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#301 『何が教師を壊すのか 追いつめられる先生たちのリアル』朝日新聞取材班 (著)


教師を蝕む闇:長時間労働の実態と未来への処方箋

「教師になりたい」−−。子どもたちの未来を創造するという崇高な理想を抱き、教職を目指す若者は少なくありません。しかし、日本の学校現場は、彼らを待ち受ける厳しい現実と、それを生み出す根深い問題を抱えています。

現役教師や元教師への詳細な取材を通して、本書は教師の長時間労働の実態を浮き彫りにします。

教師を苦しめる長時間労働の現実

まず、新任教師Aさんの場合を見てみましょう。多忙な毎日の中で、Aさんは子どもたちと心を通わせる喜びを感じながらも、長時間労働によって次第に追い詰められていきます。授業準備、部活動の指導、そして山積みの事務作業。毎日の残業は当たり前、休日出勤も避けられません。 その結果、心身に深刻な影響をきたし、休職を余儀なくされてしまうのです。

Aさんのようなケースは決して珍しいものではありません。ベテラン教師Bさんもまた、部活動指導の過酷な現実によって、教職への情熱を失っていきました。生徒たちの成長を願い、休日返上で指導にあたってきましたが、保護者からの要求は年々エスカレートし、休養日を設けることすら困難な状況に。 結果として、心身ともに疲弊し、教職を去るという苦渋の決断を下しました。

長時間労働の温床:給特法と複雑化する業務

なぜ、このような過酷な労働環境が放置されているのでしょうか。その背景の一つとして、教員の給与や労働時間を規定する「給与特別措置法(給特法)」の存在があります。 給特法は、教員の職務の特殊性を考慮して制定された法律ですが、皮肉にも、長時間労働を抑制するどころか、助長する結果となっています。 残業時間の記録が適切に行われない、残業代が支払われないなど、給特法の抱える問題は山積しています。

さらに、学校現場の業務は複雑化しており、教員は本来の職務である教育活動以外にも、多くの業務を担わされています。 学校行事の準備、部活動の運営、保護者対応など、その範囲は多岐にわたります。 特に、部活動指導は教員の大きな負担となっており、平日だけでなく、休日も練習や試合に追われることも少なくありません。

教師の未来のために:具体的な対策と社会全体の意識改革

こうした状況を改善し、教師が本来の職務である教育活動に専念できる環境を作るためには、どのような対策が必要なのでしょうか。

まず、給特法の抜本的な見直しは喫緊の課題です。 現場の教員や労働問題の専門家からは、給特法の廃止を求める声が上がっています。 給特法を廃止し、残業代が支払われる仕組みにすることで、長時間労働の抑制につながると期待されています。

部活動の地域移行も、有効な対策の一つです。 国は、公立中学校の休日の部活動指導を地域クラブなどに委託する方針を打ち出しており、将来的には平日も含めた完全移行を目指しています。 しかし、地域移行を実現するためには、指導者不足や費用面など、解決すべき課題も少なくありません。

学校現場における業務の効率化も重要です。 指導要録のデジタル化、会議のオンライン化など、ICTを活用することで、教員の負担を軽減できる可能性があります。

さらに、保護者と学校との連携強化も欠かせません。 保護者の過度な要求や介入は、教員の負担を増大させる一因となっています。 学校と保護者が互いに理解し合い、協力していくことが、より良い教育環境の実現につながるでしょう。

教員の働き方改革は、日本の教育の未来を左右する重要な課題です。教師が子どもたちと向き合い、その可能性を最大限に引き出すためには、社会全体で問題意識を共有し、具体的な行動を起こしていく必要があります。

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