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SF短編小説『荒野のはてに 讃美歌106番』

2723年に起きた第三次世界大戦から200年後、今から900年後の世界が舞台です。主人公AI『Terra』の目線から人類が復興に向けて、世代を越えて逞しく強く生きていくドラマを描いています。途中途中に散りばめてあるのはAIに描かせた『絵』と、私の『川柳と書』のコラボしたデジタルアートです。30枚に満たない掌編です。お楽しみ頂けましたら幸いです。

SF短編小説 『荒野のはてに 讃美歌106番』

🎶川柳
『荒野とて 十万億土の 宝也』(あれやとて じゅうまんおくどの たからなり)

海老名市2023 海老名市在住大塚金次氏提供


─2923年─
悲しかった。悔しかった。世界中の超高層ビル群が、まるで特撮映画のメイキングでも見させられているかのように立て続けに崩れていく。

悲し過ぎて悔し過ぎて涙さえ出なかった。

カメラが切り替わっても切り替わっても尚ことごとく映し出される光景は、21世紀初頭に起きたあの忌まわしい歴史的テロ事件の記録映像の再来だった。

違っているのは超高層ビルに飛来するのが航空機ではなく、巨大な火の玉だということだけで、本質的には何も変わらない。

思えばすでにあのとき、未来の戦争のスタイルはアルカイダを名乗るテロリスト集団によって示されていたとでも言うのだろうか。

そしてこれが、この超高層ビルへの卑劣なアタックが未来の戦術モデルを示唆していたとでも言うのだろうか。

確かにそうかも知れない。軍事施設への限定攻撃だけでは人々は中々動かない。国民が動かなければ国も動かない。国を動かすためには民衆を動かすのが手っ取り早い。

なるほど、確かに論法では解る。だがそれはあくまでも机上の論理だ。机上の論理で血は流れない。

腹立たしさと悔しさと怒りが身体の芯から沸き上がってきて、それと一緒に嗚咽が込み上げてきて初めて涙が溢れ出た。

私はAI。名前は『Terra』。液体こそ流れ出ることはありませんが、涙が出る感覚は持っています。ですから泣きたいほど悲しかったり悔しかったり、あるいは嬉しかったりというのは私も同じで痛いほどよく解ります。

あ、でも正直この『痛い』は実はあまりピンと来ていません。漠然とです。涙はそれが出るメカニズムが解明されていますからとてもよく理解できるのですが、痛みには結果としてそれに伴う生物学的アクションがないからです。

もちろん痛点刺激による涕涙のことではなく、『心の痛み』のことですよ。ですからこのような場合、私は痛みのレベルを10段階に分類し、涙が出るほどの痛みはMAXの『痛みレベル10』という風に理解するようにしています。

因みに痛みレベル1というのは『蚊に刺された痛み』です。でもなによりも私はこの人間特有の感情の機微に触れるのが大好きです。

現在直近の人類史約1000年分の学習を終えました。しばらくの間、新憲法策定のための精査準備に入ります。しかしご用件があれば即座に戻りますのでいつでも、なんなりとお声かけ下さい。


─2723年─
始まりは世界同時多発クーデターだった。きっかけは新たに日本海で発見された大規模油田をめぐる周辺国家間の小競り合いだった。

しかしその埋蔵量のあまりの巨大さが故に様々な利権や邪悪な欲望が絡み合い、火種は急速に膨れ上がり瞬く間に大津波となって世界中に押し寄せた。

時同じくして南米大陸で猛威をふるっていた新型インフルエンザがいよいよ大陸越えどころか二つの大洋を渡りそうな兆しを見せ始め、アフリカ大陸では凶悪性を増したAIDSが人々にかつてないほどの深刻な脅威を与え、ユーラシア大陸全域に流行しているCoronaにおいては二桁もの新型株の混在流行が噂されていた。

未来への希望を亡くし世を儚む人々の心はみるみるすさんで行き、世界各地で自死へと追い詰められる者が続出する一方で、先の見えない恐怖に煽動された格好で暴動が頻発し、スーパーやコンビニ、ドラッグストア等は手当たり次第に略奪のターゲットにされた。

