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ライドシェア問題に見る、変革に必要な“3種の神器”。

ライドシェアを日本に導入するか否か。

インバウンド復活による深刻なタクシー不足を契機に、議論が盛り上がっています。

あらためて、ライドシェアとは「ride(乗車)」の「share(分け合い)」。つまり個人の自家用車を利用した相乗りサービスです。

スマートフォンアプリでのマッチング機能やペイメント機能の精度向上を背景にアメリカをはじめとする海外では急速に普及が進んでいて、米国発のUberやLyft、中国のDiDi、東南アジアのGrabやGojekなど、ライドシェアサービスで台頭するスタートアップが次々に生まれています。

僕も海外出張でよく利用しているユーザーの一人ですが、ほとんど待つことなく街中を移動できるのが本当に便利です。アプリ上でドライバーと乗客の相互評価する機能で安心感があるし、支払いもキャッシュレスでサクサク。過密スケジュールの出張をこなす上で、いまや欠かせません。

翻って現在の国内の状況はというと、軽井沢や京都などの観光地では、タクシー待ちの行列が、大変なことになっています。

ライドシェアの仕組みは「白タク」扱いで法律違反となってしまうので、公共交通機関以外の移動はタクシーに頼らざるを得ないのですが、そのタクシーが全然足りていないという状況。最近は、観光地だけでなく東京の都心でも「タクシー、全然つかまらない!」と困っている人によく遭遇します。秋の観光シーズンに向けて、さらに深刻になることは必至です。

成田空港や観光地で、大きな荷物を背負って困っている多くの海外の方を見るたびに、申し訳ない気持ちになります。他のことは便利な日本なのに!

タクシーという移動手段に限らず、高齢化や過疎化が進む地域ではバスや電車の廃線が今後加速すると予測されています。近い将来、「交通インフラの抜本的改革」が避けられないテーマとなるでしょう。これはもう、誰が反論しようとも迎えることになるシナリオだと思います。

こうした社会背景も踏まえて、ライドシェアに関しては、僕は生活者の一人として大賛成でウェルカムです。

「移動」という世の中のほぼ全員にとって身近な問題に関して、便利な選択肢が新たに増えることは素晴らしい前進になるはずだからです。

一方で、導入に反対の姿勢を示すタクシー業界の方々の話も分からなくもありません

例えば、タクシー団体の会長の方からは「タクシー不足の元凶は、タクシーの台数不足ではなく人手不足。採用のための規制が多過ぎてドライバーを増やしたくても、なかなか増やせないのです」と内部の深刻な実態を発信されています。

「ライドシェア解禁より先に、タクシー業界をがんじがらめにしている規制の緩和を」という主張には、なるほど一理あるなぁと思います。

例えば、古くから義務化されている道案内の試験一つとっても、高精度なGPS技術によるナビがこれほど発達・普及している今の時代に本当に必要なのか? 

おそらく現在のタクシー業界の規制は、テクノロジーの力でかなりの部分がショートカットできるはずなので、既存のルールはどんどんアップデートしていくべきでしょう。

「すべての仕組みは陳腐化する」という前提に立って、目の前にある“当たり前”を常に疑う姿勢は常に持ち続けたいものです(僕自身の自戒も込めて……)。
 
また、ライドシェアは、アプリや決済の便利さもそうですが、肝は需給バランス調整とダイナミックプライシング。

雨などの時に需要が一気にあがり、供給が逼迫する時に、固定の運転手の人数だけでは賄えない部分を、学生や時間に余裕のあるシニアの方などが働くことによって、供給量を増やし、需給をマッチすることができます。また、供給が不足していれば、プライスを上げることにより、供給が増え(一部需要が減り)需給がマッチしていきます。

