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『ゴーストオブツシマと「声優魂」を読んで考える声優業界の現状』

最近一年半かけて、ようやくゴーストオブツシマ、というゲームのメインストーリーを難易度難しいでEDまでクリアした。非常に面白いゲームだった。時間を見つけつつ地道に遊んでいたのでクリアまでに日数がかかってしまった。

最後までクリアした人も、洋ゲーのオープンワールドにしてはかなり多く、自分のPS4のトロフィー取得率で調べてみたところ、実に51%。購入者の半分がEDまで観ている計算だ。しかも購入者のおよそ10人に1人、約12%がプラチナトロフィーを取るまでやりこんでいる。これは非常に興味深いデータであり、プレイしたユーザーの満足度の高さを示す貴重な数字と言えるだろう。

一般的にPS系ゲームのクリア率、ED観るまで遊ぶ層は平均で大体30~40%ほどなので、51%はかなり高い。

参考として、国民的RPGであるFF7リメイクのクリア率は36%と平均値。トロフィーコンプ率は2.9%と最難関トロフィー扱いになっている。

更に同じく国産FFのナンバリングタイトルであるFF12のクリア率は約20%。購入した8割の人が途中で投げ出していることになる。

更に死にゲーアクションの代表格であるダークソウル3のクリア率は約30%と、高難易度死にゲーにしてはやや高めな数字。それでもプレイした人の実に7割が途中で挫折している惨状である。ゲーム慣れしてる海外の本格派のゲーマーでも、やはりダークソウルは非常に難しいと感じているようだ。
 
 そんな驚異的なデータを叩き出したゴーストオブツシマを開発したのは、海外のサッカーパンチという会社だ。代表作はPS3時代の秀作オープンフィールド系アクション、インファマスシリーズである。主人公は電気を操る超能力者で、広大なフィールドを電気の力を駆使して空を飛んだり、ビルを飛び移る、電車に乗るなど、電撃を操るということもあり、ど派手で爽快感のあるアクションを堪能する事ができる。また、ストーリーの選択次第では主人公が善と悪に分かれる要素があり、それによって覚えていく能力が変わったりするなど、周回的なやり込み要素もあって自分はとても楽しめた。
 
 主人公がプレイヤーの選択次第で善と悪に分かれる要素というのは、一昔前の洋ゲーではかなり多かった。代表的なのはFalloutシリーズや、バイオショック等であろうか。インファマスはコテコテのアメコミっぽいストーリー展開の洋ゲーなので、難易度自体もかなり高めであったが、非常にやり応えのあるゲームであった。サッカーパンチは面白いアクションゲームを作るのが得意な企業で、知る人ぞ知るという立ち位置のゲーム会社であった。

なのでそういうゲームを開発した経緯のあるサッカーパンチが、基本武士道の剣戟ゲームに冥人(わかりやすく言うと忍者)という相反する要素を盛り込んでくるのは、インファマスを遊んだ経験のある自分としては、プレイしてて、流石サッカーパンチ、発想が尖っているな、と思った。

ゴーストオブツシマは発売直後から日本中で話題となり、パッケージ版だけで国内で40万本という、海外のゲームにしては恐ろしいほどの売り上げを叩きだしている。(洋ゲーは一昔前は国内5万本超えたら元が取れると言われていた)

2022年。発売からわずか1年半で全世界売り上げが600万本突破しているそうだ。このペースなら、1000万本の大台を超える日もそう遠くないだろう。

更に日本国内では、PS系でZ指定のゲーム内容にも関わらず、対馬と元寇が舞台という独創性から、地上波の「世界不思議発見」という長寿番組でも取り上げられた。一昔前はゲームは男の趣味で、ゲームやってるなんて言おうものなら、暗いだの、オタクだの、馬鹿だの、アホだの、そんなの時間の無駄だの、ゲームを遊ばない人からはゴミのような目で見られ、社会悪の象徴のように扱われていたものであった。その為、子供の頃からの無類のゲーム好きであった自分は肩身がとても狭く、職場でもゲームの話題はDQとかFFのような国民的な話題作以外は出さないように努めていたのだが、時代は変わったものである。

ゴーストオブツシマは非常に男臭いゲームだが、意外と女性プレイヤーが多いらしい。特集された世界不思議発見のミステリーハンターはゲーム好きらしく、友人に勧められゴーストオブツシマを遊んだそうである。女性に勧めるゲームかよ、と思ってしまうが、女性が遊んで楽しめるゲームなのだろうか? 女性のゲーム好きの感覚はイマイチよくわからない。女性のゲーム好きというと、ひたすら任天堂のどうぶつの森とか、マリオ、ポケモン、マイクラ等を遊んでいる印象が強い。それも偏見なのかもしれないが。

