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失敗の価値

「私も協賛を集めて○○したいのですが、中村さんはどのように企業からの協賛を獲得したのでしょうか?アドバイスをいただけないでしょうか?」

2010年に、15社の企業と約300名の個人から協賛を集め、ヨーロッパ自転車旅を行った。

そのことがきっかけで、これまで20〜30人くらいの方々から相談を受けた。近年はクラウドファンディングが一般的になったからこうした相談は減ったが、数年前まではよく旅好きの大学生などが相談にやってきた。

「とりあえず、企業に飛び込み営業をしてみましょう。ぼくの協賛集めも、そこから始まりました。頭でどれだけ考えても、実際に自分の足で動いてみないことには、何も起こりません」

と、ぼくはよく答えていた。

すると、多くの人は「いや、そこまでするくらいなら・・・」と諦めてしまった。なかには協賛を集めることに対して軽く考えている人もいたので、ぼくは相手の本気度を試す意味もあって、「飛び込み営業してみましょう」と言っていた。

自分のやりたい旅や企画のために、人様からお金を出してもらうというのは、甘いことではないのだ。自分が社会人になり、お金を稼ぐことの大変さを知ったとき、そのことを痛感した。ぼくは当時、「『若者の海外旅行離れ』を少しでも食い止めたい」という想いを掲げて活動していたけど、それでも「2ちゃんねる」で叩かれることがあったし、旅が始まってから責任の重さやプレッシャーの大きさに何度も押しつぶされそうになった。

ぼくにアドバイスを求めてやってきた人たちには、まずそのことを伝え、「決して楽ではないですよ。それでもなお、協賛を集めたいですか?」と聞いた。

その質問をくぐり抜けた一部の人は、実際に飛び込み営業にチャレンジした。ぼくも初めてやったときは本当に緊張したし怖かったから、「偉い、よく頑張った!」と言葉をかけた。

しかし、その人たちからの結果報告は決まってこうだった。

「飛び込みで行ってみましたが、ほとんど話を聞いてもらませんでした。聞いてもらえたとしても、協賛にはほど遠いです。やっぱりダメでした」

「いやいや、ダメじゃないんだよ」

「え?」

「せっかくの貴重な失敗、価値に変えなきゃもったいないよ」

実はぼくが企業に飛び込み営業したときも、資金を提供していただけたことはほとんどなかった。サングラスなど物資を提供してくださった企業は一部あったけど、それも「企業としての正式な協賛」というよりは、「その企業に勤めている方の個人的な応援」が大半だった。

要するに、ぼくの飛び込み営業は、表面だけを見ればほとんど失敗していた。しかし、「ダメでした」で終わりにしなかった。ぼくは飛び込み営業の奮闘記や失敗談をブログでさらけ出したことで、読者からの「共感」という価値に変えることができた。

「マクドナルドの本社に行ったら警備員さんに止められて、『アポなしじゃダメです』と言われたけど、ぼくは無知で、アポの意味すらわからなかった。警備員さんに聞いたら『アポイントのことですよ。面会の約束を取り付けないとダメです』と教えてもらって、その場で代表番号にかけて精一杯伝えてみたけど、ダメだった。仕方ない、次だ!」

「今度はサイバーエージェントの本社に飛び込んで、担当者の方に、『自分のブログを、オフィシャルブログにしていただきたいのですが』と話したけど、『では、中村さんのブログをオフィシャルブログにすることで、弊社にはどんなメリットがありますか?』と聞き返され、何も考えていなかったからうまく答えられず、撃沈。そうか、協賛集めでは相手へのメリットを考えることが大切なのか。くそ〜、仕方ない!次だ!」

「自動車教習所の教官に、運転練習中に企画書を渡して協賛を募ったら、『てめえ!俺から金取ろうってか!』と大声で怒鳴られた」(でもこの教官は最後には協賛してくれた)

などなど、実際にやってみてどうだったか、包み隠さず書いた。そしたら、思わぬ奇跡が起きた。

「中村くん、メッチャ頑張ってるね!微力だけど、俺も協賛させてもらいます!」

「いつもその行動力に勇気をもらっています。協賛させてください」

読者の方々から、そういうメッセージを次から次へといただいて、結局個人の方々から多くの協賛をいただくことができた。その結果、旅の資金が集まった。

失敗には価値がある。だって、実際にお金に変わってしまったのだから。

「飛び込み営業をしてみたもののダメでした」と諦めかけていたその人は、失敗をマイナスのもの、恥ずかしいものと捉えてしまったのかもしれない。

でも、そうじゃない。自分の失敗を共有することで、それは価値に変わる。成功しようが失敗しようが、あらゆる経験には価値がある。

ブログで書くのが嫌なら、身近な人に話すのでもいい。「失敗した。恥ずかしい」と自分の中だけにしまいこんでいたら、せっかくの挑戦が、本当に「単なる失敗」で終わってしまう。もしかしたらあなたの起こしたアクションとその結果が、誰かの何かの役に立つかもしれないのに。

ぼくは彼に伝えた。

「あなたが勇気を振り絞って挑戦し、失敗したことで、多くの人に勇気や元気を与えることができるはずですよ。そして人を前向きにさせるということは、紛れもなく、『価値』にほかならないと思いますよ」

成功したのを人に伝えるのは誰でもやること。でも失敗だって伝えなきゃ損。挑戦し、失敗したことに対して、人は強く心を動かされ、その人を応援したくなるようにできている。

失敗談を語ったとき、相手は「あはは、バカだなあ」と笑っているだけかもしれない。

でも確実に、別れた後に「いや、でもあいつ頑張ってるな。俺も頑張らなきゃ」というエネルギーを人に与えている。そのことの価値を、もっと考えた方がいい。成功しても、失敗しても、あなたの起こした行動で、いずれにせよ誰かの役に立てるということを忘れないでほしい。

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