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バレンタイン・キッス

年も明け、バレンタインまでもうあとひと月という今日この頃。

思い出すとむず痒くソワソワする学生時代の苦い思い出がある。

2月14日未明、僕は歩き続けていた。骨軋む風が吹き荒ぶ中、吐瀉物の入ったビニール袋を握りしめて僅かばかりの街頭の灯りを頼りに少しでも東京へ近づこうと…




終電

2月13日深夜、サークルの飲み会で浴びるほど酒を飲み潰れた僕は、山手線をひたすら周回し続けていた。

酩酊して山手線に乗ったことがある人は身に覚えがある方もいるだろうが、あの電車は意識を強く持っていない限り、絶対に目的の駅で降りることはできない。

何度上野で降りようとしても絶対に降りられない。気づくといつも品川。次こそは絶対に上野まで目を開けようと思うのだが気付けばまた品川にいる。

さしづめ煉獄と言ったところだろうか。飲兵衛はよく「酒の一滴は血の一滴」などとほざくが、小さな器に余りある酒を浴び、大地へと還元した罪を悔い改めるまで、降りることは許されない。

山手線とはそういうものだ。乗っている者からすれば地獄なのだが、あえて地獄と表現しないのには理由がある。

山手線は乗り続けている限り、都内に留まり続けることができる。

灯りと暖があり人の目もあるので窃盗の危険性も実はそんなにない。

帰れないことを除けば安心して意識を飛ばせる。地獄と呼ぶには生ぬるい。


本当の地獄の門は新宿にある。

新宿は小田急線。これが地獄へと人間の魂を誘う魔列車だと一体誰が思うだろうか。

ごく稀に、煉獄から地獄へと落ちるものがいる。

酩酊した状態で新宿駅でホームに降り立ち、千鳥足で小田急線に乗り込み、地獄めぐりをした男がかつていた。


僕である。

僕は、あろうことか終電の小田急線急行に乗りこみ、爆睡をかました結果、夜中の2時に真冬の小田原駅で我に帰ったのである。

あるのは絶望だけだ。所持金は数千円。タクシーも見つからない。

友達に助けを求めようにもホテルに泊まろうにもスマホとクレカがない。絶望だ…

僕はひたすら極寒の小田急線沿いを歩き続ける。

唯一の希望は一定の間隔で現れる自販機だけ。

あったか~いコーンポタージュのボタンを震える手で押し、命の汁をすすりながら次の自販機を目指してまた歩き続ける。

希望の灯が消えぬ間に次の灯を目指す。篝火を求めて彷徨う亡者になった気分だ。

小田原でリアルダークソウルをやることになるとは思わなかった。


さて、希望の光が強くなるほど絶望の影は濃くなるという

自販機に到達する度に訪れるルーティーンをこなしたとき、ふと腹に覚える違和感。

絶望が命を刈り取る瞬間。




未明2時、真冬の小田急線沿いで-------------







僕は-----------------












脱糞した

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