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【百年ニュース】1920(大正9)7月3日(土)皇太子裕仁親王が初めて東京帝国大学を訪問。山川健次郎総長「各部長の説明を熱心に御聴取なされ十分ご見学遊ばされたように拝察する。殊に伝染病研究所から持ってきて陳列御覧に入れた食用蛙のオタマジャクシにお目を止められ、ご休憩中も渡瀬博士の説明に御肯首遊ばされ御感興深く‥」

「午前九時御出門、東京帝国大学に行啓される。本部において東京帝国大学総長山川健次郎・名誉教授穂積陳重・法学部長仁井田益太郎・医学部長佐藤三吉・工学部長塚本靖・文学部長上田万年・理学部長事務取扱藤沢利喜太郎・経済学部長山崎覚次郎・農学部長古在由直にそれぞれ謁を賜い、ついで法学部講堂において列立の教員団に謁を賜う。それより工学部より理学部にかけて各教室を巡覧され、途中米国の食用蛙等を御覧になる。午後、附属医院にお成りになり、外科手術室、医学部各教室を巡覧され、それより史料編纂掛・図書館・文学部・経済学部を順次御覧になる。午後三時大学を御出門、還啓される。(昭和天皇実録)」

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なお東京帝国大学は同年、開学以来の9月入学制を廃止し、4月入学へと学期を変更することを決定した。小中学校は政府会計年度と徴兵制に合わせた4月制。大学に対しても文部省より移行要請があり、帝国大学を中心に反対論が強かったが、前年一部の高校や私立大学が移行。帝国大学も消極的ながら受け入れた。

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以下、学年暦の改正について、実施に至る経過を中心に記述する。

9月学年開始は、すでに明治6年の開成学校規則の「学歳」に関する規定にみられ、東京大学、帝国大学、東京帝国大学の各時代を通して、40年余の歴史があった。明治、大正期を通じてみると、師範学校や中学校ははじめ9月学年開始をとっていたが、まず高等師範学校で四月学年開始が採用され(明治19年)、ついで師範学校(明治25年に法制化)、小学校(明治33年法制化)、中学校・高等女学校(明治34年法制化)というように、徐々に4月学年開始制へ移行していた。学年暦を政府会計年度と徴兵制の二つに適合させるという要請がその基本にあったとされている(佐藤秀夫「学校文化の起源1学年はなぜ四月から始まるのか」『月刊百科』185号、昭和53年4月号)。


明治後期から大正期にかけて9月学年開始制度をとっていたのは、高等学校と帝国大学だけであった。このため、旧制中学卒業(3月)から旧制高校入学(9月)までの間に、半年間の空白期間がおかれていた。一方、明治後期の学制改革議論のなかで、大学卒業までの年限を短縮する必要がしばしば説かれていた。実際、大正2年9月当時、東京帝国大学の入学者の平均年齢は22.5歳で、規定されている年齢より高かった。卒業者の平均年齢は27.5歳であった。これを引き下げるためにも、全学校階梯における学年開始期を統一する必要があり、これが東京帝国大学の学年始期の改正を促したものとみられる。

東京帝国大学において初めて学年暦の改正の件が審議されたのは、大正2年11月10日の評議会であった。この日評議会は学年を4月1日より翌年3月31日までとする件を可決した。これ以降、評議会は具体的な実施方法を4回に亙り審議したが、全分科大学の一致が計られず延期となっていた。というのも、評議会では各学年を毎年1か月ずつ短縮し、終に開始時期を4月にする案を決めており、たとえば法科大学で も右の案に沿い大正4年は6月、5年は5月、6年より4月とすることに決定したが、医科、理科両分科大学が一気に三か月短縮する案を採用するなど、実施の共同歩調がとれなかったのである。そののち、帝国大学制度調査委員会においても議題となり、評議会は大正7年5月14日、「大学以外の諸学校すべて四月を学年始とすることはやむを得ず同意すること」と消極的姿勢において改正を可決していた。この間、政府文部省の教育審議機関、教育調査会と臨時教育会議はともに4月開始を決議、あるいは答申していた。

ここにおいて再び実施を迫られ、評議会は大正8年11月4日から協議を開始し、各学部教授会の意見をも徴し、翌9年2月2日に至り漸く可決をみた。評議会の記録には「改正するも支障なきものと認める教授会あり、また高等学校学年開始期を四月に改める以上はやむを得ず同意する他なしという教授会あるも、 改正を絶対拒否するという意見なく、結局きたる大正10年より改正の見込みをもってそれぞれ調査をなすことに決す」とあり、積極的意義を認めた上での改正でなかったことが明瞭である。このような経過を経て大正10年以降、4月学年開始が実施されたのである。 

 『東京大学百年史 通史二』pp255-257

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