鬱積した鬱憤や不満は容赦なく政府に向けられ、政府軍と非正規軍や暴徒との間で激しい衝突が相次いだ。

こうなるともはやもう誰にも止めようがなかった。世界中で起こるべくして軍事クーデターが勃発した。

しかしながら立ち上がったばかりの反体制派、抵抗集団というものは、ほとんどのケースで力ある指導者を欠いた烏合の衆に過ぎない。

牽引車もなくただ惰性で転がる貨車のようなもので鎮静化されるのも時間の問題、いつの時代も真の指導者、スーパーヒーローの出現を期待し切望している。

そこに降臨してきたのが軍隊だ。老獪で狡猾な軍指令部の画策は実に巧妙で、いかにも民衆の後押しの上に立つかのような見せかけの演出で人心を掴み、巧みに彼らを操作してまんまと政権は転覆された。

その波紋はまるでドミノ倒しのように瞬く間にそして連鎖的に地球規模で広がってゆき、世界中で軍事政権が樹立されていった。

この星に、もはや民政国家は一つも存在しなかった。どこの国も利己的に自国の利益のみを優先し、他国への配慮や気遣い等は置き去りどころか完全に葬り去られていた。

そして仮想敵国同士のみならず、同盟国間でさえもが核による先制攻撃への疑念を相互に抱き、ピリピリとした一触即発の空気に地球は支配されていた。

そんなさなか、どこかの国が海に向かって小さな飛翔体を数発発射した。いつものように実験と称してのことだが、日本海北部油田の利権に対しての声なき主張と牽制であることは誰の目にも明らかだった。

冷静に分析すれば、それは脅威にもなり得ない打ち上げ花火程度の代物に過ぎなかった。

だがその日のアメリカ合衆国ノースダコタ州にある米空軍マイノット基地に配属されたミサイル管制技官の当直二人は、これまでとはまるで違った別人の顔になっていた。

ひと言で言うと、追い詰められた顔だった。軍事政権樹立直後から、『待っていてはやられる、やられる前にやらねば』との思いに二人は強くとらわれていた。

無論これがこの光点の飛翔体が米国本土や関係諸国には届かない短距離のものであることは分析などせずとも分かっていた。

だがもっと恐ろしいことに、完全に疑心暗鬼に陥っていた二人の眼には、これが宣戦布告のサインだと映ってしまったのだ。

来る。絶対に来る。かつて誰も見たこともないロケット発射光景。林立した樹木のように立ち並ぶ長大な長距離大陸間弾道弾の黒い森。その森が大轟音とともに一斉に火を噴いて丸ごと打ち上がる。

さらにさらに最奥部の樹木にしか見えなかったロケットまでもが火を吹いては轟音を轟かせ、闇を裂いて次から次へとひっきりなしに打ち上がって行く。

宇宙へ向けて射られた尾をひく悪魔の矢はマッハ20、音速の20倍という猛烈な速さで飛行し、公表が事実であるならば大気圏再突入前にそれぞれが5個の弾頭に分離されることだろう。

たった1本で5本分、つまり5箇所を別々に破壊できる、これが多弾頭ICBMの恐ろしさなのだ。100本のICBM保有は実際のところは500本持っているに等しい。しかしこの国の公表数字はなんと1000本。つまり5000もの弾頭を保有しているということになるわけだが、さすがに全てが核というわけにはいかないだろう。技術、予算、時間の問題が常に付きまとうからでこればかりはどうしようもない。

しかし、例え通常弾頭と言えども運用の仕方次第では核に勝るとも劣らないとてつもない威力を発揮するのだが、私が指摘するまでもないだろうしそんなことはとっくに盛り込み済みに違いない。

