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<民主主義という幽霊2>

次に共産主義国家の代表とも言えるロシアを見ていきます。
ロシアといえば、この流れでいくと1917年の『ロシア革命』が想起されると思いますが、もう少し前の時代から見ていく方が、その本質を理解しやすいと思います。

1825年に『デカブリストの反乱』というロシアの青年将校が起こした事件がありました。
『デカブリスト』とは、貴族の子弟や、上級青年将校によって構成されていた19世紀初頭の進歩的愛国主義団体をさします。
この反乱は、ナポレオンの「モスクワ遠征」に対する反撃として、ロシア軍青年将校がフランスに赴いた際に、パリで自由と平等を理念とした新しい社会を目の当たりにしたことから、その時の封建的ツァーリズム体制下のロシアに疑問を抱き、蜂起した事件とされています。
この反乱は失敗に終わりましたが、大きな衝撃をもって迎えられ、後の『ナロードニキ運動』、『ロシア革命』へと引き継がれます。


ナロードニキ運動』とは、1860年代から70年代に、「インテリゲンツィア」と呼ばれる青年知識層が、酷使される農奴に同情し、「ヴ=ナロード」(人民の中へ)を合言葉に、農村に入り、革命的啓蒙思想を植えつけていき、やがては封建体制を崩壊させようとした運動のことです。
ナロードニキ運動の初期は、どちらかというと失敗ばかりの日々でした。
活動を主導したインテリゲンツィアは、貴族や富裕な階層が多く、さらにこの時代のロシア富裕層はフランス語を日常的に使用していたため、改めてロシア語を学ぶ必要のあるものまでいるという状況でした。
このような人間が、いかに貧しい服装に身を包み、農奴たちに同情したところで、一部は支持を得たものの、保守的な農民からは逆に不審がられ、暴行されたり殺害されるものまで出てきました。
当然このようなインテリゲンツィアの動きは当局の知るところとなり、最終的にオフラーナ(ロシア帝国内務省警察部警備局)からの弾圧を受けることとなります。
そしてこの弾圧により、より強硬なテロを支持する革命グループの「人民の意志」が組織されました。
「人民の意志」は、フランス革命に影響を受け、暴力的に封建体制を打倒することと、農村共同体主体の社会主義体制の構築を目標にした秘密結社です。

「人民の意志」は、1879年にナロードニキの「農村派」と決定的に袂を分かち、8月の執行委員会で、時の皇帝アレクサンドル2世を暗殺することを決定し、速やかに、断固として活動を開始しました。
1879年のアレクサンドロフスク(現ザポリージャ)御召列車爆破計画、1880年の冬宮殿爆破事件などの失敗を経て、1881年に馬車に乗るアレクサンドル2世に爆弾を2回投げつけ殺害しました。

アレクサンドル2世明殺事件後の「人民の意志」は、国民の代表による最高権力の合法化は、完全に自由な選挙のもとでのみ達成され得るものと考えていたため、次皇帝のアレクサンドル3世に以下の内容の手紙を出して訴えました。 

1 代表はすべての階級から誰でも、住民の数に比例して送り出される
2 選挙人のためにも、代表人のためにもいかなる制限もあってはならない
3 選挙の扇動運動および選挙そのものは、完全に自由に行われなければならない(出版、言論、集会、選挙綱領の自由)
この手紙を、マルクスとエンゲルスは高く評価したと言われている。その意味するところは…

アレクサンドル2世の殺害には成功したものの、「人民の意志」の女指導者ソフィア・ペロフスカヤを含む首謀者5人が捕らえられ、絞首刑に処せられました。
このことにより事実上組織は崩壊したが、その意志はのちの世代に引き継がれていきます

アレクサンドル2世明殺事件からの6年後、「人民の意志」の残党の一人、アレクサンドル・イリイチ・ウリヤノフが、アレクサンドル3世暗殺未遂事件を引き起こし逮捕されます。
そして逮捕後、アレクサンドル・ウリヤノフは、助命嘆願を拒否して刑死されたとされています。
このアレクサンドル・ウリヤノフこそ、のちに「ロシア革命」を主導するレーニンこと、ウラジーミル・イリイチ・ウリヤノフの長兄にあたる人物です。

絞首刑に処せられた5人のうちの一人、ソフィア・ペロフスカヤは少女時代に、ナロードニキ運動弾圧後に結成された秘密結社「チャイコフスキー団」に所属していました。
チャイコフスキー団には、アナキスト(無政府主義)の巨頭クロポトキン公爵も属していたことがあり、ソフィアと接触しています。

日本におけるアナキストといえば大杉栄ですが、國體志士たる大杉がアナキストの仮面を被り、クロポトキンの著書を複数翻訳しています。さらに大杉はファーブルの昆虫記も翻訳していることなどを考えると、優れた頭脳と臨機応変さを兼ね備えていただけに、それなりの葛藤があったのではないかと思うほど革命運動の内実は極めて複雑です。このことに関してはブログでは到底書ききれませんので、いつか書籍化するときがあれば言及しようと思います。

ところで、冒頭に「今後生じるであろう歴史戦に備えて」と書きましたが、現在人気アニメの「ゴールデンカムイ」という作品があります。
僕も好きで見ていますが、途中までしか見ていないので、どのような終わり方をするかはまだ知りません。その前提で書きますが、この作品では、主人公のアイヌの少女の父はポーランド人で、ロシアで皇帝暗殺を実行し、北海道に逃げ延びてアイヌに潜入、少数民族独立のために戦う。という設定になっております。

さらに、作中に同志のソフィアという女が出てくるのですが、こちらは、前述したソフィア・ペロフスカヤをモデルにしていると思われます。
アニメの中でも、思わずフランス語が出てくる、という設定などからしても、「人民の意志」をモデルとしていることは明らかですが、封建体制の打倒と少数民族独立を混同させるような、国際政治が絡んでいるような一面を見せているところを些か危惧しております。
少数民族は皆、迫害されているかのような世論を形成し、当該国を攻撃することは複数の国で行われていますが、わが国も例外ではないことはアイヌ問題を見れば明らかでしょう。
しかしながら、アイヌはさらに奥がありそうなので、ここまでにしておきます。

続く


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