今後、既存の業界の規制も緩和した上で、新しいプレーヤーの参入も解禁すれば、タクシーとライドシェアの「共存」が新しい風景となるかもしれません。

つまり、ユーザーの選択肢が増え、フェアな条件下での自由競争が生まれるということ。これがユーザーファーストと産業活性化の両面で理想的だと僕は思います。

もしも「タクシーのほうがはるかに安全で正確なルートを約束できる」という主張が本当であれば、タクシーは今後も残り続けるでしょう(現に、Uberが溢れるニューヨークの街でも、タクシーは一部のユーザーに支持され続けています)。
 
当然、こうしたステップを踏むには時間がかかります。下手したらあと数年?10年?はかかるかもしれません。しかも、経済安保的な要素もあるので、慎重に進める必要もありそうです。

「日本は世の中が変わるスピードが遅過ぎる! 反対派の意見なんか聞かずに、すぐに変えるべきだ」と怒る人の顔も浮かびます。20代の頃の僕も鼻息を荒くして、そういっていたと思います。そしてそうあるべきだとも思います。しかし、40代になった僕はちょっと大人になりました(なってしまいました)。

世の中は、そんなにシンプルではなくて、色々なことが絡み合っていて複雑だなぁ……怒ったところで物事はすぐに変わらないんだなあ、ということが、少しは見えてきました。
(一方で、ユーザーとして、不便だ!という発信をすることは、世の中の声として非常に大切です)

すぐに変化できないのには、それなりの合理的な理由があって、いろんな立場の人が、いろんな事情を抱えて、いろんな主張をしている。それぞれの立場で、合理的(と一見見える)な主張をします。まずはその全体像を捉えないと、モアベターな意思決定ができない

また、「海外のやり方が日本にすべて応用できる」とは限りません。

コロナ禍のマスク一つとっても、足並みを揃えてきた日本人。個人の自由意志よりも全体の調和を優先する国民性も相まって、「国全体の方針を急激に変える」ことは容易ではなく、だから時間がかかります。

一方で、この「意思決定までの時間が長い」という日本社会の特徴は、実は悪いことばかりではないかもしれません

現在アメリカで起こっているような分断や、個人の権利が強すぎて個人同士が激しく衝突、対立する状況は、日本ではそこまで起こっていません。

すぐに制度を変えることができないからこそ、変えるまでの準備がじっくりでき、偏った意思決定にならず、時間をかけて合意形成ができるので、社会がそれほど分断しない、という見方もできます。

「つべこべ言わずに明日から変わるのだ!」と強行しない代わりに、「どうしてあなたは反対しているんですか?」と事情を聞いて課題をつぶしながらルールを作っていく。そんなスタイルが、実は日本らしい変革なのかなと最近思うようになりました。

というか、そうしないと、日本は変わっていかないのかなとも思っています。(そうして、徐々に変革のスピードが上がっていくのかなとも)

会社経営をしていても、当然ながら意見の衝突は起こります。

そのときにも、「まず理由を聞く」「頭ごなしに否定はしない」を心がけています(といいながら、すみません、できていないときもあるかもしれません)。

たとえ意見が違っても、「より良くしたい」という思いは同じ。それぞれが考える“正義”のぶつかり合いなのだから、目指す方向性さえ一致すれば、手を取り合えるはず。だから、僕は議論が膠着したときにはよく「で、僕たちのゴールはなんだっけ?」と口にするようにしています

とはいえ、世の中が前に進むために、「変わる、良くなっていく」ことは非常に重要です。現に移動で困っている人が急増している現状の課題は、今解決しないといけない問題です。

すぐに変わることが苦手な僕たちが、どうしたら社会を変えられるか――何とか知恵を絞らないといけない局面を迎えているのが、今なのだと思います。

その知恵の一つであると僕が思っているのが「ダイバーシティ」。多様な属性・価値観によって意思決定できる仕組みをつくることです。

日本では意思決定層に「シニアの日本人男性」が占める割合が高く、若い人や女性、外国人、そのほか社会的マイノリティの方々の意見が取り入れられにくい構造があります。

乱暴な表現を許していただくならば、「同じような経験をしてきた、同じようなライフスタイルのシニアな方々」だけで決めているルールで社会が成り立っています。

もちろんシニアの中にも、若者以上に時代の変化に敏感で柔軟な思考力を発揮される方はいますが、一方で、「何十年も前につくった仕組みを回し続けること」が第一目的となっている残念なパターンは散見されます。