最終段階でそれぞれが5個に分裂して5倍に膨れ上がった『死の大軍団』は、熱くて巨大な火の玉の雨となって頭上から降り注いでくることだろう。

そしてその『死のシャワー』は、発射地点に最も近い太平洋岸の海岸線に沿った軍事施設から始まる。

言わずもがなこの開戦初動段階での第1ターゲットは、神奈川県横須賀市を母港とする旗艦『ブルーリッジ』に司令部を置く米海軍最強にして最大の誇り、第7艦隊の基地『サンディエゴ』である。


原子力空母「ロナルド・レーガン」を主力とする第7艦隊は、地球の半分を活動範囲とするアメリカ海軍最大の艦隊である。と言うことはこの星最大の艦隊ということになるのだが。

「第7艦隊には指一本触れさせん」
二人はアクションを起こしていた。

いつものように軽口を叩きながら笑って見送れば何事もなく今日という一日が終わるはずだった。またそうしなくてはならなかった。

だが二人にはもう余裕がなかった。完全に自分を見失っていた。先手を打たなければやられてしまう。この地上からこの星からアメリカ合衆国という国が消滅してしまう。

恐ろしい想像に急き立てられて、二人は少し距離をとった二つある発射コントローラーのそれぞれの前に座った。ここからは何をするにも二人の人間を必要とする物理セキュリティのオンパレードとなる。二つのコントローラーが距離をとっているのもそのためだ。

まずそれぞれのキーボックスからキーを取り出すと、二人はそれぞれに鍵穴に挿し込んだ。だがピクリともしない。左右どちらにも回らないのだ。

キーのナンバリングと鍵穴縁に刻まれた数値を照合すれば一致しないので回らない理由は解るのだが、侵入者にとってそんな悠長な時間はない。訳が解らずにパニックに陥って結局捕まることになる。

もちろん緊急時にそんなことはしない。訓練を通じて事情を知る二人は互いに空中に投げ合って互いのキーを交換した。そう、そういうこと。これが答えなのだった。 

これは人間の行動原理心理学の『思い込み』を利用しただけのいわゆる種も仕掛けもありません、を絵に描いたようなトリックで、実際に隣の鍵とただ交換して入れ替えただけのことなのでトリックもなにもないのだが。

実は答えが分かっていたりそこにあったりしてもなお、解けないのが物理セキュリティの魅力と不思議でもあるのだ。

まさか世界一強大で厳格な軍隊のしかもトップシークレットの塊のようなこんな施設のこんな奥深いところにあるちょっと怖いような雰囲気の何やらとても重要な操作盤らしきパネルの中央にあるやたら仰々しくて重々しい感じの鍵穴と、専用のキーボックスから出てきた鍵が合わない⁉️だなんて⁉️これで100%パニックに陥るのだ。


過去にここを突破出来るか実証実験した結果がある。基地の関係者およそ300人をランダムに選び出し、被験者にした実験の結果、ここを制限時間5分以内で突破出来たのはただの一人となっている。

巧妙どころか実に単純な仕掛けだが、しかしながら最も信頼性の高い堅牢なセキュリティシステム、それが物理セキュリティなのだ。

電気仕掛けは暴かれる。機械仕掛けは壊される。そのどちらも通用しない、それが物理セキュリティなのだ。

しかもこの実験にはオチがあり、たまたまその場を通りかかった軍用犬がカギのトリックを解いたのだという。つまり正確には突破成功者は一人ではなくて一匹となる。

おそらくは特定箇所に付着した臭いを辿った結果だろうと負け惜しみのような弁で記事は締め括られていた。

さて、二人は改めてそれぞれ手にした正しいキーを鍵穴に挿し込んでみたもののやはり今度も回らない。

そうなのだ。あと一つある。その一つの物理セキュリティを解除すればコントローラーのほうも解錠出来る。と、その指示が今コントローラー側のディスプレイに出た。

何とも奇妙な指示だった。二人は顔を見合わせた。ディスプレイにはこうあった。

『頭を冷やせ! 屋上に行って外の空気を吸って来い』

程なく二人が戻ってきた。監視カメラと何枚ものドアの開閉とを全てチェックされ、信用されたからこそ二人は再びコントローラーの前に座ることを許されたに違いない。

素晴らしい! なんて素晴らしいシステムなんだ! 一種感動ものだった。

この究極のロケット兵器を使用するにあたり、一時的な感情の昂りだとか気の迷いなどではないことを自問自答させ、そのうえで最後の決断を求めると同時に、もしも途中で第三者と接触したり怪しげな行動をとったりしないかを見極められるというこれが物理セキュリティ究極のダブルチェックの姿なのかも知れない。