昔は女性でゲームを遊んでいるのは、基本モデルさん等、日焼け対策等であまり外に出られない、インドア趣味を強要される事情がある芸能人とかが多かったが、最近は任天堂の影響か、一般人の女性でも普通にゲームを遊ぶ人達が増えているようである。

ただゴーストオブツシマは、当時の時代背景を意識した台詞回しと難語が度々飛び交うため、日本人の語彙力や多少の教養を試されるゲームでもある。今作は元寇の中の一回目、文永の役が題材になっており、まだ弘安の役があるので、少し気が早い話だが、EDを見る限り、続編が出る可能性も充分ある。基本的には大人向けの硬派なストーリーで、境井仁の精神性は、日本という国のために髷を切り、侍を捨て、日本人になる道を選んだ維新志士の志にそこはかとなく通じるものがあり、私は思わずその魅力的な主人公とゲーム性、巧みな物語展開と衝撃のラストに魅入られて、久しぶりに少し涙腺が潤んでしまった。

元寇に関しては、真偽不明だが面白い話がある。蒙古襲来以前の日本の戦は、戦場でも、騎馬戦のように陣を組んで、基本一対一でそれぞれ名乗りあってから戦っていたらしい。蒙古が襲来してきたときも、当然のように日本人は陣を組んで一対一で名乗りあって戦おうとしたらしいのだが、蒙古はそんなことせず、名乗り出てきた武士を、いきなり集団で襲い掛かって切り刻み、その残酷極まりない戦い方で武士たちは惨殺されまくって狼狽し、ひたすら逃げ回った。そのため元寇以前と以降で、日本の戦の仕方は大きく変わったそうである。というのが僕が中学校の歴史の先生が余興として教えてくれた話だ。昔の話なので、本当かどうかはわからない。先生の作り話かもしれない。あくまでも俗説である。実際のゲームでも冒頭で似たようなシーンが再現されていたので、案外真実なのかもしれない。

まあ実際戦国時代でも、大河ドラマでよくあるように、馬に乗って敵陣に切りかかっていくなんてことはありえない話で(そもそも敵に馬が殺されてしまう)、実際の馬に乗る人は弓をメインで使う弓兵だったそうだ。実際の元寇でも、日本人たちは弓を主体にして応戦したそうである。

歴史物を題材にした小説とか、創作物を作ると、必ずと言っていいほど湧いてくる層がいる。それが歴史だけには無駄に詳しい史実厨である。日本を題材にした小説を書く小説家は、必ずと言っていいほどその手の史実厨に嫌がらせの如く「史実と違う」と手紙とか、口頭で指摘されたりするという話を編集者から笑い話で聞いたことがある。それが嫌で、中国史とか、西洋を舞台にした歴史小説を書く日本人作家も一定数いるそうだ。それほど歴史好きの史実厨はとにかく口やかましいのだ。

でもそういう日本の史実厨の知っている歴史というのは、殆ど局地的で、戦国時代とか、江戸時代とか、幕末が大半であり、それより前の平安時代とか、古代史に関しては無関心な人が多い。当然の如く、元寇というものも、日本人は義務教育レベルで名前だけは知ってるけども、具体的内容まではくわしく知らない人が多いのが現実であるし、独自に調べないといけないところだろう。かく言う私も元寇に関しては、このゲームを遊ぶまでは、文永の役と弘安の役と、鎌倉時代に2回蒙古が攻めてきたという話ぐらいしか知らない程度の歴史知識しかなかった。

そんな元寇、蒙古襲来という実に新鮮で魅力的な題材を扱った物語の中で、非常に重要な役割を演じる志村殿という登場人物を、超一流声優の大塚明夫氏が演じていた。

最近、大塚氏はデスストランディングなどにも出演していて、近年ゲームの吹き替え方面でも声を聴く機会が増えているような感じがする。単に自分の好みのゲームに多く出ているだけかもしれないが。。。
 
 自分が始めて大塚明夫氏の声を知ったのは、不思議の海のナディアのネモ船長だ。その後、メタルギアソリッドを2、1、3の順番で遊び、大塚氏の声の虜になってしまった。3の序盤の無線でネモ船長をメタ的にいじられていたシーンがあったのには、思わずニヤリとしてしまった。

そんな大塚明夫氏の書いた『声優魂』という本を読んだ事がある。それは声優業界の一線で活躍する氏が、声優業界の現状や声優としての芝居などを自身の声優歴と経験を踏まえ、赤裸々に綴った内容で、非常に興味深い一冊だった。流石に天下の大塚明夫氏にここまで正直に厳しい現実を書かれてしまっては、他の若手声優さん等はぐうの音も出ないであろう。

声優魂によると、大塚明夫氏は元々は舞台俳優志望であったそうだ。一昔前は声優というと、舞台俳優等が副業でやる感じだったようである。ここ20年程で声優の数は実に4倍程に増えているらしい。

