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カンヌ映画祭2024予習「ある視点」編
2024年カンヌ予習ブログの2回目は、「ある視点」部門を予習します。賞がある「第2コンペ」的位置づけですが、かつてはメインコンペからこぼれた作品が入る(ように見える)ことがしばしばありました。2021年に大幅に方針が刷新され、以降は若手プッシュ部門に切り替えています。よって情報量が少ない作品も多く入りますが、それだけ楽しみな部門でもあります。
【ある視点部門】
〇『Norah』タウフィク・アルザイディ監督/サウジ・アラビア
アルザイディ監督は、Internet Movie Data Baseを見ると、本作が長編第1作となっているのですが、カンヌの部門横断で決められる「新人監督賞(カメラドール)」の対象になっていない。短編やテレビで豊富な経験を積んでいますがが、どうやらIMDBの記載データ以前に長編を作っており、中東の映画祭で受賞しているようです。
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「90年代のサウジ・アラビアの田舎の村。若い女性のノラはいつも村から離れて過ごしているが、いよいよ自分の目指すもののため、外の世界に踏み出そうとする。その時、村の女性のナデールが、単なる教師以上の存在であることを知る」
ほとんど情報が無いですが、ともかくサウジ・アラビアというと女性の監督に活躍の場が無いどころか、活動が許されていないというイメージが先行しますが、その中でフェミニズムをどう描いていくのか、この作品がブレイクスルーとなるのか。カンヌという場で発表されることは大きなメッセージとなるため、非常に注目される作品であると思います。
サウジでは「Red Sea International Film Festival」という映画祭が23年で3回目を迎えていて、中東の大規模映画祭として急成長しています。昨年その場で元ユニバーサルのプロデューサーが中東拠点の製作会社「Red Palm Studio」の立ち上げを発表し、その最初の作品が本作であるようです。地域の映画業界にとっても象徴的な1本になるということで、様々な観点から注目を集める1本になりそうです。
と、ここまで書いて気付きました。23年の「Red Sea International Film Festival」のコンペ部門に『Norah』は選ばれていますね。なので、カンヌはワールドプレミアではないのですね。なるほど。「ある視点」でワールドプレミアでない作品が入るのは稀ですが(しかも若手の作品で、23年の11月に上映実績のある作品となれば極めて稀)、それだけカンヌが興味を示したということはいよいよ見逃せません(別バージョンなのかも?いや、分かりません)。
〇『The Shameless』コンスタンティン・ボジャノフ監督/ブルガリア
コンスタンティン・ボジャノフ監督は長編第2作『Avé』(11)がカンヌ「批評家週間」に出品されています。これは僕には印象深い作品で、東京国際映画祭でグランプリを受賞した『イースタン・プレイ』(09/カメン・カレフ監督)の劇中の兄弟の弟役の俳優が『Avé』に主演していたからで、小品ながら好感の持てるロードムービーでした。続く、『Light Thereafter』(17)はバリー・コーガンの天才的演技を擁してメインストリームに近付いた感がありました。そして本作が長編4本目です。
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「インド人の娼婦であるラニは、遠い寺院への巡礼に向かうと家族に告げる。その旅で、ラニは波瀾万丈の過去を見直すことになる。特に、若い頃に愛しあった女性のことを。バンガロアという町で、その女性は殺人の罪で終身刑に服している。バンガロアは、まさにラニの道中に位置しているのだった」
「デリーの娼館で警官を殺したレヌカは、インド北部のセックス・ワーカーたちのコミュニティーに身を潜める。その場所で、彼女は17歳のデヴィカと禁じられたロマンスに身を投じる。あらゆる逆境にも関わらず、彼女たちは自由への道を切り拓こうとする」
