将来への片道切符

最近友人からドイツへ旅行したという話をよく聞く。
よく聞くとは言え旅したのはたった2人なのだが、ここ1ヶ月で友人が2人もドイツへ赴いてるというのだから"よく聞く"の部類に入るであろう。コロナ禍も次のフェーズに入ったことを肌で感じる出来事である。

どちらともシンガポールでトランジットをし、約1週間ほど滞在して帰ってきた。片方は家族旅行でドイツやチェコをめぐり、もう片方はベルリンで観光していた。観光というより「現地を体験する」と表現した方が正しい。そしてそんな友人は「新たなる人生の切符」を持って帰ってきた感じだった。

「新たなる人生の切符」を手にしたのは学生時代からとても仲の良いかなやんという女の子。かなやんは度々ベルリンへの憧れを口にしていた。"私に馴染むと思う"とまで言い切っていたので、その憧れっぷりは相当なものだ。

トランジットしたシンガポールでも「1秒と無駄にできない!」と自然保護区域や植物園まで足を伸ばしたようだ。一方、家族旅行をしていた友人は「シンガポール、ドンキもセブンも吉野家もあってほぼ日本だったよ」と大変マイペースな感想を述べていた。二子新地にいても回れそうなラインナップである。

さて、ベルリンへの憧れを今回の旅行でより強固にしたかなやんは"ベルリン体験記"をしたため送ってくれたのだが、「移住」というワードが書いてあった。今までも「ベルリンに住めたらなぁ」と語る姿を見ていたが、今回はレベルが違う。文面を見るに「私、本気です」という顔をしているに違いない。
ワーホリビザを取り、ベルリンの文化に触れながらデザイナーとして活躍するのが目標なんだとか。

凄いことになってきたぞ!と私は思った。両者年をとっても近い場所で仲良く過ごして行くなんて想像していたのだが、彼女は一歩外に出ようとしている。日本よりも空気、文化が合うそうな。
海外旅行おろか、国内旅行ですら片手で数えるくらいしかしたことがない自分は「そういえばあの国、場所の空気が」というものがないので大変羨ましい。

ふと、かなやんが旅立った時のことを考えてみた。友人が遠い場所へ長期間行ってしまうというのはなかなか寂しい。
そしてこのままだと、かなやんは自分の見知らぬゾーンへ突入し、置いてきぼりになってしまうのではないかと不安が襲う。
寂しさ+不安の組み合わせは最悪だ。

"自立したその先へ"な雰囲気漂う海外移住話に自分もその日の晩御飯なんてものではなく、長い目で見た時の人生を考える時が来たのか、と思った。
将来はどうなっていたいか、誰と、どこで、何をしていたいのか。突然考えたところでここはどこ?私は誰?状態に陥る。

かなやんのように日本ではないどこかに行く可能性だってあるので、その時はどこに行きたいか、移住するとしたらどこにするかを考えることにして現実逃避を図る。

30分ほど考え「韓国」と「ベルギー」が候補地に上がった。

韓国は「明洞とか日本語ばっかり聞こえてきて日本かと思った笑」と軽マウントを取る旅行者もいるくらいだし、話を聞くだけだとなんだか住みやすそうである。
ベルギーに関しては、学生の頃何を思ったか「ベルギーに住みたい」と思い立ったことがある。わざわざ図書館で本を探し住むためになりそうな情報を収集していたことが理由だ。

しかし、考えてみたところで韓国に行けば料理の辛さで毎度腹を壊すのが関の山だろうし、わざわざ調べたベルギーについての情報は全て忘却の彼方である。

あまりにも現実離れした自分の思考にうんざりし、寝ることにした。かなやんのように、チャレンジしてみたいという気持ちとチャンスが同時にやってきた時にもう一度深く考えよう。大体海外旅行もしたことないやつが海外移住など、できるはずもないのだ。

無駄に疲れだけが残った体を布団に潜りこませながらも、まだ足を踏み入れたことのない土地に思いを馳せ眠りについた。

その日、夢の中で旅行をしていた。かなやんと空港で待ち合わせしているようである。合流したかなやんからベルリンにこのまま滞在することを告げられ、自分は韓国に行く旨を伝える。どうやら夢の中だと韓国とベルリンは新幹線でいけるくらいの距離らしい。
「最終日は2人でシンガポール行くか」と決め別れたあと場面が切り替わり、韓国のような場所を彷徨っているところで目が覚めた。

寝ぼけた頭でいつもと同じ部屋を見渡し、若干安堵する。やはりまだ海外移住などという非現実的なことは考えない方が良さそうだ。未来のことは誰にもわかるまい。明日突然アゼルバイジャンなどに行くことになる可能性だってあるのだし。何の話だ。

とにかく、かなやんの"ベルリン移住話"をきっかけに私もちゃんと将来について考えようと決意した。そんな機会をくれた友人がいてくれて感謝感謝である。

私とかなやんの仲も、かれこれ10年近い付き合いになるので、離れていても変わらぬ関係が続いていきそうだ。私もかなやんに負けぬよう、進化していきたいものだ。
新たなる地に夢を見つけた彼女を、旅立つ日には清々しい気持ちで盛大に見送りたいと思う。

ただ一つ疑問が残ったのが、夢で彷徨っていた韓国のような場所は本当に韓国だったのだろうか。大戸屋や餃子の王将の看板を見かけたため、日本である可能性が高い。
もしかすると自分が「新たなる人生の切符」を持って向かう先は新大久保なのかもしれない。

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