そんな現状に関して、私的に結論から言えば、声優の数は多いほうがいいと考えている。例えばスーパーに行って食料品を買うときに、食材の品揃えがいつも同じだとつまらないだろう。だから声のサンプルとして、声優も多いほうがいいとは思う。ただ、数が多くなるという事は、その分競争も激化することを意味するのだ。

そんな中でも他の若手や中堅の実力派を蹴散らし続け、仕事を全く途切らせない大塚明夫氏は、やはり超一流の実力派声優といえるだろう。実際大塚明夫氏が出演する、というだけで、かなりテンションが上がる人も多いはずだ。やはりゲームを知らない人でも名前ぐらいは知っている、スネーク(ソリッド、リキッド、ソリダス、ネイキッド、オールドと、大塚氏は一人で5役をシリーズごとに演じわけていた)という世界的人気キャラクターやブラック・ジャック、黒ひげを演じているという実績、代表作を持っている声優は強いものである。

そもそも自分が声優に強く興味を示し、大塚明夫氏の書いた『声優魂』という本に触れたのは、物書きとして物語を書く上で、登場人物の声のイメージまで考えて人物作りをするようになったからだ。不思議な事に、人物のバックボーンとか声までイメージして登場人物を作り込むと、自然と作者の意思を超えて勝手に登場人物達が喋りだしてくれることがあるのである。

それを知ってから、自分は登場人物を作るときは、声までイメージして作るようになり、そのサンプルとして、今は色んな声優さんの声を名前までは無理に覚えず、ひたすら役名と声だけを収集するようになっている。最近は声優の声から登場人物のイメージを膨らませていく事も増えてきた。

そのため、勉強のために、時々声優と夜遊びというネット番組を観て、他の曜日のYoutubeのダイジェストもチェックしていたりする。

声優と夜遊び2019年金曜日回にも大塚明夫氏はゲストとして出演しており、貴重なお話が聞けたり、ダミーヘッドマイクを使った芝居、ご自身がメタルギアを遊ぶなど、大いに楽しませてもらった。大物なのにとても優しく、サービス精神溢れる人のようであった。その話の中で驚いたのが、実はブラックジャックが代役であったという事実である。私は衝撃を受けた。

最近はバラエティ声優などという存在も現れ始め、特に僕の好きなアニメ、ブラックラグーンのグレーテル役で出演していた金田朋子氏は、近年タレントとして精力的に活躍している。その分、声優の仕事が最近来ない・・・と番組でぼやいていたが。金田朋子氏は、おしりかじり虫だし、流石にテレビに出られるのは、とてつもない実績や代表作を持っている声優さんぐらいだと思うのだが、やはり声優業にもまだまだこだわりがあるのだろう。

今の時代、声優は本当に過酷な仕事になってきている。昔はともかく、今の時代は容姿の良さが強く求められ、かつ歌も歌えないといけない。更に舞台等で演技をする機会もある。ナレーションやらラジオの仕事もこなさないといけない。良い作品、良い役に恵まれる運も必要である。

大塚明夫氏は、自書の中で声優も役者であり、単に台詞を良い声で読むだけなのは芝居とはいえない、と書いていたのが印象的であった。大前提として、声優としての芝居がキッチリできないと、長くは生き残れない世界なのであろう。大塚明夫氏が「声優だけはやめておけ」という理由は、あまりにも奥が深すぎるのだ。

声だけで人間の喜怒哀楽を表現することは困難を極める作業である。例えば内心怒りを感じているけれど、必死に冷静に言葉を選びつつ優しく喋る登場人物の台詞を、演じる人物の性格も考慮しながらどう声だけで表現するか、という演技を求められた場合、それを声のプロとしてやってのけるには、やはり本当に役柄に対する深い理解力と声優としての実力がないと難しい。
 登場人物の人柄を想起させるような台詞を書くこと自体、物書きにとっては大変なことでもあるが。

男性声優なら40過ぎても声優としての芝居が出来、良い人間関係に恵まれていれば、仕事に困る事は無いかもしれないが、こと女性声優に関しては、寿命が本当に短い。30も過ぎると人気商売は殆ど出来なくなり、実力を求められ始め、大塚氏が自書の中で書いていたように、本当に声優としての声の芝居、登場人物に命を吹き込むことが出来ないと、仕事などあっさり無くなってくるようだ。
 
 最近の自分は基本的にドラマや映画の吹き替えとゲームでしか声優さんをよく知らない状態である。男性声優さんだと、自分がよく知ってて好きな声優は、アンチャーテッドシリーズのネイサン・ドレイク(ネイト)とか、プリズン・ブレイクのマイケル役、スーパーナチュラルのディーン等を演じてた東地宏樹さんで、他には冒頭で書いたゲーム、ゴーストオブツシマで主人公の境井仁を演じてた中井和哉さんも、改めて凄い実力のある声優さんだな、と再認識させられたところである。

