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 オランダの教育制度に関する基本的な情報をまとめておきたいと思います。

 日本と比べ、オランダの教育にどのような魅力があるのでしょうか?
 ただ、これはどちらの教育が優れているかという短絡的な話ではありません。

 それは学校が自ら理念を掲げ、教育方法を独自で選択できることです。そして、保護者や子どもが自分に合った教育方法を選んで学校を決めることです。その際に、義務教育段階では選ぶ学校によってかかる授業料は公立私立に関わらず無料です。

伝統的な「教育の自由」

 オランダの憲法23条では「教育の自由」が保障されています。具体的には「設立・理念・方法」の自由です。生徒数を確保できれば、国からの教育費の援助を受けることができ、学校独自の理念で教育内容を自由に決定することができます。つまり、公立や私立、宗教色の有無に関わらず、国からの援助を受けて学校運営をすることが可能なのです。そして、保護者と子どもは自分の行きたい学校を自由に選ぶことができます。古くから移民を受け入れているオランダでは、保護者や子どもが求める教育は元より多様だったので、このように教育の自由が認められているのです。「よい教育とは何か?」の問いに対する絶対的な答えはありません。むしろ、それは個人によって変わるものだからこそ、多様な教育方法から選択できることは魅力的なのではないでしょうか。

オランダにある多様な教育方法

 オランダでは、小学校から学び直しのために「留年」があります。1960年代に多数の留年生が出て「落ちこぼれ」が問題となり、これまでの画一の一斉学習を見直す動きが出てきました。それによって、オルタナティブ教育が注目され教育の多様化が進んでいきます(オルタナティヴ=代替)。オルタナティヴ教育の学校は、モンテッソーリ、シュタイナー、ダルトン、フレイネ、イエナプランなどがあります。

 日本では、学年ごとに学ぶ内容が決められており、教科書も国の検定を通ったものを使用しなければなりません。それは、日本のどの学校でも同じレベルの教育を受けられるという大きなメリットもありますが、学校の自由度が低くなってしまいます。学びの個別化が求められる21世紀の教育を考える時には、学校の裁量権が重要になります。また、義務教育期間の留年がないということは、学習内容が理解できていなくても次の学年に上がることができるので、学習のつまずきは起こりやすいと考えることができます。

スタートではなく、ゴールに焦点を当てる

 オランダでは「中核目標」という最低限の到達目標が設定されています。これによって、自由な教育にも一定の基準を定め、それまでの道のりは教材も含め各学校が自由に選択できるということになっています(中核目標について、教育の自由度を狭めるものだという批判の声もあるようです)。国際バカロレアについて学んだ時もそうでしたが、学校の目標を出口(卒業)にするか入口(入試)にするのかで大きく変わるものだと思いました。実際に私が担当した高校3年生は、本来その科目で学び考えるべきことよりも、入試問題として出るかどうかを優先して考えてしまうことがありました。点数を取るための勉強自体見直しが必要なのですが、入試に合格しなければ先の進路に進めない生徒にとってみれば、科目の内容について深く学ぶことが重要だったとしても、入試に合格するかどうかの不安が強くて、冷静に判断できない状況だったことも理解できます。

12歳で受ける全国共通学力テストで進路が決まる?

 オランダの小学校では基本的に宿題がありません(現地の学校の中でも、方針によって宿題が課される学校もあります)。それは、子どもたちにとって、家庭での学習よりも「遊びの中で学ぶ」ことを重要と考えているからなのです。しかし、小学校の最終学年になると、大抵は全国共通学力テスト(CITOテスト)を受けます。この結果と、学校での成績と合わせて、保護者と子どもと教師で今後の進路を決めます。

 「12歳で子どもの進路を決めるには早すぎるのではないか?」という疑問が出てきます。かつて、人の能力は先天的に持っているものなのか、後天的に身につけるものなのかはヨーロッパとアジアでは違った考えをしていたようです。アジアでは、子どもの努力次第で能力が後からでも十分に伸びると考える傾向があったようですが、その一方でヨーロッパでは、子どもの能力は生まれた時にその子の能力がある程度決まっていると考えられていた時期もあったようで、その名残が残っているのではないかと考えます。

 現在はオランダにおいても、12歳で進路を決めることはまだ早いのではないか、と考える人もいるようです。しかし、中等教育学校に入ってもその後の進路変更は、成績や本人のやる気を加味して柔軟に決定されるようなので、一度進路が決まってしまったら変更は不可能、ということではないようです。ただ簡単に変更ができるものでもないのようなのですが。

 オランダでは小学校を卒業すると、主に3つの進路に分かれます。大学への入学準備のためのVWO(大学進学コース)、看護師や教師などの専門職のためのHAVO(高等職業専門学校)、経済や科学技術などを学ぶVMBO(中等職業準備学校)です。その後さらに上級の学校に進学することになります。

他人と比べない社会、あなたはあなたの生き方がある

 日本は学歴社会が残っており、他人と比較することも多いのですが、オランダでは人と比べるということはありません。そのため、自分の進路が大学を目指す学校ではないからと言って、自分が大学に行く人よりも劣っているとは考えないのです。これはとても大切な考え方だと思いました。

 実際に、社会を支えるためにはあらゆる職業が必要です。どんな仕事も、立派に尊敬されるべきだという考えはとても魅力的で、日本にもそれが根付いて欲しいです。私が工業高校に勤めていた時、配管工事や建物の設計、電気工事やプログラミング、機械の整備などの「ものづくり」を学ぶ高校生を見てきました。その時に、この社会を直接支えているのは、これらを学んで仕事をしている人たちだと実感しました。

 日本では「試験の点数=その人の評価」の考えがまだ残っていると思うので、みんなそれぞれが違う人間でそれぞれ考えや幸せも異なるということが当たり前の社会になって欲しいと思います。

 多様な考えがあるからこそ、教育も多様化されるべきだと考えるのが自然なことだと思います。 
 しかし、多様性をあまりに認めてしまうことによって、本人の努力の限界を本人が決めてしまうことがあると、オランダで暮らす友人から聞いたこともあります。

 オランダの教育について文献や記事を読んだり、オランダ生活の中で教えてもらったことを中心に自分が理解できている範囲で書かせていただきました。最後までお読みいただきありがとうございました。

<参考文献>
リヒテルズ直子・苫野一徳(2016)『公教育をイチから考えよう』日本評論社
リナ・マエ・アコスタ&ミッシェル・ハッチソン、吉見・ホフストラ・真紀子訳(2018)『世界一幸せな子どもに親がしていること』日経BP社

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