既存のルールによってメリットを享受してきた人たちは、変化によってその権利を奪われることを恐れ、拒否します。また、新しい変化への受容が若い人より狭いかもしれません。これが変革を阻害する大きな要因となってしまうわけです。

偉そうに言っていますが、僕だって他人事ではありません。

「自分はもっとできるはず」「自分はちゃんと分かっている」という思い込みによって、いつの間にか世の中からズレるリスクは常にすぐそばにあります。また、成功体験が邪魔をして、新しいチャレンジをしなくなりがちです。特にある程度の社会的地位を得た後は、間違いを指摘してくれる人が少なくなってしまい、周りにそういった人を確保することが本当に難しくなってしまうので要注意です。

だから、ダイバーシティ

意思決定層に、「あえて自分とは、バックグランドが異なるタイプ」を混ぜて、意思決定にさまざまな視点を入れる仕組みづくりはあらゆる組織に必要なのだと思います。マネーフォワードも大急ぎで、リーダー層のダイバーシティを促進しています。

もう一つ、ダイバーシティに加えて備えるべきは「ガバナンス」です。

上場企業の場合は、社外取締役や株主様から向けられる“外の目”の効果で、ガバナンスを効かせることができます。その意味で、本当によくできた仕組みだなぁと思います。

ガバナンスの基本はResponsibility とAccountability。日本語に置き換えると「責任と権限」そして「説明責任」です。

例えば、僕は、マネーフォワードという会社の経営を多くの株主様や取引先様などステークホルダーの方々から任されています。

それだけの大きなResponsibility(責任と権限)を与えてもらっているが故に、大きなAccountability(説明責任)が伴います。

IRなどでは、株主様に、たとえ意見が異なっても丁寧に背景や考えを説明して理解いただき、応援いただく責任があります。

会社内でも、責任と権限を与えているのに、説明責任が十分でない、自分の意見に固執して、周りに丁寧に説明できていない部下がいると、その人に安心して仕事を任せることができなくなります。

ダイバーシティとガバナンス。この二つによって、意思決定が時代にあったものになっていく。一部ではなく、多くのステークホルダーに対して、合理的な意思決定が行われていく土壌ができてくると思います。

加えて僕が自分に課しているのが「オープンネス」です。

自分が何を考えているかを、できるだけオープンにする。社内は勿論、社外に向けても、勇気をもって発信することで、自分がどういう考えを持っていて、今何を考えているか、また、発信するとフィードバックをもらえるので、そのフィードバックはとても勉強になるものもありますし、それを元に世間との価値観と自分のそれが大きくズレていないかをチェックですることができます。

このnoteの発信も、オープンネス活動の一つです。自分の頭の中を可視化して外に出してみると、いろんな反響をいただきますし、それによって貴重な気づきを得られることが多くあります。

正直、月に1回投稿するというペースはとてもしんどいのですが、自分を“外の目”に晒して常にアップデートするために必要な習慣なのだと思って、頑張っています(読んでいただき、やさしく「いいね」を押してくださったりシェアいただいている皆さん、ありがとうございます。その「いいねやシェア」が励みですw)。

ということで、すぐに変わることが苦手な僕たちが手に入れるべき3種の神器は「ダイバーシティ・ガバナンス・オープンネス」!?

そして、いざ変革をした後に何かエラーが起きた場合には(物事は100%ではないので必ず起こります)、感情的にならず冷静に、合理的に対策を講じる心構えも必要ですね。

目の前の利益ではなく、未来のための、自分たちの子供達のためのより良い世の中へ。

僕もより良い社会づくりに挑戦する一人として、持ち場でしっかり誠実に課題に向き合いながら、世の中を一歩ずつでも変えていく、前に進める力を磨いていきたいと思います。

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