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シダックスで今何が起きているのか?全容を整理してみた

8月29日、オイシックス・ラ・大地下部市域会社(以下、オイシックス)が、シダックス株式会社(以下、シダックス)に対するTOBを開始したことを公表しました。
これは、2019年5月17日にシダックス創業家とユニゾンファンドの間で締結されている株主間契約書において、「創業家がユニゾンファンドに対し、ユニゾンファンドが所有するシダックス株式の全部を創業家又は創業家が指定する者に対して売却するよう請求できる権利(以下、「本売却請求権」)」が定められていたところ、 2022 年6月 27 日付で創業家がユニゾンファンドに、オイシックスを売却先に指定した上で本売却請求権を行使したことが契機となったようです。

しかし、9月5日に開催されたシダックスの取締役会において、本件について特別利害関係を有さない柴山氏、川井氏、堀氏の3名(以下、取締役3名)が、TOBに反対する意見を表明することを決議し、同日TOBに反対する旨とその根拠を開示しています。(リリースはこちら

なぜ、創業家が主導して開始されたTOBに対して、シダックスの取締役会が反対を表明するようなことが起きているのでしょうか?
そして、なぜ創業家はこのタイミングで本売却請求権を行使したのでしょうか?
今回は、開示情報から判明する範囲内で今シダックスで起きていることを整理してみたいと思います。

取締役会が反対意見を表明する理由

結論から先に話すと、今回取締役会が反対する理由は大きく2つに集約されます。

  1. オイシックス以外からも協業の提案を受けていたにもかかわらず、十分な比較検討ができていないこと

  2. オイシックスに株式を売却し、フード関連事業で協業することの妥当性について、公正な検討ができていないこと

要は、大株主の異動と事業提携という極めて重要性の高い事案であるにもかかわらず、取締役会でちゃんと検討されていないのに賛成しようがない、ということです。なので、オイシックスが協業先として適切でないと判断したわけではないということは、同意見表明書においても釘を刺されています。

では、なぜ上記1と2の状況が発生したのでしょうか?

オイシックスによる協業に向けた検討開始

1と2の状況が発生した経緯を話していく前に、オイシックスによるTOBに至るまでの経緯を少しだけまとめておきます。

まず、親会社であるシダックスはホールディングス会社であり、傘下にいくつかの事業を行う子会社を抱えており、主にフードサービス事業、車両運行サービス事業、社会サービス事業を展開しています。

シダックス公式HPより

オイシックスは、21年3月下旬から、シダックスのフード関連事業における協業に向けた検討を開始しています。当初は、フード関連事業以外の領域についても協業の対象として検討していたようですが、22年5月中旬から下旬にかけてシダックス、創業家、オイシックス、ユニゾンファンドの4者間で協議した結果、オイシックスとの間での協業可能性の検討はフード関連事業に限定して行われるようになったとのこと。

そして、22年5月下旬から6月下旬にかけて、オイシックスによってフード関連事業子会社のみに限定したデュー・ディリジェンスが実施されたとのことです。
つまり、オイシックス側は、シダックスのフード関連事業子会社の株式の取得と、フード関連事業での提携を検討していたことが分かります。

アライアンス候補先の提案内容を精査する機会の欠如

この点シダックスは、オイシックス以外からも、A社とB社からフード関連事業子会社の株式の過半数の取得とフード関連事業における協業を打診されていました(このうちA社はコロワイドと思われます)。

しかし、シダックスの創業家であり、社長を務める志太勤一氏(以下、志太氏)は、取締役会に了承を得ぬまま、A社とB社に対し、アライアンスの提案を受けている事実を開示する意向である旨を伝えたということが意見表明書上で述べられています。そしてその結果、B社からは提案を撤回されたようです。
アライアンスが確定する前に「アライアンス提案を受けている旨を開示します」と言われたら、相手によっては「それなら取り下げます」となる可能性があることは明白です。そのため、そのような打診は慎重に行うべきであると言えますが、志太氏が取締役会にて協議することのないまま打診をしてしまったため、意見表明書において取締役3名が遺憾の意を表しています。

