「中村さん、この街は何回目なの?」

「2回目です! え、お手洗いですか? あちらの教会の中にありますよ。チップは50セントです!」

そんなことを言いながら、初めて訪れるオランダの街々をご案内する日々。

お客さんを不安にさせないよう、「初めてです」とは答えない。その代わり、何度も来たことがあるかのごとく、街の勉強をしておく。聞かれそうな質問に対する回答を、あらかじめ準備しておく。

部屋に戻れば明日訪れる街の予習、自由時間でご案内する美術館やレストランの予約・・・、仕事は尽きない。ひとりひとりのご要望を叶えるのが添乗員(ツアコン)の仕事なのだが、正直このツアー、ガイドさんもいないし全部自分で街を案内するから、本当にしんどかった!

「国立美術館に行きたい」
「アンネフランクの家に行きたい」
「中村さん連れてって」
「美術館は昔行ったからいい。スーパー行きたい」
「中村さん連れてって」
「先に何か食べたい」
「ミッフィー買いたい」
「ポストどこかしら」
「中村さん連れてって」

ぼくの身体はひとつだー!

一度に言わないでくれ!!!!ヽ(;▽;)ノ

予約してたタクシーが到着したと思ったら、ムスリム(イスラム教徒)の運転手さんは「礼拝の時間だから」と言ってぼくらを乗せずにモスクに行っちゃうし!!!!ビックリした!!旅はいつだってハプニングだらけだ。

でも、嬉しいこともあった。

ゴーダの街のチーズ屋さんで必死にお客さんにチーズのことを説明していたら、みんな大満足でたくさんチーズを買っていった。最後にぼくもお土産に買おうとレジへ行くと、「5ユーロ」と言われて。

「50ユーロの間違いでしょ?」

「君のおかげでたくさんチーズが売れたから、サービスだよ。みんなには内緒だよ」

「おー!サンキュー!」

大変な日々のなかにも小さな喜びや感動がある。明日も頑張ろう・・・!

「お待たせしました! さあ、ホテルへ戻りましょうか」

温かい気持ちに包まれて、駅への帰り道を歩いた。

お読みいただきありがとうございます! 記事のシェアやサポートをしていただけたら嬉しいです! 執筆時のスタバ代に使わせていただきます。