ネットで見つけることのできたあらすじは上記のふたつで、最初の文が地の時制、次の文がフラッシュバックで映画のメインとなるのかな、と想像させます。ブルガリアを離れ、インドでフェミニズムの作品を手掛けるに至ったボジャノフ監督。その心境を久しぶりの作品を通じて目撃したいと思います。
〇『Le Royaume』ジュリアン・コロナ監督/フランス
フランスはコルシカ島出身のジュリアン・コロナ監督による、長編第1作。コロナ監督は84年生、写真を勉強したのちパリに出て、短編やドキュメンタリーやCMなど、幅広く映像を手掛けています。フィクション長編は本作が1本目とのことで、「カメラドール」候補でもあります。本作の英題はまだ表に出ていませんが、意味はThe Kingdom。
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「コルシカ島、1995年。レシアは思春期の夏を迎えている。しかしある男に人里連れた村に連れていかれると、そこでは行方不明だった父が他の男たちと隠れていた。コミュニティー間の戦争が勃発する。死者が出る。父と娘は互いに向き合わざるを得なくなる」
ジャンルはスリラーになるのでしょう。コルシカに特有な土着的背景も重要になってくるのだろうと思われます。スチール写真の強烈なまなざしから目が離せません。
〇『Vingt Dieux!』ルイーズ・クルヴォアジエ監督/フランス
ルイーズ・クルヴォアジエ監督もフランスの新人監督、「カメラドール」対象です。サーカス芸人を描いた短編『Mano a Mano』(19)がカンヌの短編部門でグランプリを受賞しています。実際に彼女はサーカス芸人の家庭で育ったとのことで、何とも興味が惹かれるキャリアです。新作のタイトルを英訳すると、Twenty Gods! さて、どういう意味なのでしょう。
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「18歳のトトヌはもっぱらビールを飲んだり、仲間たちとジュラのダンスホールに行ったりして過ごしている。しかし現実に向き合わねばならなくなる。7歳の妹の面倒を見て、生活費を稼がないといけない。そこで彼は農業競技大会で3万ユーロを稼ぐことを目標にする」
タッチは、暖かいのか、シリアスなリアリズムなのか、分かりません。ただ、田舎を舞台に、新人の若者を起用していると思しきスチール写真のイメージからは、暖かいケン・ローチと勝手に想像しています。楽しみにしましょう。
〇『Dog On Trial』レティシア・ドシュ監督/フランス
女優レティシア・ドシュはカンヌでカメラドールを受賞した『若い女』(17)の主演などで知られます。今作で、監督デビュー。こちらも「カメラドール」対象作品。本人が主演もしています。
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「負け続けの弁護士のアヴリルは、次の裁判こそは必ず勝つと自らに誓う。しかし、必死なダリウシュから、忠実な仲間のコスモスの弁護を引き受けてくれと頼まれたとき、アヴリルの誓いが試される。こうして予期せぬ裁判が始まる。犬の裁判が」
DBではジャンルはコメディーとされていますが、公式部門でコメディーは少ないので貴重ですね。動物との関係から人間の身勝手さを指摘する視点もあるのでしょう。
2023年のパルムドール受賞者ジュスティーヌ・トゥリエ監督の『ヴィクトリア』(16)も、犬を証言台に立たせて苦労する女性弁護士の傑作コメディードラマでした。クリシェですが、本当にフランス人は犬が好きですねえ。
〇『Black Dog』クアン・フー監督/中国
大阪アジアン映画祭でも上映された『The Eight Hundred』(20)は、2020年の公開映画興行収入世界一というウルトラメガヒットを記録していますが、その監督がクアン・フー。もはや巨大な存在ですが、カンヌのコンペ的部門は初参加のはず(特別上映でカンヌ参加実績があるかどうかは未確認)。
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「刑期を終えたランは、中国北部の実家に戻る。2008年の北京五輪の準備として、野良犬の一掃を目的とした野犬とのパトロールの職に就いたランは、黒い犬との絆を深める。ふたりは新たな旅に向かう」
