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製鉄視点で楽しむターミネーター2

現在続編が公開され話題のターミネーター2(T2)。溶けた鉄の中に沈んでいくシュワルツネッガーの姿は映画を見たことの無い人もどこかで見たことがあるはず。あのシーンを含むT2の最後の戦闘シーンを製鉄視点から、解説します。ぜひ続編を見る前に、T2をもう一度楽しむお供にどうぞ。

さて、ターミネーターに関する諸々の説明はすっ飛ばします。気になる方はWikipediaをどうぞ。

T2でT-1000との最後の戦いの舞台となるのが製鉄所です。どうやら、既に閉鎖された製鉄所を稼働させてロケをしたとか。

1.製鉄所に突入してはいけません

まずは最初に敷地に突入するシーン、製鉄所には入口があり、警備されているのが通常です。他業種の工場でもそんな感じだと思いますが、製鉄所の特徴として、線路が走っていたり、一般道は走れない超重量の鉄を運ぶ車なんかがいるので、大変危険です。入ってはいけません。

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↑ 日本製鉄株式会社さんのTwitterより、中央のラグビーボール型の車両に1400~1500℃程の溶けた鉄が数百トン入っています。

2.固め方はプリン式からところてん式に

そして一行が突っ込むのが、何やら溶けた鉄を流し込んでいる建物。製鉄所の中には、鉄板を薄く延ばす工場やパイプの形にする工場など、工程ごとにいくつもの工場があります。ここは製鋼工場という、溶けた鉄の成分を調整(この工程で鉄を鋼にする、と言います)して固める工場です。

逃げ惑う作業員のみなさんとともに映しだされているのは、溶けた鉄を鋳型に流し込んで、冷やし固める造塊工程だと思われます。ただこの方法はT2公開時(1991年)には主流ではなくなりつつあった方法でした。生産性・省エネルギー性に優れた連続鋳造法が1970年代から広がったからです。

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↑ 連続鋳造はところてん式に溶けた鉄を固めながら引き抜いていく方法、造塊はプリン式に型に入れて固める方法です。前者の方が、端っこ部分が少なくて済む、連続して生産できる、ということで生産性に優れます。

この工場はおそらく、この造塊から連続鋳造への変遷の波に呑まれたのではないかと、想像されます。なぜなら連続鋳造への変化を世界で先駆けて進めたのが日本、その影響でアメリカの製鉄業が衰退したとも言われます。この舞台はそんな鉄鋼業の歴史の一部でもあるのです。

3.ところでT-1000って何で出来てんの?

敵キャラクターであるT-1000、液体金属だそうですが、いったいなんなのあれ?と鉄鋼・金属屋さんとしては気になるところ。未来の設定の映画の中のことなので、詳細をあーだこーだと言わないまでも、考えたいポイントはいくつかあります。

最後に溶けた鉄に落ちてかなり長めの尺で溶けた鉄の上で暴れまわった末に消滅した、と言及されます。
ここからいくつかのことがわかります。

まずT-1000は溶けた鉄よりも軽いということ。重ければ沈んでいきます。
T-1000は何かしらの合金で出来た液体金属と思われますが、純粋な液体の金属である水銀は鉄よりも重く、T-1000の主成分はもう少し密度の低い金属なのでしょう。これは銃を撃たれてもビクともしないT-800と違い、いちいち大きくのけ反るT-1000の動きともマッチしていて、納得です。(反対にT-800はすんなり沈んでいくので、おそらく鉄よりも重い素材で出来ています。人間の場合、少しも沈まず表面でのたうちまわって死にます。真似しないでください。)

ここから少しマニアックになると、
消滅した、と言っていることから、少なくとも完全に鉄と溶けあわない合金ではないようです。どういうことかと言うと、通常、鉄と呼ぶものには色々な元素が混ざっています。代表的なものは炭素やアルミ、シリコンなどです。これらは溶けた鉄中に投入されて成分を調整して硬い鉄、加工しやすい鉄など作り分けるために使われます。一方、銀は溶けた鉄の中に入れてもほとんど分離します。水と油みたいなイメージです。こうした金属でT-1000が出来ていると、溶けた鉄に落ちても、液体状態で分離して生きている、という状態にもなりかねません。映画のストーリーが変わってしまいます。

また、液体窒素で固まるシーンもありますが、そこから元に戻ることから、冷却~解凍を繰り返しても成分が変化しないだろう、と予測されます。液体が冷却されて固体状態になる時、合金成分であれば、一部の成分が優先的に固体になり析出する、ということが起きる可能性があります。そうしたことが起きない成分だ、ということか、一部機能不全が起こっている描写があるので、多少は変化してしまったのかもしれません。鉄パイプをわざわざひっこぬくシーンなんかもあって、繊細な成分・結晶構造なのかな、と思います。

4.沈んでいくあそこは何?

最後に、T-800が指を立てて沈んでいくあのシーン、まず背景でいつまでも流れている鉄が謎です。鉄が流れ出てきているのは、転炉と呼ばれる工程(2のところ図を参照)からではないか、と思います。溶けた鉄に高速の酸素ジェットを吹き付けて燃やしながら反応させて不純物を取り除く工程です。ただ、ジェットを吹き付ける激しい反応が起きるので、実は容器の1/3くらいしか鉄は入っていません。なので、劇中の映像の角度でいつまでも鉄が流れ出るのはものすごく不自然です、90°以上傾けないとなかなか出てこないです。

そして、沈んだあそこは何なのでしょう。普通、転炉の次の工程は1で紹介した造塊の工程なので、そこまで工場内を運ぶための巨大なコップみたいなものです。つまり、あの流し込んでいるのは容器の入れ替えなんです。ですが、T-800が沈む前のシーンなんかを見ていると、下は一面溶けた鉄、みたいになっています。工場内では天井に設置されたクレーンで運ぶ(クレーンの操縦者がトラックで突っ込んできたのを見て驚くシーンがありますね)のですが、あのスケールだと、クレーンが吊り上げられません。結局よくわからないのですが、工程的に、ちょうどよい沈みやすさ的に、あれは鉄を運ぶ器だと思います。いい具合にチェーンが配置されている理由もわかりません(笑)

5.製鉄所は戦闘シーンに最適?!

ということで、製鉄所のことを知ってみると、T2をより一層楽しめる?かと思います。
適度に人間を輸送できる以上の大きさの機械もたくさんあるし、巨大な装置が建屋に入っているので、高さもあるので、いろんな映像を撮るのに最適です。高温の鉄があるため環境の温度は場所によって様々ですが、鉄が直接見れる場所ならば気温40℃というような場所もあるので、タンクトップ姿のサラ・コナーさんにもぴったりです。が、輻射熱が痛いくらいなので、かなり辛いと思います。怪我しているのでそれどころじゃないでしょうけど……。

もちろん、普通の人間の方はあのように製鉄所内でアクションしては決してなりません。作業員のみなさんは走って逃げていきますが、足は鉄板の入った安全靴を履いています。背後からターミネーターが追いかけてこないか、と同時に頭上などにも注意しながら慎重に逃げているはずです。

#ターミネーター , #製鉄 , #鉄鋼 , #科学

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