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カンヌ映画祭2024日記 Day4

17日、金曜日。本日は朝からスカっと晴れている。でも朝は肌寒い。今日こそ雨は無いかなと期待しながら、Tシャツにジャケットを羽織って外出。
 
8時半からのコンペの上映のチケットは取れていたのだけれど、少しでも良い席を確保すべく、7時50分には劇場入り。チケットは、エリア指定の自由席。メイン会場の「パレ」は巨大で、1階の「オーケストラ」エリアが取れることは稀で(これは自動的にバッジの効力別で振り分けられるのでどうしもようない)、大体は2階の「バルコン」エリアになる。ここの後ろになってしまうと画面の大きさがスマホ程度になってしまうので、少しでも前の席を確保したい。今朝はバルコンの前方が確保でき、一安心。
 
見たのは、コッポラ新作『Megalopolis』(扉写真/Copyright Le pacte)。今年のカンヌで最も注目度が高い1本であると言っていいはず。心して臨み、いやはや、これはなかなかとんでもない。
 
ニューヨークがニュー・ローマと呼ばれる世界(ゴッサム・シティのように)で、自らが開発してノーベル賞受賞に至った新素材を都市計画に活かそうとする建築家(アダム・ドライバー)と、それを阻止しようとする市長(ジャンカルロ・エスポジート)が対立し、そこに建築家のいとこで大富豪の息子が建築家を蹴落とそうと横やりを入れる三つ巴の状態がドラマの軸となっていく。
 
そこに、市長の娘(ナタリー・エマニュエル)が建築家に接近し、険悪な父と建築家の関係を仲介しようとしているうちに、建築家と結ばれる。しかし建築家には妻を不審死で亡くした過去があり、影がある。さらに建築家には時間を操る特殊能力があり、市長の娘は建築家の能力に気付く能力があった…。
 
正直言って前半は、ニュー・ローマという世界観(ヴァース、か)や、人間関係の把握に苦労し、それらを考えさせる時間もないくらいのゴージャス感がハイスピードで展開していくので、いったいこれは何を見させられているのだろうと呆然とする時間帯が続く。そして後半に徐々に全体像が理解できてくると、これは裏切りと陰謀と愛憎を主題に持つ壮大なオペラであり、シェイクスピア劇であり、神話であると捉えるべきなのだろうと思うに至る。そして、こんな誇大妄想的で大胆なSFオペラはコッポラにしか作れないだろうと断言できるし、それを85歳という年齢で成し遂げてしまうコッポラの巨人性に、ひれ伏すしかない。これは、もはや空前絶後規模の生前葬なのではないかと、縁起でもないことが頭をよぎってしまった。
 
カンヌで聞こえてくる作品の評価は、正直言ってかなり芳しくない。それに反論できるほど熟考に至っていないのだけれど、事件であることは間違いない。今後の展開はどうなるだろうか!
 
そういえば、劇中、ちょっと信じられない演出があった。これはおそらく史上初の試みだと思うのだけど、場内全員がたまげた。映画祭以外では出来ない演出のはず。書いていいのかどうか、いささかはばかられるので、書かないでおくけど、じゃあ触れるなよと怒られそう。いやあ、驚いた。
 
呆然としながら会場を出て、別会場の次の上映に行けるはずが、既に始まっていることに気付き、ここは諦めていったんホテルに戻り、体制を立て直す。パソコンに向かってから、改めて外に出て、「ある視点」部門の会場「ドビュッシー」に向かう。いつの間にか、かなりの強風が吹いており、晴れているけど寒い。今年のカンヌの天気は本当に複雑。
 
でも、晴れていると「監督週間」のポスターが良く映える。北野ブルーならぬ、北野武画伯のイエローがいい!

15時から見たのは、フランスの新人、ルイーズ・クルヴォアジエ監督の長編1作目で『Holy Cow』という作品。予習ブログの段階では『Vingt Dieux』という仏題しかなくて、直訳すると「20の神」であるこのフランス語はどういう意味でしょうね、と書いていたのだけど、これは「なんてこった!」的な意味で使われる俗語であるらしい。知らなかった。なので、英題のHoly Cowも、聖なる牛ではなく、英語で「ジーザス!」みたいなときに使う類語のHoly Cow!の意味。ただ、映画に牛が重要な役割を果たしもするので、なかなかナイスな言葉遊びタイトルというわけ。
 
で、予習ブログには、中身が分からないけど、ビジュアルから判断すると暖かいケン・ローチ?みたいに書いたら、こちらは当たっていた。ジュラ山の村に暮らす若者の、リアルで暖かくて最高の快作だった!

"Holy Cow" Copyright Pyramide Distribution

ハイティーンの青年アントワーヌ、通称トトンヌは、友人たちとビールを飲んで楽しい日々を送っていたところ、父が急逝してしまう。母親もおらず、いきなり幼い妹の世話をしながら、家計を支えなければいけない羽目になってしまう。父の職業だったチーズ工場での勤務を嫌々始めるが、チーズのコンテストで多額の賞金が出ると知り、チーズを作ってコンテストに出そうと張り切るが…、という物語。
 
夏の光線のもと、自然と若者たちの青春が美しく輝く。もっとも、主人公のトトンヌは現実に直面し、好感を寄せているマリ=リーズは近隣の酪農場を一人で切り盛りしている。厳しい現実をしっかりベースにしながら、無茶な性格から少し大人になっていくトトンヌの成長物語がしっかり、爽やかに、描かれる。

"Holy Cow" Copyright Pyramide Distribution

もう、好感を抱かずにいられない作品。ヘヴィーな作品が多く集まりがちな映画祭で、本作はまさに一服の清涼剤だ。クレジットが流れ始めると同時に、会場からは割れるような拍手。映画の終盤ですでに涙ぐんでいた僕は、若いスタッフやキャストたちが飛び跳ねるように喜んでいる姿を見て、さらに目頭を熱くしたのであった…。

"Holy Cow" チーム

17時半からは、いよいよ監督週間に出品される山中瑶子監督『ナミビアの砂漠』のワールドプレミア上映!僕はチケットを取っていたのだけど、どうしても外せない他業務が発生してしまい、作品を見ることができないことが分かり、もう痛恨の極み。舞台挨拶だけでも、見に行くことにする。本編は次の機会を狙おう。
 
19時から、ジャパン・パーティーに行き、様々な方々と交流。後半は着物姿が超かっこいいDJユリアさんがシティポップ中心にガシガシとダンスビートを乗っけて、盛り上がる。パーティーはこうでなくては。日本のパーティーも素敵になってきた!

22時の上映に行くつもりが、かなり狭い会場で既に満席との情報が入り、諦めてパーティー終了まで滞在し、0時にホテルに戻り、何も食べずにパーテイーでお酒を飲んでしまったからか酔ってしまい、バタンキュー。

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