いいですねえ。犬好きはフランスだけではない。
そして、なんと主演がエディー・ポンで、共演がジャ・ジャンクー?ええー、マジ?これはちょっとかなり必見ですね。
〇『The Village Next To Paradise』モ・ハラウェ監督/ソマリア・オーストリア
モ・ハラウェ監督は、ソマリアのモガディシュで生まれ、ソマリアのアートスクールで映画の魅力を発見したとの記述が見つかります。2009年以来オーストリアを活動の拠点としながらソマリアで短編の製作を続け、ロカルノやカイロといった重要な映画祭で受賞を重ね、頭角を現していきました。短編『Will My Parent Come Home』(22)はベルリン映画祭の短編部門に選出され、ベルリンの若手支援ラボに参加して長編の準備を進め、完成したのが本作ということのようです。長編第1作、「カメラドール」対象作品です。
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「ソマリアの辺境地の村。男やもめのママルガドは、小さい仕事をこなして日々をしのいでいる。彼の妹のアラウェロは悲惨な結婚から逃れてママルガドの家に避難している。ママルガドの息子のシガールの未来は、このデリケートな家族の中であまり考慮されていない。ママルガドと妹は信頼し合ってはいるが、状況に強いられなければ一緒に暮らすことなどなかった。この家族の日常は、政治的混乱と自然災害とポストコロニアリズムの負の遺産に苦しむ国の事情と切り離せないのだった」
ソマリアの映画を見る機会は非常に限られているわけで、それだけで貴重。ソマリアで生まれて映画を作れるようになるまでどれ程の苦労があったか、想像を絶します。(具体的な根拠はないですが)かつてなら「監督週間」で上映されていそうな作品ですが、地域を広げて若手をプッシュするという現在の「ある視点」のラインアップを象徴する作品のひとつである気がします。
〇『September Says』アリアンヌ・ラベド監督/ギリシャ・フランス
84年にアテネで生まれたアリアンヌ・ラベドは幼少期をフランスとドイツで過ごし、ダンサーを目指し、やがて俳優へと転身します。主演した『Attenberg』(10/アティナ・ラシェル・ツァンガリ監督)でヴェネチア女優賞を受賞。同作に役者として出演していたヨルゴス・ランティモスと意気投合し、追ってランティモス監督作品に出演することなります(『アルプス』や『ロブスター』)。順調に俳優業のキャリアを重ねつつ、本作で監督デビューです。「カメラドール」対象作。
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「10ヶ月違いで生まれた姉妹、セプテンバーとジュライ。セプテンバーが学校を停学になるのと時期を同じくして、妹のジュライは独立心を主張し始める。双極性障害の母親を含めて家族はアイルランドで休暇を過ごすが、緊張が高まり、シュールな出会いが家族の限界を試す」
何やら想像力をかきたてられるプロットで、スチール写真も惹かれます。9月と7月という名の姉妹というだけで、なんだかいいですね。役者は新人を配しているようです。果たして、演出的、内容的にランティモスの影響はあるのかどうか、大注目です。
〇『L’ Histoire de Souleymane』ボリス・ロジキヌ監督/フランス
ボリス・ロジキヌ監督は、『Hope』(14)がカンヌ「批評家週間」に出品されています。ナイジェリアの女性とカメルーンの男性が助け合いながら欧州への越境で辛酸をなめる様を描き、10年代に数多く作られた移民の苦境を描く映画の象徴的1本と呼んでも過言ではない、生々しい視点に満ちた秀作でした。続く『Camille』(19)は、10年代中盤に混乱を極めた中央アフリカを取材して殉職した実在の報道キャメラマンの姿を描き、ロカルノで観客賞受賞しています。芯の通った、ガチで硬派の実力派監督であると言えます。
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「フードデリバリーの仕事でパリの街を自転車で走り回っているというのに、スレイマンはまた同じ過ちを繰り返そうとしている。滞在証明書の取得に繋がる難民認定の面接が二日後に迫っているのだが、準備が出来ていないのだ」