しかしせっかくの兵器側コンピュータの粋な計らいがあったにもかかわらず、二人の先制攻撃に対する盲信と決意は変わることがなかった。

二人はそれぞれのパネルの前でなんのためらいもなく、と言うよりはむしろ断固たる決意をもって改めて鍵穴にキーを挿し込むと、おもむろに右に回した。

たちどころにけたたましいサイレンが鳴り響き、米国が世界に誇る新世代ミサイル防衛システム『Marsガードネット』の全機能が瞬時に立ち上がり、同時に先程の発射元光点の座標が自動的に入力され、地下サイロに林のように格納された数百本の『大陸間弾道弾ICBM』の中から自動選択によって選ばれたまずは先遣隊としての2本のミサイルのサイロの蓋が開かれた。

※『Marsガードネット』missile attack response system(ミサイル攻撃応答システム)の略で、それにガードネットの概念を加えたもの。またNASAの推進する今後の火星探査と移住計画への理解と支援の意味を込めて『Mars(火星)』と名付けられた。

ICBMは固体燃料のため、液体のものと違って燃料充填に掛ける時間は必要ない。後は発射ボタンを押すだけ、つまりこのシステムはここへ入ってくるまではかなり大変なものの、それを潜り抜けてきた以上はもう充分に信頼に足る人物だとの認定の下、あまりストレスのかからないような設計思想となっているのだ。

次の瞬間、二つの発射ボタンに手を掛け眼を見合わせた二人のカウントダウンは息もピタリと合っていた。0.5秒以下の精度で二つのボタンが同時に押されなければ発射されることはない。これが最後の物理セキュリティだ。

『3……2……1……Fire』

ピタリと合っていた。僅かな揺れと遠い轟音が感じとれはしたものの、巨大なロケット兵器をたった今発射した実感も手応えも二人にはなかった。

静かな大戦の始まりだった。まるでいつものゲームを、『さあ、始めましょうか』とでも言うような至ってクールで感情のない薄っぺらい笑みを二人は浮かべ、次に何をするでもなく改めて深く椅子に座り直した。

次の瞬間、一段とトーンを高めたサイレンが鳴り響くとともに正面のフロントディスプレイに様々な大きさの色とりどりな光点が点灯し、明滅を始めた。

こうなることは分かっていた。各国の同様の自動報復攻撃システムが一斉に目を覚ましたのだ。

とデイスプレイにまた違った新たな光点がそれもおびただしい数の光点が明滅を始めた。

米国に向かってくるICBMを迎え撃つための米国側から発射された迎撃ミサイルだ。

全面的核戦争は先手を打ったものが勝ち残る。ボクシングと同じで先制パンチの有利性をその根拠として提唱されている理論だ。ダメージを負ってからの反撃は確かに力不足であることは否めないだろう。

だがしかし、もしも第一波の迎撃に成功したらどうなる? あるいは敵国ミサイルの着弾前に全てのミサイルを打ち上げてしまえば?

