海を泳ぐノクチルとスイミー
「みんな いっしょに およぐんだ。
うみで いちばん おおきな さかなの ふりして!」
レオ=レオニ 作 / 谷口俊太郎 訳『スイミー』より
注意書き
私はアイドルマスターシャイニーカラーズのノクチルがとても好きですが、彼女たちの理解者ではありません。こんなこと考えてるやつがいるんだな、程度に思ってもらえたら幸いです。
なお、この記事はスイミー7割、ノクチル3割の文章量です。
Chapter1 スイミーときっかけ
これまでスイミーを読んだことがなかった。
誰かが言うには
「弱い者たちが力を合わせて、強者に立ち向かう物語」。
個性がどうとか、そんな風に解釈される作品らしい。
”魚たちが寄りそって、海で一番おおきな魚に擬態する。”
”1匹だけ黒いスイミーは目になった。”
”自分たちを捕食しそうな大きな魚を無事撃退しました。”
”めでたしめでたし。”
そういう物語だと聞いて、
知っている気になっていたから、読む動機がなかった。
でも、ある日、読もうと思った。
自分が大好きな人たちが、"魚"だったから。
Chapter2 ノクチル:個性と魚
游魚。水中を泳ぐ魚。それがノクチル。
けれど、アイドルと魚という単語は、そう簡単には結びつかない。
そこで、きっと個性と魚を題材にした作品を
コンセプトの下敷きにしているんじゃないかと思った。
そんな作品を『スイミー』しか知らなくて、『スイミー』を読んだ。
内容は、想像上のスイミーとはまったく違った。
でも、ノクチルを考えるうえで欲しいものはここにあった。
Chapter3 スイミーのあらすじとテーマ
■スイミーあらすじ
赤い小魚の群れにいる、1匹だけ真っ黒な小魚のスイミー。ある日、お腹を空かせたまぐろが群れをおそった。泳ぐのが早いスイミー以外、1匹残らず飲みこまれてしまう。
逃げのびたスイミーは、怖く、さびしく、とてもかなしい気持ちを抱えて、暗い海底を泳いだ。
けれど、そうして海を泳いだスイミーは、すばらしいものをたくさん見た。面白いものに出会うたびに、スイミーはだんだんと元気を取り戻す。
そんなときに、岩陰で、かつての仲間に似た赤い魚の群れに出会う。海でいっしょに遊ぼうと誘うスイミーであったが、彼らは拒んだ。大きな魚たちを恐れて、このまま岩陰に隠れているというのだ。
スイミーは事情を理解しつつも、いつまでもそのままじゃいられないと思い、うんと考えた。
そうしてあるとき、"兄弟たち"に向かって叫んだ。
「みんな いっしょに およぐんだ。
うみで いちばん おおきな さかなの ふりして!」
スイミーの指揮下で、いつしか ”兄弟たち"は、1匹の大きな魚のように泳げるようになった。スイミー自身も目になった。
海で一番大きな魚になった彼らは、自分たちを飲みこむ脅威を追い出すことに成功した。
■テーマ
この作品はシンプルだった。
海には面白いものがあふれてるって気付いて、
そんな海を仲間といっしょに泳ぎまわりたい魚:スイミーのはなしだ。
大きな魚に立ち向かうのは、
泳げなくなるリスクを排するための手段にすぎない。
推測だけど、作中で"兄弟たち”に対し、スイミーはこう思ったはずだ。
「恐怖におびえて岩陰に隠れていることは、楽しくないし、喜びもない」
それは、仲間を失ったあとのスイミーが、
かなしい思いを抱えたままで、海底をじっとしていることに等しい。
だから、どうにかして海を泳ごう。
楽しいことをいっしょに見つけよう、とスイミーは呼びかけた。
スイミーは、うんと考えた。海でいっしょに泳ぎたい。
だけど、ただ海に飛び出るだけじゃ、食べられてしまうことも確か。
なかまを失ったスイミー自身が、痛いほど知っている。
スイミーはとっても考える
そもそも、どうして自分たちは食べられるんだろう?
きっとそれは小さな魚だから。
「それじゃあ、どんな魚よりも大きな魚になろう」
そうしてスイミーたちは自由に海を泳げるようになった。
Chapter4 ノクチルと海、プロデューサーとスイミー
あさの つめたい みずの なかを、
ひるの かがやく ひかりの なかを、
みんなは およぎ、おおきな さかなを おいだした。
レオ=レオニ 作 / 谷口俊太郎 訳『スイミー』より
シャニマスの目的は、担当アイドルをトップアイドルにすること。
でも、ノクチルは他のアイドルと違って、
トップアイドルになりたいわけじゃない。
4人がいっしょにいられる場所が、たまたまアイドルだった。
透は、長すぎる人生と地続きな現状を打開できそうなのが、
プロデューサーとアイドル活動にあるから。
円香、小糸、雛菜の3人は、
そんな透と一緒にいるためにアイドルをやっている。
なかば不本意とはいえ、それでもノクチルは泳ぎ出してしまった。(注1)
ノクチルは海にいる。
そこは面白くて、たのしいことがいっぱい待ってる場所。
いつかなにかが自分たちを飲みこむかもしれない、恐ろしい場所。
そしてプロデューサーは、いっしょに海を泳ぐための方法を考えるのだ。
たのしいことが待っているんだと、岩陰から海へ誘ったスイミーだから。
(注2)(注3)
スイミーのように、ときにはノクチルの一部になり、彼女たちに関わる。
「ぼくが、めになろう。」
レオ=レオニ 作 / 谷口俊太郎 訳『スイミー』より
イベントコミュ『天塵』でも、最後は知名度より4人の自由を取った彼だ。
ノクチルらしく活躍していく方法を、考え抜いて実行することだろう。
もしかすると、ノクチルは居場所を広げつづけた末にトップアイドルになるのかも。海で一番おおきな魚は、誰よりも海を泳げるから。
たとえばつめたい水の中を、あるいはかがやく光の中を。
Chapter EX さかな は さかな
『スイミー』の作者レオ=レオニが描いた、
『さかな は さかな』という作品がある。
池に住む なかよしの小魚2匹の片方が、実はカエルだったというはなしだ。
そのあと、魚とカエルのあいだでひと悶着ある。
この作品にもノクチルを見出してしまったので、今度まとめようと思う。
ノクチルのみんなは”魚"だけど、実は同じ"魚"じゃないところが面白い。
童話とノクチルをめぐる冒険を、しばらく続けてみたいと思った。
END
注1:話しかけてきた成人男性が、ジャングルジムの青年っぽいなと透が思わなければ、そもそもアイドルになることはなかっただろうから。
注2:この海はアイドル活動を指す比喩表現の海。『天塵』の海とまざって分かりづらいことになった。
注3:『天塵』で海へ行こうと提案するのは幼少期の透だが、アイドルでなければそもそも4人で海へ行ったかあやしい(雛菜以外)。また、海での仕事があることをノクチルへ提案したのはプロデューサー。
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