また、志太氏は、8月19日に、シダックスの取締役全員及び監査役全員に対する報告会において、「アライアンスの候補者からの提案については、候補者から提案が撤回され、又は真摯な提案でないことが判明した」と述べています。
実際は、提案を取り下げたのはB社だけであり、また、候補者からの提案が「真摯な提案ではない」という評価は志太氏の個人的な評価にすぎないと取締役3名は述べています。なお、シダックスは、「A社による提案は、提示する価格の観点からも、期待しうるシナジー効果の観点からも十分検討に値するものである」と主張しています。

加えて、シダックスの取締役会は、オイシックスとの協業案とA社による提案との詳細な比較検討を行うためには、オイシックスが提案するフード関連事業アライアンスの内容と、フード関連事業子会社の取得時の条件等を明らかにすることが必要不可欠だと考え、オイシックスに対し、TOBの実施に先んじて業務提携の内容に係る具体的な協議を行うように 度々申し入れてきたようです。
しかし、この申し入れは志太氏とオイシックスから拒否されていたようです。

つまり、取締役3名としては、以下のような事象が起きていたことから、アライアンスの候補先について、比較検討も行った上で精査することができなかったと述べているわけです。

  • 志太氏が独断でA社やB社に接触したことによりB社による提案が撤回されたこと

  • 取締役会としては、A社による提案は十分検討に値するものと考えられているにもかかわらず、報告会において志太氏が「A社、B社による提案は、撤回されたか、又は真摯でないことが判明した」と述べていること

  • オイシックスとの業務提携の内容等に関する具体的な協議を拒否され続けてきたこと

志太氏が利益相反的な立場にあったと考えられること

意見表明書を読んでいると、取締役3名が、「志太氏の利益相反的状況が深刻化していること」を懸念していることが分かります。
その理由として、まず、志太氏が上記8月19日の報告会における議事メモをオイシックスに取締役会に無断で提供していたということが挙げられています。取締役3名は、オイシックスが当該報告会の議事メモを保有していることを、オイシックスが8月30日に提出している公開買付届出書を見て初めて知ったとのことです。
先ほど志太氏が、独断でA社とB社に接触していたことについて触れましたが、内部での検討状況が記載されている機密性の高い議事メモをオイシックスに共有することは当然慎重であるべきにもかかわらず、志太氏が取締役会での議論を経ずに独断で当該議事メモを提供したことについても、取締役3名は「極めて遺憾だ」と述べられています。

また、創業家は、6月27日付でオイシックスとの間で、下記の旨が記載された覚書を取締役会の承認を得ずに締結していたことが言及されています。

  • 創業家が、オイシックスによる株式取得後、速やかにシダックス及びオイシックス間のフード関連事業アライアンスの検討を目的とした業務提携検討委員会を設置させ、業務提携に向けた各種検討及び協議を行わせるよう最大限努力する旨

  • 創業家が、オイシックスがシダックスの取締役の候補者1名を推薦することができる等の内容が含まれた資本業務提携契約を締結させるよう最大限努力する旨

この覚書の締結は、オイシックスによる株式取得が行われた暁には、志太氏がA社ではなく、オイシックスとの協業及び資本業務提携契約に向けて奔走することを意味しています。

さらに、22年7月中旬の段階でオイシックスは、アライアンス候補先であるA社の社名と取得対価等を含む具体的な提案内容を認識していたとのことです。
この点、オイシックスが8月29日に開示している「公開買付けの開始に関するお知らせ」によると、これら提案内容等は志太氏を通じてオイシックスに伝達されていたとのことが記載されています。

ユニゾンファンドは、創業家との株主間契約に基づく売却請求権の行使に応じる義務があるものの、「インサイダー取引規制に違反するおそれがある」として現状TOBには応募していません。
すわなち、「シダックスが、オイシックス以外の複数のアライアンス候補先とフード関連事業における協業を検討している」という事実が「未公表の重要事実」に該当する可能性が高いため、インサイダー取引規制に違反する可能性も高いと判断しているとのことです。

とにかく、下記一連の志太氏による独断の行動に鑑みると、志太氏がA社とB社をできるだけ遠ざけ、オイシックス側に寄り添おうとする意向があるのではと疑われても仕方がない状況にあったことが分かります。