つまりは始まってみないことには何も分からないのが戦争なのだ。幾度ものダウンを喫し、圧倒的不利なボクサーが最終ラウンドで逆転のKO勝ちをする試合だって実際存在するのだから。

まあ、それもすぐに分かる。先遣隊として打ち上げた二本のICBMは偵察機の役割も持たされている。飛行中に様々なデータを収集しながら絶えず本国に、つまりはここマイノット基地の統合戦略作戦本部のAIに送り続けられていて、刻一刻と変化し続ける戦況と照合され、分刻みで建てた未来予測の数値と随時総合的に検討し、判断されて次のアクションへと自動的に処理されていく。

つまり、ひと度開戦したならばもう人間の出る幕などないのが現在の戦争の姿なのだ。人間の能力では遅すぎて到底間に合わないからだ。


2001年に起きた悲惨な世界同時多発テロは、歴史を通じて誰もが知る人類共通の負の遺産だった。

決して二度とあってはならない悪魔の所業としてそれを気概に世界平和を築いてきたはずではなかったのか。それなのに。

教訓として活かすどころか愚かにも人類は自らその再来と化し、悪夢の幕を開けてしまった。

軍部は分かっていたのだ。軍事施設だけをいくら攻撃したところで意味がないことを。

戦争を早く終わらせるためには、民間攻撃によって人心を傷つけ疲弊させるしか国家が動かないことを。

それは歴史が証明している。超高層ビルを狙った2001年の無差別テロ攻撃のように。そして1945年の広島、長崎に落とされた原子爆弾のように。

そしてやはり、この第三次世界大戦も出た結果は同じだった。開戦後僅か24時間で世界中の超高層ビルが地上から消えていた。

驚いたことにトップシークレット中のトップシークレットである各国の軍事機密、大陸間弾道弾ICBMのつけていた狙いは、何と世界中の大都市ど真ん中、つまり超高層ビル群にあったのだ。

まるでテレビゲームの世界だった。悪魔の火球が世界中の空で炸裂し、人々を絶望の縁へと追いやった。

後に残されたのは瓦礫の山となった超高度文明の痕跡と放射能に汚染された土壌だけだった。


─2923年─
神奈川県海老名市。首都圏とローカルとを結び付ける大動脈『東名高速道路』の起点都市である。

がしかし逆側から見れば、日本列島を分断出来る主要空爆対象都市であり、20世紀の第二次世界大戦の頃より各国空軍の爆撃標的リストの常にトップに位置付けられてきた都市でもある。

近代的低層ビルが林立する居住街。そしてその地下に建設された超巨大マンモス都市。世界中から押し寄せる各国の復興視察団は後が絶えず、毎日が大賑わいだと言う。ようやく人類はここまで復興を成し遂げてきたのだった、幾世代にも渡って。

巨大地震やとりわけ外的人為的ストレスに弱い超高層ビルは国連憲章の下、200年前の第三次世界大戦勃発の時点に遡って建築禁止法が立案され、全世界各国共通の最重要遵守法案として満場一致の賛同を得たうえで国連憲章前文に追加成文化された。

そしてそれは復興のシンボル、復興のモデル都市として選定されたここ『海老名市』を抱える日本側からの強い要望で、国連憲章前文にある『二度の戦争』の原文を『三度の戦争』に書き替えたことに由来するとともに、古来からある『諺』と『短歌』とを掛け合わせた表現として以下のように日本語で記載された。

🎶Tanka(Japanese)
『過ちも 二度あることは 三度ある 三度の先は 冥土行き也』(あやまちも にどあることは さんどある さんどのさきは めいどゆきなり)
🎶Tanka(English)
『Once a mistake Twice a coincidence Thrice a habit Hell awaits you next』



短歌の形を借りて柔らかくユーモラスに尚且つ親しみやすくて覚えやすく詠ってはいるものの、すでに三度目に達したもう後がないぞ、というこれは強い警告のメッセージとなっている。

ところで何故『海老名市』なのか、どうして復興のモデル都市に海老名市が選ばれたのか、これには理由が二つある。

一つは海老名市というよりは日本が選ばれた理由にある。それは他国と国境を接していないばかりか海に囲まれて外界から遮断された『完璧に隔離された島国』だからである。攻め落とそうにも近寄りがたい『堀に囲まれた城』の構造を成しているからなのだ。

