カンヌ映画祭2024日記 Day2
15日、水曜日。6時起床。毎朝ルーティンの7時のチケット予約は、まあまあかな。やはり夜帯の「ソワレ」と呼ばれるコンペの公式上映はなかなか取れない。まあ複数回再上映があるので、それらを狙えば大丈夫。
朝食は現在宿泊しているホテルではなく、近所にあるかつての定宿で頂いているので外に出ると、寒い。また雨。今年のカンヌは寒いのか…。着るものがない…。Tシャツと薄手のパーカーにジャケットを重ね着してパツンパツンになる。仕方がない。
本日は9時半から、「監督週間」のオープニング作品である、ソフィー・フィリエール監督新作、そして残念ながら遺作となってしまった『This Life of Mine』(扉写真)の上映からスタート。
55歳の女性が、老いや死への恐れを抱きながら、何とか地に足をつけて生きていこうと自分を取り戻す姿を描く、ヒューマン・ドラマで、主演のアニエス・ジャウイがさすが、抜群に上手い。完全に等身大の女性を演じきっている。ソフィー・フィリエール監督自身に、自分自身も重ねながら役を作ったとジャウイは語っていて、本作で彼女がただならぬ境地に到達していると感じる。
ヒロインは、少し精神的に不安定で、セラピストにかかっているが、あまり成果がない。独り言も多い。離婚しており、成人したふたりの子どもとの距離も微妙になっている。昔の記憶も曖昧になっており、不安に苛まされている。こういう中年の女性をしっかりと主演に据えることに、映画の未来のひとつがある気がするのだけど、どうだろう。フィリエール監督の風通しの良い個性もそうだけれど、ジャウイ自身がコメディを得意としてきたこともあり、本作も深刻になり過ぎず、軽妙なタッチがいい。好感度大。ヴァレリー・ドンゼリのワンシーン出演など、こういう絡みも素敵。
上映終わり、12時から、別件へ。初めてカンヌを訪れる日本の若手プロデューサーをサポートする業務を拝命しており、彼らにマーケット会場を案内する。初カンヌとはいえ、みなさん海外には慣れていらっしゃって、僕のサポートはほぼ不要で頼もしい。未来だ、未来。
13時から、「監督週間」が主催する映画祭のプログラマーランチに招待されていたので、ビーチの会場に向かう。僕は前職が東京国際映画祭ディレクターであったことと、昨年「監督週間 in Tokio」のお手伝いをしたご縁からのご招待で、ありがたい限り。幸い、雨は止んで、気温も少し上がってきた。旧知の人々と交流し、バイキングのランチも頂けて、嬉しい。
15時から、上記の日本の若手プロデューサーたちと、台湾とポーランドのプロデューサーたちを繋げる交流イベントに(前半だけ)立ち会う。日本のプロデューサーたちの英語力が高く、本当に未来はここにある!良き出会いになりますように。
17時から、「批評家週間」に出品のアルゼンチンの新人監督による『Simon of the Mountain』へ。
22歳の青年、サイモンの内面の葛藤を見つめるドラマ。知的障害者の施設に集う若者たちが、山を遠足で訪れ、荒れ狂う暴風の中、セルフィーを撮る場面からスタート。サイモンは山で集団に合流し、友人を作り、気になる女の子も現れるが、どうやらサイモンは障害者ではなく、演技をしているらしい。サイモンは本気で集団とともに過ごしたいと願っており、親は困惑する…。
デリケートな設定であるけれど、サイモンの行為が集団にいつバレるかというハラハラで引っ張る内容ではなくて、一種の社会不適合者としてのサイモンの内面に迫ろうとする作品。ラース・フォン・トリアーの『イディオッツ』の不快感はなく(あれはあれで強烈だったが)、作品の根底はインティメイトな優しさが流れている。サイモンが親と衝突するリアリズムタッチも迫力があり、監督の将来性は間違いない。
本日の上映は2本のみ。21時に日本の映画会社のパーティーがあったので、参加してご挨拶。23時までおしゃべりをして、ホテルに戻り、早々にダウン。
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