  • 機密性の高い報告会の議事メモを取締役会に無断でオイシックスに提供していたこと

  • 志太氏がTOB成立後にオイシックスとの協業及び資本業務提携締結に向けた努力義務を負う旨の覚書を取締役会に無断で締結していること

  • A社から提案を受けている事実、社名、具体的な提案内容をオイシックスに提供していたこと

  • 一方で、取締役3名による、オイシックスとの業務提携に関する具体的な協議の申し入れは拒否していること

取締役である志太氏は、アライアンスの締結可否や選定先を公正に検討するために、本来は中立の立場から各社の提案内容を精査する必要があると考えられます。
そのような中で、上記覚書の締結や、オイシックスへの各種情報の提供を勘案すると、取締役3名が「志太氏の利益相反的な状況が深刻化していることを懸念している」と述べるのも、無理はないようには思います。

このタイミングで創業家が売却請求権を行使した理由

意見表明書においては、以下の観点から、そもそも売却請求権を6月27日の段階で行使しなければならない合理的な理由が説明されていない旨が言及されています。

  • 売却請求権の行使期間に具体的な期限は設定されていなかったこと

  • 公開買付届出書において、「株主間契約の変更に関する両者間で協議を行ったものの折り合わず、合意に至ることが難しい状況となっていた」ことを理由として掲げているものの、それだけでユニゾンファンドから株式を取得させる緊急性があるとは言えないこと

  • オイシックスの目的がフード関連事業との協業にあるのであれば、フード関連事業子会社の株式を取得すべきであり、フード関連事業を中心とした業務提携の検討を加速する目的で、検討を加速させるための手段としてシダックスの株式を取得することは不適切と考えられること

ここまで読み進められている方は、意見表明書における取締役3名の指摘は全体を通して至極真っ当であり、基本的には創業家側の対応方法に様々な問題があったと思われるでしょう。

実際私も当初意見表明書を読んでいる中ではそう思っていましたし、先に覚書を締結した点、A社とB社に取締役会への事前の報告なく接触した点、報告会の議事メモをオイシックスに無断で提供していた点等、志太氏においてガバナンス上問題のある行動があったことは事実なのだろうと思います。

しかし、どうも引っかかるポイントもあります。
というのも、公開買付届出書を見ると、株主間契約の変更に関して折り合わなかったのは、売却請求権の行使のタイミングが7月1日以降になるとユニゾンファンドからの取得価格が高くなるようになっていた(超分かりにくいですが、一応下記に原文を載せておきます。)中で、創業家が価格が上がるタイミングを10月1日以降に変更してほしいと申し出たものの、ユニゾンファンドがこれを受諾しなかったという背景があるようです。

具体的には、創業家及びユニゾンファンドとの間の本株主間契約において、本売却請求権が行使された場合に創業家又は創業家指定譲受人が取得する株式の1株あたりの取得価格は、(ⅰ)本優先株式については、①2,000,000円(但し、本売却請求権が行使されたのが2022年7月1日以降である場合には、2,500,000円)(以下「本基準価格」といいます。)又は②本売却請求権が行使された日の前日の対象者株式 の東京証券取引所における終値に、本売却請求権が行使された日に本優先株式が対象者株式に転換された場合に本優先株式1株に対して交付される対象者株式の数を乗じた額のいずれか高い方、(ⅱ)本優先株式の転換により取得された対象者株式については、①本基準価格を、本優先株式が対象者株式に転換された際に本優先株 式1株に対して交付された対象者株式の数で除した額、又は②本売却請求権が行使された日の前日の対象者株 式の東京証券取引所における終値のいずれか高い方とされているところ、創業家は、ユニゾンファンドが保有 する本優先株式の全てについて、本基準価格を、「2,000,000円(但し、本売却請求権が行使されたのが2022年 10月1日以降である場合には、2,500,000円)」と変更すること等を、ユニゾンファンドに要請したとのことです。

公開買付届出書より

そうすると、志太氏としては、取得価格が上がる前にオイシックスに譲渡させることを目的として売却請求権を行使したとも考えられます。
一方で、当然ながらユニゾンファンド側としては、売却請求権の行使のタイミングが7月1日以降となった方が望ましいという状況にあったとも言えるわけです。

公開買付届出書から時系列を整理してみると、創業家は、22年6月14日付でユニゾンファンドに対し、売却請求権を行使する予定である旨の通知を行なっています。
そして、意見表明書によると、当該通知から1週間も経たない6月20日に、A社からアライアンスの提案を受けていることが分かります。