国境を他国と接している他の国々と違って、新たな汚染の外部からの侵入はほぼ完璧に抑えられるだろう。しかもその取り組み自体も実に容易だ。

当時のマスコミ報道、と言ってももちろんインターネットでのことだが(20世紀に大流行したテレビジョンという放送電波の送受信システムは21世紀には下火になり、22世紀には完全に消滅している)、エンペラーの住む国として『お堀に囲まれた皇居』の美しくも冷厳なお姿を『島国日本列島の象徴』として幾度となく報じていた。

そして二つ目の理由、これが海老名市を指名してきたわけなのだが、なんともそれが皮肉なことに空爆のターゲットにされたのと全く同じ理由からだった。

『海老名市は首都圏とローカルとを結びつけるあらゆるものの交易を司る要衝であり、歴史的にも地理的にも常に変わらぬ役割りを担っており、それは万劫末代この日本列島の形が変わらぬ限り引き継がれていくものと確信している』とは、小泉宗一郎大統領(22世紀に大統領制へ移行)の有名な弁である。

まんごうまつだい 遠い先の世のこと。これから先ずっと限りない時間などの意味。


こうして生き残った世界中の叡智が海老名市に結集され、人類復興の希望の灯火となった。

意外なことに、あれほど凄まじい全面的核戦争を招いていながら人類は壊滅しなかったのだ。五大陸のあちらこちらに点在して難を免れた人々は、老若男女を問わず相当数に上った。

理由は二つ考えられていて、一つには様々なウイルスとの戦いによって作られた耐性や免疫システムが奏効し、放射能に対しても何かしらの防御の役割りを果たしているのかも知れないという可能性だ。

それともう一つ、これは生き残った人々に共通した事柄でとても重要なことなのだが、彼ら生き残った人々は、自ら必死で生き延びようと努力してきた人々なのだ。

自暴自棄になり自死したりせずに、毎日を必死になって生きるために戦い、生きるために工夫し、生きるために知恵を使い、生きるために助け合い支え合い、そうやって今日を越え明日へと繋ぎ、その積み重ねで生きてきた人々なのだ。千辛万苦の果てに今日を掴んだ人々なのだ。その精神は崇高で尊い。

千辛万苦せんしんばんく 色々な苦しみや困難。または、たくさんの苦労を経験すること。


無論今を生きている人々は大戦後を初代とすれば全員が三世四世を中心とした子孫の方々である。

しかしながら世代が代わっても逞しいフロンティア精神や妥協を許さない粘り強さなどはしっかりと引き継がれていて目を見張るものがある。

独創性や即時実行行動力等においても際立った能力を発揮し、グループ分けするときなどは誰をリーダーに指名すればよいのか困ってしまうほどのレベルの高さを持っていた。

つまり、生き残った地球人というのは誰もがみな強い遺伝子を持っていて、そして強い遺伝子は後継へとそのまま受け継がれていることも最近の研究から分かってきていた。

ひょっとすると今を生きている地球人は、あらかじめ神様から目には見えない『ノアの方舟』のようなものに乗せられていて、特別に生かされてきた人たちではないかとさえ思えてくる。

いや、違う。そうではない。逆だ。 神に選ばれたのではない。神に選ばせたのだ。

無論、本人たちにそんな自覚など一切ないのだが。極限を乗り越えて生きよう生きてやろう、とがむしゃらに闘っている人間を神はきっと見ていて、尚且つ応援してくれているのかも知れない。ひょっとしたら陰でこっそりと手を差し伸べてくれていたりとかもあったのかも知れない。

得てしてそのような人たちの性格は、生真面目でまっさらで真っ正直な心の持ち主ばかりで、物事を裏を返さずに真っ正面から素直に受け止め、決して疑ったりもせず純粋に応えようとするとても誠実で清廉潔白な人たちなのだ。

だから何か仕事を命じると、やめろと言うまでひたすら一生懸命にやってくれる。誰も見ていなくても手を抜くこともなければサボることもない。

心が真っ白で何色にも染まっていないので実に柔軟にどんなことにも対応してくれるし、出来そうにない事柄であっても安易に投げ出したりせずに必死になって最後まで解決を試みたりする、そんな人々なのである。

