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恵梨香の幸せ(第36話)能力者

 小百合さんの病気だけど、

「康太、その特発なんちゃらって助からへんのか」

 面会は出来たけど絶対安静みたいな状態だったらしい。そりゃ、重症だよね。康太は、

「特発性血小板減少性紫斑病は血小板だけ減少する病気だけど・・・・・・」

 さすが康太は良く知ってるけど恵梨香の理解が付いて行かない。血小板って血を止めるのに大きな役割を果たす血液らしいけど、これが少なくなるから出血しやすくなるんだって。そんな病気があったよな。

「血友病とは違うよ。ついでに言えば白血病でもない」

 血小板だけが次々に壊されてしまう病気で良さそう。聞くからに怖そうな病気だけど、

「治療法もちゃんとあるし、一過性で治ることも多いんだよ。長引くタイプは厄介だけどね」
「小百合はどうなんだ」
「それはこれからだけど、ちゃんとコントロールさえすれば死ぬような病気じゃない」

 加島さんはホッとした顔になってたけど、

「主治医は女医さんみたいだけど、だいじょうぶか?」
「それは問題ない。上浦先生はボクも良く知ってる。腕は確かだよ」

 主治医は理恵先生だったんだ。そうなると康太と理恵先生は行き違いみたいになってたとか。ひょっとして康太の姿を見つけて会うのを避けて、恵梨香と自分の部屋にこもったとか。女心かな。そこから三人で昼食を取り、加島さんにマンションまで送ってもらって、

「ちょっと安心したで。ほなら、またな」

 康太と二人になってから、恵梨香は我慢できずに理恵先生から聞いたキーコさんの話をぶつけてみた。

「理恵もおしゃべりだな。でも、この際だから恵梨香も知っていても良いかもしれない」

 理恵先生も知らなかった馴れ初めだけど、なんと国勢調査だって言うから驚いた。キーコさんの家が国勢調査員に当たったそうだけど、康太は昼間は学校でいないから、キーコさんが母親の代わりに来たらしい。それにしても国勢調査って、下宿の学生までするのに感心したかな。

 提出期限が近づいてたのと、康太を次にいつ捕まえられるかわからないからだろうけど、その場での記入を求められたんだって。時刻は夕暮れ時だったらしけど、それなりに時間がかかるじゃない。そこでキーコさんが、

『中で待たせて頂いて良いですか』

 男の下宿に女を上げるのはどうかと思ったみたいだけど、外は結構な雨だったみたいで、康太は招き入れたんだって。その時は康太が記入して終わりぐらいだったそうだけど、数日後にキーコさんから電話があったそう。

「国勢調査票からメモしてたみたいだけど、ホンマは良くないよな」

 そしたらいきなり下宿に来たそう。そこであれこれ話が盛り上がっただけでなく、学校の帰りに寄ることが多くなったみたい。さすがに康太もキーコさんがまだ高校一年生だったし、理恵先生って恋人もいたから、妹ぐらいのつもりで接していたって言ってた。康太も一人っ子だから妹が欲しかったぐらいかもしれない。

 ここからがちょっとオカルト的な話になるけど、日月教ってのがある。大正時代ぐらいに出来た神道系の新興宗教だけど、教祖は女性で大山貞子って言うらしい。この教祖だけどいわゆる超能力者だったとなってるのよね。

 予言をしたり、人の心を読んだりらしいけど、とくに予言が良く当たり、信者が集まったみたい。日月教団は急速に大きくなり、今では高校もあるぐらい。ちなみに高校野球も強くて優勝経験もある。だから恵梨香も日月教団は名前ぐらいは知ってる。

 この日月教だけど二代目は教祖の息子が継いだのだけど、兵役に召集されて戦死してるのだよね。そういう時代だったとしか言いようがないけど、教団の教主が、いくらお国のためであっても戦死するのは教主として失格だの議論が起こったそう。日月教の教祖なら戦死は予知出来て回避できるはずぐらいかな。

 これも裏を返せば教団の利権を巡る争いだったそうで、結果だけ言えば教団から教祖の大山家の人間がすべて追い出されたんだって、これまた結果からだけど、大山家がいなくても、今の日月教団の隆盛はあるから、これはこれで良かったのかもしれない。

 ここでだけどキーコさんの母方の祖母も大山貞子の血を引いているらしくて、その手の能力があったらしい。キーコさんの母親にはなかったみたいだけどキーコさんにはあったんだって。

