「殺戮にいたる病」を読みまして

 note初投稿は、我孫子武丸先生作の「(新装版)殺戮にいたる病」を読んだ感想とします。

 まず書店で本の帯を見た瞬間に、私は本書を購入しようと決意しました。
 帯には「これを読まずにミステリーを語るなかれ。」という文字。
 黒い背表紙に赤い髑髏のイラスト、赤文字でこの見出し。ミステリー小説を書くに辺り、まずは自分の小説を書く前にこの本を読んでおこうと思い購入しました。

 新装版の帯の後ろに隠れてあった表紙には、頭部と腕を無くした白い女性の像。羽が生えているから天使だろうか。頭部と腕を無くした天使。
 読了後の私には、天使が無くす箇所が二つとも違うのではないか?と疑問が芽生えましたがこれは何か意味があるのだろうか。気になるから後で調べよう。

 読了後の感想を一言で。
「そう来るか!騙された!」

 ラストの台詞を読んで、最初はどういう事かと一瞬思考が停止しました。

 最後の記事を見てようやく納得。こんな叙述トリック作品今まで読んだ事が無いよ…。天地をひっくり返された気分を味わいました。我孫子武丸先生有難うございます。本書を再読したいという欲求が止まらず、パラパラと本の最初に戻る手が止まらない。

「この本を再読せずにはいられない病」にどうやら私は罹ったようです。

 再度読み直すが見事なまでに読者を騙す叙述トリックと伏線の数々。登場人物の名前は分かっているのに導かれるミスリード。

 我孫子武丸先生をWikiで調べた結果、他にもミステリー小説を出していると知ったので後から下記を購入。
「0の殺人」、「8の殺人」、「探偵映画」、「弥勒の掌」、「少年たちの四季」をひとまず購入。たった一冊で我孫子武丸先生のファンになってしまいました。これらの本を読んだら他にも我孫子武丸先生の本を購入しようと決意しました。
 特に今から読もうとしている「探偵映画」はあらすじからして良い意味で逸脱していて、今までに無い作品だと思います。興味のある方は是非。

 さて本書の登場人物は恐ろしいシリアルキラー・蒲生稔と、稔の家族の雅子、元刑事の樋口。この三人の視点が交互に代わる形で物語は進んで行きます。

 蒲生稔の殺人シーンはあまりにグロテスクでしたが描写が素晴らしく、リアリティに富んだシーンでした。作者は医学の知識も豊富なのだろうかと思うほど、丁寧で細かな描写。本書の参考文献を一通り私も購入し読みましたが、医学専門書はなかったようでした。どうやって知識を得たのだろう?

 参考文献は下記です。「殺人評論」「殺人百科」「殺人ケースブック」「現代殺人百科」「性の逸脱」「imago」。
 「imago」は雑誌で参考にされた回は1992年の3月号。特集は「エロスとタナトス」。まさに本書の参考文献に相応しいと思いました。「性の逸脱」はもうなかなか手に入らない本のようでした。読むと、性自認や性的思考がどのように形成されるのか心理学方面から取り上げた本でした。なかなか興味深かったです。

 蒲生稔視点の回はシリアルキラー的思考が垣間見え、恐ろしいが非常に興味深く面白く読めました。私は蒲生稔の回が一番好きです。作者はあとがきで「あれを書いている時はちょっとおかしかった」と妻に言われたと記載していましたが、ある程度通常から逸脱した考えを持たないとこの蒲生稔の心理描写は難しいのではないか。そう思わされました。

 蒲生稔は何故シリアルキラーになったのか?本書を読めば段々と分かる、彼の性的思考の形成に関わった出来事。
 蒲生稔の家族である雅子もなかなか狂っています。息子を思うがあまり、息子のマスターベーションの回数まで息子の部屋のゴミ箱のティッシュの量を見て確認しているのです。息子を心配して徐々に情緒不安定になる雅子。彼女のような母親が実際に居たら、思春期に子供の心が歪みそうであるなと思いながら本書を読み進めました。ある意味勉強熱心で子供思いな母親ですが。
 最後に元刑事の樋口。彼もなかなか辛い経験をし心を閉ざした男ですが、シリアルキラーを捕まえようとする描写は元刑事らしく男気のある性格をしていました。彼と行動を共にする女性が中盤辺りから登場するのですが、彼女が彼に抱いて欲しいと言うのもまぁ分からないでもない。

 殺戮にいたる病、本書は映像化が難しいであろうなと思いながらも人気のある作品。貴方も一読されてはいかがでしょうか。いや、一読ならず再読を。