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カンヌ映画祭2024日記 Day12

25日、土曜日。ついに映画祭最終日!本当に、あっという間。6時起床、昨夜書いた日記をアップして、8時に朝食を食べていると、本日10時だと思っていた1本目の開映時刻が9時であることに気付き、大慌てで外に出る。
 
本日は映画祭の中心部からバスで30分ほど行ったところにある「Cineum」というシネコン会場に行く予定だったのだけど、もうバスを待っていては間に合わない。絶対に逃したくない上映だったこともあり、タクシーに飛び乗って会場へ。なんとか間に合い、安堵。最終日だということで、気が抜けていたのだろうか。いかん。
 
ということで9時から、コンペ作で、ミゲル・ゴメス監督新作『Grand Tour』(扉写真も/Copyright Shellac Distribution)。1918年を舞台に、何年も会っていない婚約者の女性から逃れようと、男性がミャンマーからシンガポール、タイ、ベトナム、フィリピン、日本、中国などのアジア各地を転々とする物語。

"Grand Tour" Copyright Shellac Distribution

前半は、男がいわば映画の狂言回しのような形で観客をアジアの旅に誘い、後半は男を追う女の目線で改めてひとつのメロドラマ調なドラマが綴られていく。物語映画の定石から自由に逸脱していき、純度の高いアート性に到達するゴメス監督の力量はやはり素晴らしい。フィクションのドラマとともに現代の映像もふんだんに使用され、夢のような感覚の中、アジアの都市や森が繋がっていく。カラーとモノクロ、言語も多様に自由に入り交じり、軸になるのは、各地の歌や、人形芝居などの大衆芸能。
 
現地の芸能だけにこだわることなく、サイゴンではヨハン・シュトラウスのワルツに合わせて自転車が輪をなして走るし、フィリピンではおじさんがカラオケでマイ・ウェイを歌って泣く。そこに各地の紙人形の幻燈芝居や、文楽的人形劇などのストリート芸能がふんだんにフィーチャーされる。映画のルーツを辿る旅であるようにも見える…。
 
ああ、これは秀作。タクシーに飛び乗って、本当によかった。
 
次まで時間が空いてしまうので、今度はバスに乗り、カンヌ市の中心部に戻ってホテルで1時間ほどパソコンに向かってから、改めて、上映を見に行くべく、バスに乗り、朝と同じ「シネウム」会場へ。
 
14時15分から、コンペのミシェル・アザナヴィシウス監督の新作、アニメーションの『The Most Precious of Cargoes』。第2次大戦のホロコーストを巡るドラマ。収容所に向かう列車から双子の赤子のひとりが外に投げ出され、その赤子を見つけた木こりの妻が赤子を育て、戦争を生き延びていく物語。

"The Most Precious of Cargoes" Copyright Studiocanal

IMAXで見た映像の魅力はそれなりにあったものの、ホロコーストの描写が賛否を呼ぶのではないかと感じてしまう。映画を巡る重要な論点のひとつとして、「ホロコーストと表象不可能性」は欠かせないはずで、その認識が本作には甘いと思ってしまう。『サウルの息子』や『関心領域』が成し遂げた成果に比べると、厳しい。とはいえ、「描けること」にアニメーションの特性もあるわけで、これからじっくりと考えるきっかけになりそう。
  
続けて同じ会場で、16時から、「アウト・オブ・コンペティション」部門に出品のピーター・チャン監督『She’s Got No Name』

"She’s Got No Name" Copyright We Pictures

1940年代の日本統治下の上海が舞台。妻がDV夫を殺してバラバラにした事件があり、本当は何があったのかを明らかにしていく物語。事実を元にした物語であるよう。主演のチャン・ツィイーが熱演であり、女性の受難を主題とした力作であることに異論は無いものの、周囲の人物たちを巡るサイドストーリーが多く、2時間半がいささか長く感じられてしまった。
 
以上にて、今年のカンヌの作品鑑賞は終了!今年を代表するであろう作品の数々に接することができて、かつ体調も万全で全日程を乗り切れたことに対し、いろいろなものに感謝。全体の総括はまた追って書こうかな。
 
19時半に知人と合流、カンヌの旧市街にあるレストラン街に行き、隠れた人気店だという店に入り、気持ちのよいテラス席で至福の打ち上げディナー。カロリーメイトの日々からついに脱却、実に7日振りの夕食だ!ギリシャ・サラダと、やはりがっつりステーキ!付け添えのトリュフ風味ポテトピュレーを付けて食べると、とても美味しい。ロゼのワインを頂きつつ、カンヌの最後を満喫する。肌寒い夜が続いていたけれど、今夜はおだやかで、天候からもご褒美を頂いた気分!

感動の野菜!
レアで頂きました

そして、夕食を食べている間に受賞結果が入ってくる。パルムドールにショーン・ベイカー、やった!おめでとうございます!とても嬉しい。そして、ミゲル・ゴメスが入り、本日見られてよかったと胸をなでおろす。俳優賞は的中。しかし、アンドレア・アーノルド監督『Bird』が無冠と知り、落胆する。そうか、そうなのか…。
 
まあ、審査結果に完全に同意できることのほうが珍しいわけで、悲喜こもごもなのは、毎度のことだ。傑作秀作を多く見られたことを、ありがたく感じるばかり。
 
22時に気持ちの良い夜の中、市内をブラブラと歩いて、カンヌを惜しみながら、ホテルへ。23時に就寝。
 
26日、日曜日。4時起床。日記ブログを書いて、アップ。これからパッキングして、6時半にホテルを出て帰国の途につきます。
連日モウロウとしながら書いたとりとめもない日記に付き合って頂いて、ありがとうございました!おつかれさまでした!

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