(そら)

1
少女は隻翼であった。生まれつきなのか、それとも事故か何かで失ったのか僕には分からない。ただ、初めて出会ったときから彼女は既に隻翼だった。

2
少女はめったに翼を広げなかった。そのせいか、翼を広げたときのその不安定なシルエットは僕を不安な気持ちにさせた。しかし彼女は何時だって、屈託のない笑顔で楽しそうに跳び回っていた。

3
少女はよく空を見ていた。時にはほとんど1日中、まるで他の記憶は一切失ってしまったとでもいうように、地べたと背中との間に羽を窮屈そうに折りたたんで、見上げていた。それは朝焼けの東雲色に染まる空のときもあったし、日中の青空や、星が散りばめる夜空のときもあった。そして曇りの日さえも彼女は見上げていたのだ。

4
あるとき、そんなに空が恋しいのかいと尋ねてみた事があった。けれど彼女はいつもの笑顔で、どうして私が空を恋しがるのと言ったきりだった。

5
最近になって、彼女は初めからあの姿が自然だったのではないかと思うようになった。僕の勝手な思い込みが、彼女に対する誤解を助長していたのかもしれない。

6
この瞬間も、空は変化を続ける。


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