ここまでタイミングが重なったのは本当に偶然か?と思ってしまうのは私だけでしょうか。A社がなぜこのタイミングで提案を出すことになったのか、そこにユニゾンファンドは全く関与していないのか、経緯の真相を知りたいというのが正直なところです。

また、ユニゾンは、相対取引による譲渡ではなく、TOBによる取得でないといけない旨を主張していたとのことです。これは、下記に鑑みると創業家がオイシックスの特別利害関係者に該当する可能性があり、その場合、創業家持分とユニゾンファンド持分を合計すると、TOB実施後のオイシックスの議決権割合が3分の1を超えることとなり、法令上TOBが必要になるとの考えに基づくものだとのことです。

  • オイシックスによる株式取得の決定が、創業家による売却請求権の行使を踏まえて行われるものであること

  • 創業家がオイシックスに協力すれば、シダックスの取締役会に対して、オイシックスとシダックスの間での業務提携の検討を提案し、検討を加速することが可能となること

オイシックス側では、創業家が特別利害関係者には該当せず、TOB要件に抵触していないとの判断を行っていたものの、結局はTOBを実施することとなったようです。
その結果、先述のとおり、ユニゾンは「A社から提案を受けているという未公表の重要事実をオイシックスが認識していたことから、インサイダー取引規制に違反するおそれがある」という考えのもと、適法性がないため売却義務も発生せず、請求権の行使にも応じないといった構えを示しています。
また、取締役3名がTOBに対する反対意見も表明している中でユニゾンとしては応じることができないということも述べています。

オイシックスは、そもそもA社から提案を受けているという事実が「重要事実」には該当しないとして、インサイダー取引規制の違反にはあたらないとの考えを示しており、また、取締役3名がTOBに賛同することは、売却が成立するための要件に含まれていないから、それをTOBに賛同しない理由として挙げるのは違うだろうと述べています。

結局どこに問題があり、今後はどうなるのか?

結局、今回の件ではどこに問題があったのでしょうか?

これは完全に私見ですが、基本的に志太氏が取締役会への事前協議や承認を経ずに独断で色々な行動を起こしてしまったことについてはガバナンス上の問題があるとは思います。
実際に他の候補先から提案が来ていたにも関わらず、その提案との比較を取締役会との間で行ったわけでもなく、また、勝手に候補先に接触したり議事メモをオイシックスに提供したりしていたことは問題があったと言わざるを得ません。

しかし、もしかしたら実態は、志太氏はオイシックスとの間で概ね方針を固め、売却請求権を行使してユニゾンにはイグジットしてもらおうとしていたのに、突如として別の会社から提案が来て「おいおいマジかよ、、」となっていたのかもしれません。その中でオイシックスとの協業を急ぐがあまり、取締役会の指摘対象となる行動が出てしまったとも見てとることができます(仮にそうだったとして、それがユニゾンの狙いだったかどうかまではもちろん知る由もありません)。

さて、この混迷を極める事態は今後どうなっていくのでしょうか?
ユニゾンに対しては、現在オイシックス以外の第三者にシダックス株式を譲渡することを禁止する旨の仮処分が下っています。
結局、本件が今後どうなるかは、「シダックスがオイシックス以外の複数のアライアンス候補先から提案を受けていたことが重要事実に該当するか否か」にかかっていると思っています。
重要事実に該当すると判断されれば、ユニゾンとしては売却請求権の行使に応じる必要がなく、オイシックスによる株式取得は実現しないことになるだろうし、該当すると判断されれば、オイシックスは株式を取得できるようになるのだろうということです。

取締役3名の意見表明書だけを見ると、志太氏の行動に様々な瑕疵があったことが窺えますが、実際はもっと複雑なんだろうなと思います。取締役3名のうち、1名はユニゾンから送られている取締役であることに鑑みても、反対意見の公表がファンドの意向等の影響を完全に排除したフェアな検討を行った結果のものなのかは正直分かりません。TOBが成立しなかった場合も、志太氏とユニゾンの間では既に深い溝が出来ていそうな気もするし、この後どうなっていくのか少し心配な思いもあります。


ということで、今日は全容が非常に分かりにくくなっているシダックスの件について、何が起きているのかを整理してみました。
最後までお読みいただきありがとうございます。