見出し画像

「不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか」 鴻上尚史著 講談社現代新書

「不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか」 鴻上尚史著 講談社現代新書

FBFの方がタイムラインで紹介していたのを読んで、即アマゾンでチェックしたら売り切れだと言うので、本屋に直行して買いました。買ったかいがありました。


あの時代に、あの特攻という仕組みの中で、こんな人がいて生き残ったという事実が深い感動を呼びます。

佐々木友次という陸軍の特攻隊員は、9回出撃して9回生きて返ってくるのです。敵艦を沈めて、敵の攻撃をかいくぐり帰ってくることができたのだから、むしろ国のためではないかというのが彼の主張です。


なぜこんなことが可能になったのかというのは、彼自身の卓越した技能はもちろん、何人かの協力者賛同者がいたことによります。特攻隊の仲間たち、マラリアで入院していたときの軍医たち、一部新聞記者たちなどです。

つまり、あの物言えない時代のもっとも過酷な環境の中で、「個」が力を持ち、その「個」に賛同する動きがあり、その力が、佐々木さんに生きる力を与えたと言えます。


佐々木さんだけでなく、「個」を「集団」に対して押し通した人がいます。


例えば、佐々木さんの上長であった岩本益臣特攻隊長です。彼は、周りの反対を押し切って、特攻機に固定されていた爆弾を投下可能に変えさせました。この変更がなければ、佐々木さんは生還できなかったのです。


もう一人、この本の中で紹介されている「個」で印象的なのは、美濃部正少佐です。最大速度が200キロ程度の羽布張りの複葉機「九三式中間練習機(通称赤トンボ)」での特攻を命じられた美濃部少佐は、会議の中で最も下位の飛行隊長だったのですが、次のように決然と言い放っています。


「私は箱根の上空で(零戦)一機で待っています。ここにおられる方のうち、50人が赤トンボに乗って来てください。私が一人で全部たたき落として見せましょう」


この美濃部少佐の発言に、出席者は一言もなかったそうです。


彼らに引き換え、集団の力をバックに勇ましい言葉で正義を振りかざす「命令する側」の、嘘っぽさ・・・。「貴様らの後に続く」と言って特攻隊を送り出した「命令する側」は、ほとんど後に続かなかったのです。そればかりか、生き残った「命令する側」は、自分たちの命令を、「特攻隊員達は自ら志願した」と言って正当化していきました。集団の力をバックに勇ましいことを言う人なんて所詮そんなもんです。信じちゃいけません。


実は、「個」は強い。しかし、その後の援助がなければ、結局「命令する側」の集合的な力に潰されます。でも、もし「個」と「個」が協力し、それが大きなムーヴメントにまで発展すれば、集合的な力を押し返し、「個」の集合がマジョリティーとなり主導権を握ることができるのではないかと、僕は考えます。


第二次世界大戦の頃にはとてもできなかった「個」同士の有機的な協力が、現在のネット社会では可能なのかもしれないと、この本を読んで妄想しました。


たとえマイノリティだろうが、主張すべきは主張し、理不尽には堂々とNoと言いましょうぜ・・・と、心から思いました。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?