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「真剣師 小池重明」 団鬼六 著 幻冬者アウトロー文庫

最後の真剣師と言われ、最強だった小池重明の物語。真剣師とは、賭け将棋で渡世する、いわば将棋のギャンブラーです。


小池の父親は駅前で傷痍軍人のふりをして金を得たり、家で賭場を開いたりしていました。母は売春もしていたようです。小学校3、4年ごろには、夫婦で重明に賭け事を教えています。


ある日、外で遊んでいた小学生の重明に、数人の男たちから「お父さんは誰と家にいるのか」と聞かれ、重明は正直に答えます。その男たちは刑事で、父は賭場開帳の現行犯で逮捕されてしまいます。出所後父親は、重明に、「人を見たら刑事と思え」と諭します。名言ですね!?


高校でタバコを吸った重明は、校長室で説教されます。呼び出された父親は、重明の頭を校長の前で殴り「手前、煙草だけは絶対に学校じゃ吸うなと教えたはずだぞ」と言います。


まあ、なかなかな父親でした。


彼が将棋を知ったのが中学のとき、父親から手解きを受けたのが始まりです。そして、本格的に将棋を始めたのは高校からですが、その強さは半端ではありません。アマ名人2期連続獲得、将棋雑誌主催のアマ・プロ戦において、プロ棋士4人を撃破、またプロ八段に3連勝をして、将棋界にセンセーションを巻き起こします。


大変な才能を持っていた小林ですが、素行が悪い。酒に溺れ、女に惚れ、勤め先の金庫から金を空くねて蒸発ということを繰り返します。


そうした生活から足を洗うには、プロの棋士になるしかないと考えた小林は、大山康晴十五世永世名人の計らいで、特例でプロになる可能性が出てきたのです。小さい頃から奨励会に入り修行して、30歳までに4段に昇格しなければ、将棋のプロにはなれない決まりになっていますが、ごく例外的にとてつもなく強いアマ棋士がプロになったことがあります。


大山康晴十五世永世名人の後ろ盾があるのですからプロになれるかと思われた小林ですが、棋士の総会で、大方の棋士の猛反対を喰らい叶いませんでした。


その後もトップアマにもプロにも勝ち続ける小林ですが、酒・女・金・ギャンブルの素行は収まらず、最後は無一文同然になり、44歳で肝不全で亡くなります。


小林重明は、大変な天才だったのでしょう。小林を何かとサポートしてきた団鬼六は、次のように小林を評しています。

「人間の純粋性と不純性を兼ね合わせていて、つまり、相対性の中で彷徨をくり返していた男である」

人間とは、本来矛盾を抱えた生物です。大抵の矛盾は目立たず気付かれません。小池重明ほどの天才が放つ矛盾は、誤魔化しが効かないほど強烈だったのでしょう。


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