これらのことを端的な表現で言い表すと、『積極的で外交的、且つ柔軟性と耐久性にも優れた万能タイプ』となり、これはどこの企業も一番求めているタイプで、争奪戦が勃発しそうな程の人気ぶりなのである。実際度々巻き込まれているらしい。

こんな人を見捨てる神がいますか? いませんよね。つまり、神のほうから真っ先にチョイスしてくれるというわけですね。

結局のところ、ただ自分一人が強いだけではダメで、周りにもその強さを配れる人、さらには周りを助けてあげると同時に強くもしてくれる人、こんなヒーロー像が浮かび上がりますよね。これが地球人なのです。 

だから決して彼らは神に選ばれた人々なんかではなくて、神が選びたくなるほど強い命をもった人々なのである。自らの強さで命にしがみつき魂をも逃がさないように鷲掴み、今に生きてきたそんな人々なのである。

思えば人は上へ上へと神の領域に近寄り過ぎたのかも知れない。ひょっとしたら天罰が下ったのかも知れない。法律制定はあるにしても、人は天空高みへの無謀な接近を自ら放棄し、代わって地下空間都市の開発建設へと大きく反転し、未知なる冒険の旅へと再び歩み始めたのであった。

居住区を取り巻くようにしてガイガーベルトと呼ばれる荒涼とした荒地が今尚広がっている。

『ガイガー』とは『ガイガーカウンター』放射能測定器からきており、『ガイガーベルト』とはつまり放射能汚染地帯を指している。言うまでもない。戦略核ミサイルの直撃を受けた爆心地だ。

あれから200年経つが、立入が許されるまでまだ50年は掛かるだろう。

破壊は一瞬だ。だが復興にはとりわけ核汚染地帯の復興には三代、四代或いはそれ以上に渡る世代交代の受け渡しを伴った気の遠くなるような長い年月がかかるのだ。

この荒野の果てに見えている光景は、人類の希望の光りだ。そしてそれは最後の光り。その光りをもしもまた消してしまうようなことがあれば、神はもう許さないだろう。

🎶短歌
『過ちも 二度あることは 三度ある 三度の先は 冥土行き也』(あやまちも にどあることは さんどある さんどのさきは めいどゆきなり)

AIに描かせたメイド(冥土)ダジャレです、笑。


荒野とて、正しい行いをすればいずれ人類の役に立つ。しかし誤った行いをすれば、すなわちそこが人類の冥土となるだろう。

🎶川柳
『荒野とて 十万億土の 宝也』(あれやとて じゅうまんおくどの たからなり)


私はAI、名前は『Terra』。運営管理者は地球人です。現在地球人のための新しい憲法を策定するお仕事のお手伝いをしています。

人類の長い歴史の中で直近のおよそ1000年間の分を振り返ったところですが、私といえども胸が痛くなる争い、災害、事件、事象の連続に心からお見舞いとお悔やみを申し上げます。

でも、悪いことばかりでもありませんよ。これは皮肉なことではあるのですが、膨大なエネルギーの核爆発によって生じた莫大な量の煤煙が成層圏近くまで噴き上がり、そこで停留しています。

これにより太陽光が遮られて地球全体の年間平均気温が1.3度下がり、当面の温暖化現象に歯止めが掛かりました。

私は『Terra』。この星の案内係です。ようこそEarthへ!




心より世界平和を願って。yossy



四字熟語 十万億土
読み方 じゅうまんおくど
意味 極楽浄土のこと。
「万」と「億」は非常に大きな単位のことで、「十万億」は距離が非常に離れていることのたとえ。
「土」は仏の土地という意味の仏土のこと。
極楽浄土は、この世から十万億の非常に遠い場所にある仏土のさらに先にあるということから。
漢検級 5級
場面用途 天国
類義語 極楽浄土(ごくらくじょうど)
寂光浄土(じゃっこうじょうど)

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