見出し画像

人と会わない生活は、「欲望」を減退させる

「自分の意思で人との接触を断つような生活をしていると、欲望のレベルが下がっていく」という精神科医の話を聞いて、思わずハッとした。まさに、ここ数年の自分のことじゃないか。なおさら気をつけなきゃなと感じるとともに、漠然と抱いていたいろいろな疑問が氷解した。

この話が書かれていたのは、『なぜ人に会うのはつらいのか』という本。作家の佐藤優さんと精神科医の斎藤環さんが、コロナ禍で改めて突きつけられた「人と会うことの意味」などをテーマに対談している。

人に会いたい、でも人と会うのは辛さもある。相反する思いを抱えていたぼくは、直球のタイトルに惹かれてつい手に取った。そしたら期待以上のことが書いてあった。

「ひきこもりの人は、欲望がどんどん低下していく、という事実があるんですよ。(中略)私は、ひきこもりの回復の指標は消費活動をどれだけするかだと考えているのですが、たいていのひきこもりの人は一年間に10万円も使わないですね」

自分の場合、さすがにここまで低くないが、しかしここ数年、モノをほとんど買わないし、外食も減るしで、使うお金の量はずいぶん減った。たくさん稼ぐに越したことはないけど、月20万円あれば一応は暮らしていけるな、という感覚がある。今年は国内旅行をたくさんしたからそこで結構お金を使った。でも旅行の費用を除けば、かなり低コストな生活を続けていた。

しかしその「欲望の低い理由」が、人との接触が減り、「ひとりでいることが当たり前」になったことに起因していたとは、思いもよらなかった。

欲望というのは、自分の内から沸き起こるものだと思っていた。しかし、精神科医の斎藤さんによれば、どうやら違うらしい。欲望や意欲は実は他者が起源で、他者から供給し続けてもらわないと維持できないものだという。人は、人の欲しがるものを自分も欲しいと思う生き物。だから他者との関係を切ると、欲望が低下してくる。

ぼくは「ひとりで過ごす時間」が長くなるにつれて、知らず知らずのうちに、欲望の低い人間になっていたのだ。なんと恐ろしいことだ。

人と会って、欲望を高めたい。そしたらバイタリティーが生まれて、人生をグイグイ駆動させられるはずだから。

その観点から、「キャリアアップしたければ、ひとりで勉強するよりも、人と会え」という話は、理に適っている。会社員時代、プライベートで「好きなことを仕事にしている人」たちにインタビューしまくっていたら、なぜかどんどん自信がみなぎってきて、パワフルで行動的になっていった。そして社内でもより積極的に行動できるようになって、それが結果にも表れるようになった。

自分でもびっくりするくらいの性格の変化に、「あれはどうしてだったんだろう?」と不思議に思っていたのだが、この「欲望」の話で説明ができそうだ。ぼくが社外で会っていた人たちは、ある意味で欲望レベルの高い人たちだった。バイタリティーが高く、目がキラキラ(あるいはギラギラ)していた。「これがやりたい」と思ったら、実現に向けて行動するタイプの人たちだった。そんな人たちに毎週のように会っていたから、無意識のうちに感応して、自分も変化していったのだろう。ぼくはもともと、彼ら彼女らから知識や情報、考え方のヒントをもらいたくてインタビューしていたのだが、得ていたのはそれだけではなかった。人間そのものが秘めている「欲望」や「エネルギー」まで、受け取っていた気がする。あの時期、「なぜか人に会えば会うほど元気になっていく」と感じていたのは、決して間違いではなかったのだろう。リモートにはない、対面の価値だ。

かつて思い描いてた自分の「生き方・あり方」

欲望レベルの高まった当時のぼくは、「フリーランスになったらあんなことがやりたい、こんなことがやりたい」と妄想する日々だった。朝5時半に起きて多摩川を10kmランニングしてから会社へ行く、という習慣があったくらいバリバリしていた。インタビュー活動を始める前は、「フリーランスになれるだろうか」と不安でいっぱいだったのに、気付けば不安よりも自信の方が大きくなっていた。そして実際に独立して、アメリカ縦断自転車旅をはじめ、いろんな行動を起こせた。あれらは全部、「やってみたい!」という欲望がエンジンになっていた。

でもその後しばらくして、2019年に難病になり半年間引きこもり状態になった頃から、やはり欲望レベルは相当に低下したと感じる。ようやく病気から復活したと思ったら、今度はコロナ禍が始まった。気付けば「やりたいことってなんだろう」みたいなレベルまでバイタリティーは落ちていた。

今月から「雑談朝活」という習慣を始めた。たくさんの人と会って雑談するなかで、ぼくは早速元気を取り戻しつつある。

人と会うことで不確実性が高まる。「偶然の事故」から新しい発見や新たな展開が生まれる。このことを目的のひとつとして朝活を始めたけど、今回もうひとつ、大切な側面を見つけられた。

人は、人に会うことで欲望を維持できる。ひとりきりでは欲望を維持できない。だから、人に会い続けることでぼくはまた行動力を取り戻していけるはず。

欲望レベルやバイタリティーが高い人と会うことで、それだけ自分も感応するということは、待ちの姿勢ではなく、自ら会いたい人に会いに行くことも大切な行為になる。おとなしく30代を過ごしてきたから、そろそろバリバリした姿も見せたい。少なくともそういう意欲が再び湧いてきただけでも、意識変革と朝活による成果と言えるだろう。

※音声配信でもこのテーマで話してみました。

いつもお読みいただきありがとうございます! よろしければ、記事のシェアやサポートをしていただけたら嬉しいです! 執筆時のコーヒー代に使わせていただきます。