中井和哉さんといえばワンピースのゾロだし、銀魂の土方でもあるし、剣士役を演じる事が比較的多く、そういう実績の多い声優さんであるから、境井仁は本人にとっては、意外とはまり役だったのかもしれない。ゲーム内でウソップ役の山口勝平氏との共演もあったり、FF13のファング役の人がいたり、ゴーストオブツシマは声優陣も豪華絢爛であった。というか、ワンピース声優が多かった。

ただどんなに実力のある男性声優でも、昨今のアニメは若い登場人物が多いので、主人公とかメインキャラを演じるのも自然と若い人が多くなってしまう。そのため、40以上の実力のある声優でも、主人公を演じられる機会は殆ど無くなってしまい、大方年上のメインキャラか、重要な役などを演じる事の方が多くなってくるようだ。大塚明夫氏も、近年アニメ方面では範馬勇次郎というある意味主人公とも言える馬鹿でかい役を演じていたりする。アニメ方面でも大活躍である。

40超えたときに、所謂主人公じゃないけどメインキャラの一人や、魅力的な悪役とか、物語において重要な役回りを演じられるポジションに安定してつけるかどうかが、男性声優が生き残れるかどうかの大きな分岐点になるのかもしれない。40代以上で主人公をするとしたら、海外ドラマや洋画、若しくは洋ゲー等の吹き替えぐらいしか無いのではないだろうか。少なくとも、今時の最新アニメではかなり難しいと思われる。織田シナモン信長というアニメは、作品の内容からか、かなり大物の声優が主役を演じていたりしたが、あの手のアニメは種が少なく、原作もないので、今の時代は中々作れない。

女性声優だと、最近遊んで面白かったゲーム、ホライゾンゼロドーンで主人公のアーロイを演じていた高垣彩陽さんの演技は凄かった。まさにアーロイという感じだった。彼女は他にもジョジョ3部のマライア等、声色が多彩で、野性味溢れるアーロイとは異なり、色気のある大人の女性も演じることが出来るようだ。というかガンダム作品に多く出ているガンダム声優さんでもある。

他に個人的に興味のある女性声優は藩めぐみさんだろうか。藩めぐみさんはハンターハンターのゴン役のイメージがあるが、自分の中ではラストオブアスのエリーの方のイメージが強い。最初はゴン役の人だと気が付かず、あとでEDを観たら藩めぐみさんだったと知ったときは非常に驚いた。少年とか少女の声が得意なのかと思ったら、俺物語というアニメで可愛らしい王道のヒロイン声を演じていたり、やはり声の幅が広い女性声優さんという印象を受けた。

昔はアニメもよく観ていたが、最近観るアニメは、世界名作劇場とか、基本ちょっと昔の作品か、超有名アニメか、ギャグアニメが大半だ。

最新のアニメは有名な物以外ほとんど観ていない。しかもアニメに出る声優さんの名前までは、余程気に入った作品でもない限りチェックしていなかったりする。基本最新の声優に疎い男である。

現時点で、テレビはゆるやかに斜陽を迎えているそうで、今後テレビに出るには、ギャラが安くなったり、演者側がお金を払う時代が来るようになると不穏な話も囁かれ始めている。アニメ業界はネットフリックスやフールー等の登場で、まとめて一気に観るスタイルが定着しつつあり、地上波で毎週放送というこれまでのパターンも少なくなり、アニメを製作する側の負担が増えてくるかもしれない。そうなると、声優さんもますます生き残りに大変になってくるだろう。

そんな中でも本当に実力のある声優たちは、きっと形を変えて生き残っていくであろう。特にブラック・ジャックである大塚明夫氏は、今後も無風で大活躍してくれるはずだ。大塚明夫氏の演じるブラックジャックの演技は凄い。個人的には大塚明夫氏と言うとスネークのイメージが強いのだが、ブラックジャックでは、同じ声質でありながら、声のトーンや柔らかさが全然違って、低い声にもどこか温かみもあって、あのスネークを演じている声優とは思えないほどなのである。時期的にはメタルギアソリッド3の声収録の後で、本当にスネークを演じきった後なのだが、全く気づかない人は、言われないとわからないだろうというレベルに演技の質が違うのである。これが大塚明夫氏の言わんとする声の芝居というやつなのだろう。

とりあえず、ゴーストオブツシマを遊び終えた自分は、dアニメストアでブラック・ジャックでも久しぶりに観ながら、大塚明夫氏の言わんとする声の芝居という奴をじっくりと、改めて堪能しようと思っているところである。

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