ロジキヌ監督ならではの内容と思えますが、越境や政治の混乱の現場から、移民先の暮らしの苦闘に映画は移行しているようです。監督の実力には太鼓判を押します。そして上映時間が1時間33分とのことなので、ダルデンヌのような、引き締まった脚本が期待できそうです。こちらは必見でお願いします。
〇『The Damned』ロベルト・ミネルヴィニ監督/イタリア
イタリア出身のロベルト・ミネルヴィニ監督はニューヨークを活動の拠点としています。2007年にテキサスで3本の長編を製作して各地の映画祭で評価を受け、アメリカ辺境地で抑圧される女性たちを描いて世界のドキュ映画祭を席巻した『Stop The Pounding Heart』(14)は、イタリアのダヴィッド・ドナテッロ賞にて最優秀ドキュメンタリーを受賞しています。近作の『What you gonna do when the world's on Fire?』(18)はアメリカの黒人差別の実態を、ある種実験的な演出で見せるドキュでした。カンヌは、「ある視点」に選ばれた『The Other Side』(15)以来となります。
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「1862年、冬。南北戦争中のアメリカ。北軍は西の未開拓地を視察すべく志願兵を募る。やがて、使命が方向性を変えるにつれ、兵士たちは自分たちの取り組みに疑念を抱きはじめる」
ミネルヴィニ監督の関心はやはりディープなアメリカの地にあるようです。ビジュアルからも、過酷な自然の中の行軍が浮かんできます。ドラマではあるもの、俳優陣にスターの名前は見当たらず、やはりリアルを目指したドキュタッチが採用されているのだろうと予想します。
〇『On Becoming A Guinia Fowl』ルンガノ・ニョニ監督/ザンビア・英国
ザンビアで生まれ、9歳でウェールズに移住したルンガノ・ニョニ監督は、『I Am Not A Witch』(17)で鮮烈なデビューを飾りました。カンヌ「監督週間」に出品された同作を見た僕は即座にカメラドール確定と思ったものでした。結果、惜しくも受賞はなりませんでしたが、架空の国を舞台にし、魔女認定された女性が飛んでいかないようにリボン状のヒモで宙に繋がれているイメージは、抑圧された女性解放のメタファーに満ち、心底感動したのでした。2017年のMyベスト映画の1本でした(世界の映画祭を席巻した後、同年のアカデミー賞の英国代表作)。
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「ザンビアとギニアにおける人間関係を見つめるドラマ・コメディー」
目下、上記の一節しか見つからないのですが、どこかファンタジー的な軽みの要素もあった『I Am Not A Witch』からコメディーに振れるのも分かる気がします。A24が一部出資し、海外セールスも手掛けるとのこと。カンヌのラインアップ会見で、ディレクターのティエリー・フレモー氏は「家族ドラマで強力なコメディー」と形容しました。カンヌ最大級に期待の1本です。
〇『My Sunshine/ぼくのお日さま』奥山大史/日本
やりました。快挙!『僕はイエス様が嫌い』(18)がサンセバスチャン映画祭で若手監督賞を受賞し、長編1作目にして国際的注目を浴びた奥山監督、2作目が待望されていましたが、カンヌ入りです。これは本当に素晴らしい。96年生なので、27歳。将来性がもう、まばゆい。
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ここではあえてフランスの映画DBに記載のシノプシスを訳してみます:
「北海道の冬は、男の子にとってホッケーの季節だ。タクヤは、東京からやってきてフィギュアスケートの練習に打ち込むサクラに心奪われている。タクヤはサクラを懸命に真似てみるが、その姿を見たサクラのコーチがタクヤとペアを組ませ、競技会を目指すことになる。互いの違いを乗り越えて、時とともに二人の間にハーモニーが生まれていく。しかし雪は溶け、春はそこまで来ていた」
余計なことは書くまい。カンヌで観て、カンヌの反応を楽しみにします。
〇『Santosh』サンディア・スリ監督/英国・インド
