矢野顕子のアルバムで気に入っているもの
16歳の頃から聴き始めてだいたいざっくりほとんどのアルバムを聴いている。
最も気に入っているアルバムは「ホントのきもち」(2004年発売)と、「akiko -English version-」(2008年発売)だ。
「ホントのきもち」
「ホントのきもち」は、発売前に音楽ニュースサイトで「矢野顕子の新作、タイトルは『ホントのきもち』」「曲目:1.行かないで」と書いてあるのを見たとき、これは矢野顕子の新機軸だなと思って非常にわくわくして期待した。そういうタイトルのつけ方はしないような矢野顕子だと従来思っていたからであった。
聴いてみると「行かないで」における冒頭の「行かないで」というフレーズの持つ音楽的な瞬間風速がものすごかった。ああ、矢野顕子が行かないでって歌うとこんな風になるんだ、と思った。ちょっと誰にもまねできない。
個人的な事情があり、「行かないで」と5曲めの「おいてくよ」で落涙を禁じ得ない。リリース当時の唯一の慰めだったのがこのアルバムだった。だから思い入れがあるのかもしれない。
「Night Train Home」で、ピアノ弾き語りとrei harakamiによるトラックと、二つの演奏が収録されているのもとてもよかった。今になるとああ、ハラカミさんという人が確かに存在していたのだなと感じる。デッドセクション後の再点灯をこんな風に表現できる人は他にいないだろう。
このアルバムが出たあとの、くるりが出演した矢野顕子のコンサートを観にも行った。最後の最後に出演者がステージでおじぎをするとき、岸田繁が矢野顕子の肩に手を回して、矢野顕子が「びく」となっていたのが印象的だった。
「akiko -English version-」
「akiko -English version-」は、やはりリリース前にこのタイトルが発表されたとき「来たな」と思った。アルバムに自分の名を冠すというのはよほどのことだ。そしてプロデューサーにT ボーン バーネットを立てていることを知って、これはきっとなんかすごいものが来る、とわくわくして期待したのを覚えている。
どうしてお気に入りアルバムとして「akiko」ではなく「akiko -English version-」を挙げるのかというと、歌詞が英語版のほうが自然に聴こえる気がして好きだからだ。この英語版を聴いたあとに日本語版を聴くと少し調子が狂う気がする。
このアルバムにはロックの有名曲の2曲のカヴァーが収められている。そのうちの一つ、Whole Lotta Loveはわたしが14歳のときから聴いていた曲で、他に誰が演奏しているものも聴いたことがなかった。それが聴けるのも大きな楽しみだった。
当時、矢野顕子はインタヴューで、「最初に持っていったポップな感じの曲を聴かせたら、Tボーンはあまりいい顔をせず、全部書き直した」と言っていた。聴いてみると従来のほんわかした、にぎやかな感じの矢野顕子の音楽的な顔が鳴りを潜めている。でもこういう、シリアスで、アメリカに暮らしていることが随所ににじみでている感じの曲たちもすばらしい。このアルバムを聴いていっぺんでその世界が好きになった。
特に1曲目の「When I Die」がすばらしい。シンプルな歌詞、シンプルな旋律、そしてコーラス(サビ)のフレーズ、「I want to be forgiven」のもつ迫力がすごい。すごみと説得力がある。
ロックの有名曲のもう一つのカヴァー、それはドアーズのPeople Are Strangeだった。わたしはうっかりこのアルバムの演奏でこの曲を覚えてしまい、そしてそれを非常に気に入ったため、のちにドアーズのオリジナル録音を聴いてもなんだかしっくりこなくて慣れるのに非常に時間がかかってしまった。マーク・リーボウのギターと矢野顕子のピアノが本当にすばらしい。
このアルバムのメンバーにベーシストを加えた編成のコンサートを観に行った。ジェイ・ベルロウズがドラムを担当していて、彼は足首にもなにか音の鳴るものを巻いていた。彼のドラムのサウンドがとにかくすばらしかったのを覚えている。彼のドラムセットはちょっと見たことのないものだった。
「ホントのきもち」「akiko -English version-」と来て、次点がある。
次点「Go Girl」と「Home Girl Journey」
それは「Go Girl」(1999年発売)と「Home Girl Journey」(2000年発売)だ。
NHKの衛星放送で、矢野顕子がJoe’s Pubという会場で「Go Girl」のタイトル曲をピアノ弾き語りで演奏しているのを観て、これはただことではないと思ってすぐにCDを買った。リリースからだいぶ日が経っていたように思う。
「Home Girl Journey」が発売されてすぐ、フジテレビのミュージックフェアに矢野顕子が出演して「さすらい」をピアノ弾き語りで演奏した。その時の演奏はあきらかにアルバムに収録されているものよりすばらしかった。矢野顕子が演奏するとなると「観ておかなければ」と思うのはそういうことがとても多いからだ。
「Go Girl」も「Home Girl Journey」も、それぞれの曲の持つ力が大きい気がする。アルバムとしてトータルでどうというよりも、収録されている楽曲のどれもが印象深い。そして矢野顕子の肉体の力を感じる。フィジカルな感じがするのだ。
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