生徒の不安の中にある「幸せに生きる」ためのヒント【Aflevering.35】
私の日本語教室の授業では、授業時間や内容に余白を持たせるようにしています。
カリキュラムに縛られて授業を急いでしまうと、子どもたちの学習している様子を観察することができず、細かい変化に気づくことができません。
また、生徒からの意見が出やすいようにリラックスをした雰囲気で授業を受けられるように心がけています。
生徒の無意識の不安に気づく
本音と建前を極端に使い分けないことの大切さをオランダに暮らす人々から学びました。
また、私が高校教員の時から、子どもが身構えてしまう接し方はせず、リラックスして話しやすい関係を作ることを心がけています。そうでなければ子どもの真意を計ることができず、その子どもにとって必要なサポートができないと考えているからです。
私の日本語教室の授業では、最初か最後に自由に今思っていることをそれぞれ話す時間(いわゆる世間話)を設定しています。これは、学習において無駄な時間として捉えるのではなく、少しずつ学習に向けて気持ちを整える学習のウォーミングアップや、生徒理解を深めるために必要なものだと考えています。
単に日本語の学習サポートをする人としてではなく、私という人間を知ってもらい、子ども自身も背伸びをせず、ありのままで心のつながりがあってこそ、一緒に学びに向かう姿勢が生まれると思っています。
世間話の中には、そんなことをわざわざ先生に聞いてもらわなくても、と思われる内容もあるかもしれません。
しかし、何気なく口にした話題をきっかけに、新しい気づきがあったり人の考えが変わったりすることがあるのです。
学校で起こったこと、友達と話したこと、家ではまっていることなど、子どもたちが話してくれる内容には、何気ない話であったとしても、その子の世の中の見方や価値観も含まれているのです。
例えば、ある時生徒から「友達から、勉強や運動で自分の方ができると自慢された」と私に話してくれました。
その時に私は、その子が得意だと思っていることは何かを聞いてみたり、私が思うその子の良いところを具体的に伝えたりします。その子は、日本語の勉強に関しては問題ないと思っているのですが、少しおっとりしたタイプの子なので、他の子の勢いに負けてしまう時があります。しかし、その子は他の子に対する声かけや関わりがとても上手なので、「あの時は先生とても助かったし、あの子も声をかけてもらえて嬉しそうだったよ」と伝えました。そして、「みんなそれぞれ持ってる得意なところで助け合えたらみんなが幸せじゃない?」と話しました。
子どもにとって、得意不得意で人を見ないという考え方もあることを知ってもらえたらという思いでした。
ただ、私の声かけだけですぐに子どもが変わるとは思わないので、保護者や他の友達との関わりや、自分の中で気持ちの整理をして前に進んでくれたらと思います。
また、小論文対策でも自分の価値観と向き合う機会があります。以前、中学生の授業について書いた記事にも書いたのですが、「努力が報われるかどうか」のテーマについて、生徒の周りの人の考えは、「良い結果が出なければ意味がない」と考えている人が多かったようです。すると、生徒自身もそうかと信じてしまったりするのですが、授業の中でそれとは違った感じ方を提供することで生徒の視野が広げていきます。
結果がダメだったら努力は無駄だと考えることによって、自分を奮い立たせることもできます。しかし、そうでなかった場合でも意味はあると考える人がいることを知るかどうかで、子どもの物事を捉える視野が広くなるのを助けることができます。
どんな時も、こちらの視点を押し付けることなく、生徒が見えている世界を少しずつ広くするように手伝いができたら良いと思って接しています。
悩みの中に幸せに生きるヒントがある
ある授業で、生徒から相談がありました。
その生徒は受験資格に必要なこととして、英語の資格試験に合格することが求められていました。その資格として、英検2級以上を取ることを求められており、それに向けてこれから勉強しないといけないけれど、取れるなら少しでも入試の点数が高くなる準1級を目指した方が良いかどうかを聞かれました。
その時の生徒の心理的状況としては、自分のベストパフォーマンスを心がけるというより、他の受験生よりも不利になりたくないと感じているようでした。
重要なことは保護者と話し合う必要がありますが、最終決定をするのは生徒です。