インド系英国人のサンディア・スリ監督、ドキュメンタリー映画制作を経て、サンダンスのラボで劇映画を学び、本作が初のフィクション長編です。そもそもスリ監督が初めてカメラを回したのが、日本で教師をしていた時の授業の様子であるらしく、それがきっかけでドキュメンタリーの道に進んだとのことで、なんだか親近感が沸きますね。
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「28歳のサントシュは、警察官の夫を悲劇の死で失ってしまう。彼女は夫の後を継ぎ、自ら警察官になる」
なんとシンプルで、なんと力強く魅力的なプロット。インド北部の奥地を舞台にしたネオ・ノワール、であるようです。ああ、こちらも大いに気になります。
〇『Viet And Nam』ミン・クイ・チュオン監督/ベトナム
チュオン監督はSF設定のドキュメンタリー『The Tree House』(19)が初の長編、本作が初のフィクション長編のようです。ベトナムの過去と現在をリアルに語る表現者であるからか、当局との関係も複雑なものがあるようで、4月12日付けで「(『Viet and Nam』は)カンヌに選ばれたがベトナムの映画庁当局は許可をまだ出していない」との報道もありました。昨年のカンヌの「新人監督賞=カメラドール」がベトナム映画『Under The Yellow Cocoon Shell』(ファム・ティエン・アン監督)に授与されたことは記憶に新しく、ベトナム映画の新しい波に注目が集まります。
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「2人の鉱夫、ヴィエトとナム。彼らは地下300メートルで働き、常に危険さらされ、暗闇に包まれている。ナムは仕事を離れようとし、国外に逃してくれるヤクザ者を頼る。地を離れる前に、ナムはヴィエトと彼の母とともに、父の失われた遺品を探そうとする」
父は深い森の中に消えた元兵士であり、そこからベトナム戦争の記憶が辿られる内容であるのだろうと推測されます。
余談ですが、数年前、60~70年代の青春を描くベトナムの商業映画を見たとき、戦争が全く出てこなくて愕然としたことがありました。今のベトナムでは戦争は無かったことになっているのか?と。以来、現在のベトナムの政治で戦争がどう位置付けられているのか、調べようと思って実現できていないのですが、本作が改めてその契機になってくれそうだと、個人的には期待しています。
〇『Armand』ハーフダン・ウルマン・トゥンデル監督/ノルウェー
トゥンデル監督は本作が長編1作目、「カメラドール」対象作品です。2015年と19年に発表した短編がいずれも映画祭で高評価を得ており、初長編にはカンヌで好評を博した『わたしは最悪。』(21/ヨアキン・トリアー監督)のプロデューサー、アンドレア・ベレントセン・オットマールを迎え、カンヌ入り体制を整えて臨んでいます。
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「学校である出来事が起きる。アルマンとヨンの両親は学校に呼び出される。しかし、実際に何が起きたのか、誰も上手く説明できない。子供たちの言い分は異なり、意見はぶつかり、大人の考えも揺るがしていく」
ああ、これは怖いやつだ…。猛烈に楽しみですね。主演に、『わたしは最悪。』のレナーテ・レインスベ。レインスベはベルリンのコンペにも2本準主演作があり、『わたしは最悪。』の成功以来、引っ張りだこの存在。現在最も見ておくべき俳優の一人でしょう。現在のノルウェー映画界の最良の要素が集結した作品という感があります。
〇『When The Light Breaks』ルーナ・ルーナソン監督/アイスランド
77年生のアイスランドのルーナソン監督、短編『The Last Farm』(06)がオスカーにノミネートされたという実績がありますが、初長編の『Volcano』(11)がカンヌ「監督週間」に選ばれて順調なスタートを切っています。2作目『Sparrow』(15)はサンセバスチャンのグランプリを受賞しました。内向的なティーンの青年が離婚して離れて暮らすマッチョな父のもとでひと夏を過ごすドラマでしたが、繊細な青年の内面描写が抜群に上手い秀作でした。前作『Echo』(19)を見逃していますが、クリスマスの時期の人間模様が描かれ、ロカルノでユース審査員賞を受賞、その後各地の映画祭を回っています。5年振り4作目の長編が、カンヌ「ある視点」です。