 キーコさんはタロット占いが出来るそうだけど。これが怖いぐらい当たったそう。ある時に友だちの運勢を占っていたら、死ぬ以外に考えられない結果が出たらしい。その場では誤魔化したそうだけど、翌日に交通事故で亡くなったそうなんだ。ショックを受けたキーコさんは他人を占うのはやめたとか。

 キーコさんの能力は予言とか予知だけじゃなかったみたいで、いわゆる霊も見えたって言うのよね。そういう感覚は恵梨香も無いけど、康太も無いって言ってた。そんな康太でもキーコさんにはあるって思わざるを得ないとしてた。

「だってだよ。クルマの中でバカ話で盛り上がってる時に急に黙り込むのだよ」

 ちょうど踏切を渡っている時だったみたいだけど、踏切事故の地縛霊が招いていて怖かったって言ったそう。その代わりと言ったら変だけど、夜の墓地なんて全然平気で、あれはちゃんと供養してあるからカラッポっで怖がる理由がないんだって。

 他にも色々あったそうだけど、一瞬怖がるだけで、あとは快活な高校生に戻るぐらいかな。これも理由があるみたいで、

『怖い、怖いと言っても、ほとんど力はないよ。余程心が弱ってない限り、なにも出来ない』

 心が弱ると守護霊も弱って云々の話だったそうだけど、とにかく康太もその手の物を感じないタイプだから、そんなもの以上の感想はなかったそう。

「これも今から思えばと言うかだけど・・・・・・」

 キーコさんとの最後のデートの時の様子が妙と言うか変だったらしい。その頃には白血病による体調不良もあったかもしれないけど、それを考えても変だったらしい。別れ際に康太の手を長い時間しっかりと握りしめた後に、

『生まれ変わっても康太と一緒になりたいな』

 この時に康太は、なにか念みたいなものを送られた気がするっていうのよね。そこからは理恵先生が勤務してた病院に入院し、康太に会わずに死んじゃうんだけど、

「なにかね、これで離れずに済むとか、必ずどこかで巡り合える気になったを覚えてる」

 もっとも康太に言わせると何も変わらなかったと言ってた。康太は元嫁と見合いで結婚してるけど、あの結婚の時になにかの能力が働いていたら回避してたはずだものね。そこから恵梨香も良く知っている再婚相手探しになるのだけど、

「恵梨香を初めて見た時に、久しぶりって感じがしたんだよ」

 これも今ならわかるけど、康太って他人に愚痴を滅多にこぼさない人なんだよ。ましてや康太にとって恵梨香は初対面なのに元嫁の愚痴こぼしまくりだったもの。

「もしかしてキーコさんには愚痴をこぼしてた」
「ああ、こぼしてたよ」

 あの夜に康太は口から愚痴が自然にこぼれ、それを恵梨香が、ごく当たり前のように受け止めたのにデジャブーを感じたんだって。キーコさんが甦ったというより、キーコさんと同じタイプの女ぐらいかな。

「キーコさんって、そんなにイイ女だったの?」

 康太は目を瞑ってたよ。そりゃ、どれだけの思い出があるかわかんないものね。

「そりゃね。喧嘩もしたけど、互いに心の奥底で信用してたからな」

 康太に言わせると恋人というより手放せないパートナーみたいなものだって。

「キーコの時に、女は見た目じゃないと思ったんだよ。そりゃ、ボクも男だから美人は好きだけど、本当に見ないといけないのは違うところだって。でもキーコが死んでから見えてなかったし、忘れてた。それが突然見えるようになったのが恵梨香だ」

 キーコさんは最後に康太に何らかの力を与えたのかな。そんな事が出来るかどうかなんてわからないけど、もし与えていたとしたら、キーコさんと似たようなタイプの女が出現すれば反応するセンサーみたいなものかもしれない。

 康太はキーコさんに最後に会ってから、そのセンサーに反応する女に巡り合っていなかったのかもしれない。そう、リサリサにも、由佳にも、あの智子にも反応しなかったとしか言いようがないもの。唯一反応したのが恵梨香。

 康太はそこまで言うはずがないけど、センサーは反応しても、このビヤ樽狸が本当にそうなのか自信がなかった気がする。でも何度も何度も会ってるうちに確信に変わり、聖女智子ではなくビッチ恵梨香を選んだぐらいにしか考えられないよ。

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