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【百年ニュース】1921(大正10)4月3日(日) 東京日日新聞に売春問題につき杉田直樹医学博士が投稿。人身売買等人権侵害の禁止を要求。また男性が即物的欲望のみ追求する傾向が,売春婦の堕落を招いていると問題視,かつての吉原遊郭全盛期のように,女性の優美典雅な特質および芸術的,人格的修養を求める。

以下の杉田直樹医学博士の投稿により、当時の売春問題への感覚が、現在とは全く異なっていたことがわかる。

通俗講話 売笑婦の改善(五)彼女の堕落は一面男子の罪
医学博士 杉田直樹氏 談


売笑婦をもって社会の悪性な病的産物とし、有害無益な亡国的厄介者としていたずらにこれを嫌悪するのは、深く売笑問題を研究もせず、単に感情のみ馳せた軽率不真面目の態度たるを免れぬ。

無論今日多数の売笑婦は、専ら商売づく、男子の一時的の玩具に過ぎないから、種々の弊害も起こり、したがってこれが取締りも必要であるが、しかしただ取締りとか撲滅とかいうことばかりに力を入れないで、少しは理解あり同情ある方策に出で、売笑婦の改善をはかってやったらどうであろうか。

それには人身売買の如き人権に関する侵害を一切禁じ、自己の自由意思によって売笑するという風にすべきは言うまでもなく、一方男子もまた売笑婦に対して、単に刹那的の性交のみを求めず、もっと婦人の特質としての優美な典雅な性情を買うようにすることが必要である。

すなわち未婚の男子はかれらと交際することによって、自由に異性の人格の魅力的な特質に親しく接し、暖かいその胸に触れて、真の男女の性的慰楽を買い得るようにしたいものである。

男子が彼女らに、その人を魅するような人格、男に慰楽をあたえるような修養、芸術を要求するようになれば、売笑婦の人格も自ずと高まり、趣味も広く、かつ深くなるに決まっている。

昔吉原全盛時代に名高い太夫が多く輩出し、また昔の芸者に優秀の者が多かったのも、当時の客の趣味がしからしめたのである。

しかるに今日のように、男子がただ性交のみを求めているようでは、芸者も人格を修養し、芸道を磨く必要はなく、性交の挑発法さえ心得ておればよいので、その堕落し、風俗をみだすのもやむを得ない。

東京日日新聞 1921(大正10)年4月3日 

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杉田直樹

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大正時代は国民の人権意識が高まり,女性の政治運動も活発化。廃娼運動の高まりで,大阪難波(なにわ)遊廓廃止,吉原花魁(おいらん)道中反対,大阪飛田(とびた)遊廓設置反対などの運動が展開された。しかし売春防止法の制定は戦後1956(昭和31)まで待たねばならなかった。

関口すみ子『近代日本公娼制の政治過程: 「新しい男」をめぐる攻防・佐々城豊寿・岸田俊子・山川菊栄』白澤社,2016


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