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世界1周(1年間22ヶ国38都市)をしながらできた小説「ヨートピア」12〜13/44

12
you saved my life
なんともまろやかな波動の音楽だった。どこだろう。どこかから聞こえた。いやわたしの所に流れ着いたのだ。わたしは奇跡を目撃した。この姿になってから宇宙がさらに大きく感じたかと思えば、さらに小さく感じた。すべてがひとつだというのがより体感できたからだろう。そしてこの姿だからわかる、流れ着いて出会う奇跡の凄さを。周りのものすべてが動き流れている。まるで風のようにぶつからずスムーズに流れている。その流れの中で偶然に流れつき、くっつき、新しいなにかが生まれ、それもまた流れ、またくっつく。その繰り返し。くっつく奇跡に意味などないという振る舞いをしているが、そこには意味があるとしか思えない。くっついた結果から見ればその奇跡に意味を見つけるのは簡単だ。意味はガイドだ。考えることに意味はない。意味がないことに意味がある。意味があることに意味なんてない。考えないと怖いから意味ないウェーブを乗りこなせない。飛び込めない。ちょっと待っておくれよ。もともと人生そんなもんだろ。怖くない世界を見せているのもまた人間。そう思いたくない波動がそれを作ってる。でもそれも幻影。幻影じゃないと理解できない。幻影じゃないと正気を保てないんだ。幻影の中の正気も幻影。正気じゃない世界で正気を保てているのは正気じゃない証拠だろう。じゃあわたしたちは全員狂っているのか。そうだ。誰だお前は。わたしはあなただ。あなたがわたしだ。わたしは狂っている。あなたは狂っている。なぜネガティブに捉える?当たり前のことだろう。もっとアゲアゲでいこうぜ。正気じゃないことを活かして楽しんで生きることはできないのか。なぜ人生をそんなに労働に献上する?日本銀行券をもらうためだけになぜそこまで献上する?生活のためか?子供のためか?おかしいことはわかっているんだろう?なぜ疑わない?なぜやってみない?なぜ試してみない?なぜだ?どうせあなたは狂っている。どうせあなたは幻影なのだ。幻影の中で何をやってみてもどうせ現実が訪れるだけだ。あなたがやりたいと思っていることはわたしだ。わたしはあなたの中に居すぎて、動けなさすぎて、コケが生えてしまった。なぜだ?恐怖か?不安か?心配か?人目を気にしてるのか?お金か?愛か?言い訳か?なぜ正直になれない?素直になれない?純粋になれない?この世が幻影だからだ。あなたのそんなもろもろも全部幻影だからだ。自分でも掴めていないんだ。分かっていないから怖いんだ。あなたが歩き、動き、やったことが現実を宿す。だからやればいいだけなんだけど、どうもあなたは目の前の幻影に惑わされてしまう。誘惑センスの高い幻影だから仕方がない気持ちもわかる。しかし分かればそれは少し距離を置けるだろう。いいか。わたしはあなただ。これはあなたなんだ。だからこれを言う必要もないのだが、こうして言っている。書いている。伝えている。なぜか。こうしないといけないからだ。こうしないといけなかったからだ。こうしてわたしとあなたの距離を作ることで、あなたはわたしを見れるようになる。するとあなたの声を外から聞いているように聞こえる。そうしないとあなたは気づかなかったからだ。わたしはあなたに何度も伝えていた。だけど気付いてくれなかった。だからこの手段を選んだんだ。でもあなたはわたしだということを誰よりも分かっていたし知っていたんだ。なぜならあなたはわたしに気付かないほどにひとつだったからだ。だからこそ少し距離をあえて取ることにしたんだ。そしてようやくあなたにわたしの声が届いた。だからわたしはあなたにまたなる。あなたはこれから歩いていくうちにたくさんの容姿が違う人に出会うだろうが、他でもないその人たちすべてがわたしでありあなたなのだ。わたしがあなたに出会う奇跡。あなたがわたしだという奇跡。奇跡乾杯。
I saved your life. you saved my life.


13
冷蔵庫がお経を唱え始めた時、外は碧く光っていた。碧と緑と茶色が混じり始めた。そこに白が加わることで柔らかくなっていった。世界の実像が見え始める。いやそれは虚像である。意味などないことに意味がある。冷蔵庫のお経は小学校の隣にある神社に届いた。その神社の床は木でできている。そこに小さなな黒い穴があった。トンネルだ。そこに指を入れてみるとミラクルフィットしてしまい抜けなくなってしまった。わたしは泣いた。泣いた声は雨に消されて地面に消えていった。誰にも届かない声。誰にも届かない寂しさ。ひとりだった。ひとつだった。うなだれて諦めかけていると、上から水滴が落ちてきた。水を使って滑らせれば抜けると思い、指を濡らした。まだ抜けない。今度は血流をゆっくりにして弱めることで指を細くする方法を思いついた。冷静になるように努める。血流がゆっくりになるように努める。今だ!と思って力を入れて抜いてみた。まだ抜けない。力を入れる瞬間に膨らんでしまったのかもしれないと思い、力まずに抜こうとしたがそれでも抜けない。考え得ることすべてをやっても抜けないのでいよいよ諦めかけていた時、雨が止み、太陽が出た。光がわたしの背中を照らした。暖かかった。元気になった。わたしはそのまま寝てしまった。気づいたら葉っぱが踊っていた。指のことは忘れていた。起き上がる瞬間にスポンと穴から取れた。さっきまでの苦労が嘘のようにあっさり抜けた。忘れた時に本来の力を発揮するようだ。しがみついているモメントではその世界に捕らわれ、抜けだす解決策は見えてこない。しかしその世界を忘れ、離れ捨てた時に抜け出すトンネルが見える。遠くの方で落ち葉を掃除しているおじちゃんが居た。ザッザッと落ち葉を集めている。その音と共にこちらに近づいてくる。目が合った。
「こんな時間になんばしようとね?」
気づけばそれは朝だった。事情を説明したら、おじちゃんはニコッと笑って
「おめでとう」
とだけ言ってまた掃除を始めた。
「ありがとう」
と返事を返すスキもなかった。世界が何かで満ちていた。わたしはそれを感じることで精一杯だった。おじちゃんは変わらないペースで掃除を続けている。おじちゃんは抜け出しているようだった。相変わらず冷蔵庫はお経を唱えている。鐘の音がどこからともなく聞こえてきた。

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