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「アイスランドの長い夏の一日が始まる。一日のうちに、若い美大生のウナは、愛と友情と悲しみと美しさと出会う」
アイスランドの夏の独特の光線の下で展開する青春の物語、でしょうか。『Sparrow』に続き、ルーナソン監督が好んで描く設定と主題ですね。『Sparrow』は青年でしたが、今作は女性。ルーナソン監督による、ビターでリアルな青春。絶対にいいという確信があります。
アイスランド映画は荒涼とした景観を生かしてジャンル系だったり、ストレンジ系だったりに行きがちな傾向がありますが(そしてそれらも最高ですが)、ルーナソン監督は繊細な人間描写を通じた正統のドラマを得意としている感があります。アイスランドを背負う存在になる可能性があるだけに、要注目だと思っています。ちなみに本作は、「ある視点」部門のオープニング作品でもあります。
〇『Niki』セリーヌ・サレット監督/フランス
近年のフランス映画でバリバリ主演を張る女優として、豊かなキャリアを誇るセリーヌ・サレット、日本ではウニー・ルコント監督『めぐり合う日』(15)の主演で知られるでしょうか。今作で監督デビュー。部門横断の新人監督賞「カメラドール」対象作品です。
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「1952年、ニキはマッカーシズムで息詰まるアメリカと実家から遠く離れ、夫と2歳の娘とともにフランスに渡る。しかし、遠く離れたにも関わらず、しばしばニキは子ども時代のトラウマに思考を妨げられてしまう。ニキは地獄を発見することになるが、アートの中に自分を解放する武器を見つけるだろう」
監督本人は出演せず、キャメラの後ろに専念するようです。主演は、シャルロット・ル・ボン。ル・ボンも監督作『Falcon Lake』(22)がカンヌ「監督週間」に出品されていましたが、こういった連携というか連帯に勢いを感じます。女性が解放される伸びやかな作品である予感がします。
〇『Flow』ギンツ・ジルバロディス監督/ラトビア
あの圧倒的な美しさのアニメーション『Away』(19)のジルバロディス監督、待望の新作!島に不時着した青年がバイクで様々な地を走っていくロードムービーの『Away』は、脚本、作画から音楽まで、ほぼすべてを監督がひとりで担い、3年半かけて完成させ、アヌシーを始めとするあらゆる世界のアニメーション映画祭で大絶賛を浴びたのでした。あれから5年、新作がカンヌ!
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コンペにもアニメが1本入りましたが、今年のカンヌはアニメが熱いですね。アヌシーは、嘆いているだろうなあ。いや、逆に喜んでいるのかも?でもコンペのアニメと本作の両作ともに、カンヌ入りの発表が他の作品に比べて遅れたので、やはりこれはアヌシーとの調整に時間がかかっていたと邪推されても仕方がないのでは?と、映画祭内部にいた立場としてはどうしても考えてしまう…。
「一匹の猫が目を覚ますと、世界中が水に覆われ、人間は全て消滅したようだった。猫は他の動物とともに船に乗って避難する。しかし、他の動物たちとうまく付き合うことは水への恐怖以上に大変なのだった!みんなが互いの違いを乗り越えて、彼らを待つ新しい世界に馴染まねばならないのだった」
単純に想像して、「分断」を乗り越える努力をしないと世界は滅ぶというメッセージや、ノアの箱舟が浮かびますが、それらを全て含みながら、美と迫力の画力で牽引していく作品なのだろうと期待させます。
以上、「ある視点」は18本です。メインのコンペと比べて、国際色も豊かであり、若手も多く、可能性を感じさせます。やはり「ある視点」は方針を変えた21年から確実に面白くなっているという印象です。それだけ、「監督週間」とガチで作品を競り合っている感はありますが、それもカンヌ全体にとってはポジティブに働いていると思います。
次回は「特別上映等その他公式部門」を予習します!