入試で合格することが目標ですが、自分に合った学校かどうかは入ってみないと分からないことも多いため、「この学校じゃなければだめだ」と固執することは危険です。
もし不本意にも他の学校に入学した場合、失敗したという気持ちを引きずらなければなりません。自分が置かれた環境でベストを尽くすのが大切であり、過去のことを引きずるような人生を歩んで欲しくないと思っていました。
そのため、私は学校の入試ばかりに基準を合わせて、いろんなことを無理に高めようとするよりも、自分が伸ばしたいところや得意なところに焦点をあててみることを提案しました。
もし英語の力をより高めたい場合は、高いレベルの資格試験にチャレンジするのが良いと思います。しかしそうでない場合、英語のスキルは最低限必要なラインを超えているのであれば、自分の英語力に合った試験を目指して勉強し、あとは自分の得意(興味のあること、海外生活をしていろんなことを学んだと伝えてくれていたので、これまでの経験を振り返ったり、それを相手に伝えられるように会話と文章の表現力を鍛える)を伸ばせば良いのではないかと伝えました。
受験となるとつい他の受験生と比べて無理を強いてしまいそうになりますが、受験するための基準をクリアしているのであれば、後は自分の良いところを最大限伸ばして自信に繋げておく方が、実は合格に近くなると私は感じています(これはテストだけの入試では難しいです)。
実際にこれまでに高校生を指導した時からそう感じていました。
また、自分の得意を認識することで、自信が生まれます。入試での合否が自分の価値を決めるのではなく、自分の価値を自分で理解していると、入試の合否によって一喜一憂するような自分のアイデンティティを揺るがされる心配がなくなります。
ポジティブマインドを植え付ける
思春期の子どもたちは、自分という人間(アイデンティティ)を確立する大切な時期を生きています。
自分自身のこと、将来のこと、時には他人と比べた自分のことを気にしていると思います。
また、1人でできることはまだ限られていながらも親から自立しようという気持ちも働くため、いろんな場面でもどかしさを感じる部分もあるのではないでしょうか。
私がこれまでにたくさんの高校生に出会ってきた中で学んだ大切なことは、私から見た生徒自身の良いところを伝えてあげて、そして信じてあげるということです。
私も含め大人一人ひとりを見ても欠点は必ずあります。しかし、それでもみんな自分の強みを活かして社会の中で暮らしています。
子ども心が大きく成長している時に、「失敗したらどうしよう」、「自分のこんなところが嫌だ」というネガティブな気持ちは、不安から絶対に生まれてくると思います。それらを克服するためには、その気持ちに寄り添いその子を応援することが大切だと思っています。本人はどうすべきかはある程度方向性は見えているはずです。
また、どんな状況でもプラスと捉えることもできれば、マイナスと捉えることもできます。どんなことでもプラスに捉えられるよう、私は授業でネガティブな言葉は使わないようにしています。これは、私の元々の性格ですが、ネガティブに考えそうになった時は、その場面になったとしてもプラスになりそうなことを考えて、どちらに転んでも自分はきっと学びがあるだろうと思うようにしています。
例えば、小論文の添削でうまく書けないと悩んでいる子に対して、これまでのサポートでできるようになったところを具体的に伝えることと、悩んでいるというのはまだ伸びしろがある、成長欲があるってことだよ、と伝えています。
私は、子どもたちが困った時に何か自分にできることはないかと考えたら、私はいつでも話せる雰囲気を作ることが大切だという結論に至ったのです。
高校現場でどんなに忙しくも、生徒からの個別対応を求められた場合は、必ず対応しました。今の日本語教室でも、子どもがどうしても話したい!と言うことがある時は必ず聞くようにしています。
私1人ができることは限られていますが、それでもできる最大限のサポートをやりたいと思います。
子どもは未来そのものであり、幸せな社会を作るために子どもが幸せだと感じながら成長していく手助けができれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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