見出し画像

無知・無関心から責任と行動へ-『21 Lessons-21世紀の人類のための21の思考』から学んだこと③ 【Aflevering.136】

 私はユヴァル氏の著書から多くのことを学びました。『21 Lessons-21世紀の人類のための21の思考』(以下、『21 Lessons』)においても、現代社会を読み解くヒントがたくさんあり、彼の著書に出会えてよかったと思っています。
 今回は、私がこれまでに読んできたユヴァル氏の著書から学んだことをまとめた最後の記事になります。最後のテーマは、「虚構」の中の私たちがどのようにして無知・無関心から抜け出し、責任を持って行動に出られるようになるのかということです。

子どもたちの教育でできること

 学校はどのような背景があって生まれてきたのかについて考えてみると、これからの教育について考えるヒントになります。近代と現代とでは、社会の構造自体が大きく変わるというのに、日本の教育の仕組み自体はあまり変わっていないのではないでしょうか。

 ユヴァル氏は、本書の中で学校方針の転換について4つのC(critical thinking, communication, collaboration, creativity)を示しました。
 これまではなぜ詰め込み型の教育だったのか、そしてなぜこれからはそれを変えていかなければならないのかについて述べられています。

 私も高校現場で働いている時は、現実社会との乖離を大きく感じました。私が高校生の頃は、偏差値の高い大学に入ることが将来の就職につながりそれが幸せにつながると思っていましたが、今はその価値観も変わりつつあります。

 また、私が学校現場にいる時、テストは答えが決まっているものばかりでした。現在のような変化の激しい社会の中で生きていくためには、変化に対応する力が必要です。それは、これまでに教育に関する書籍を読んできて学びました。
 そして本書の中では、変化の中でも自分らしくいられる「心の安定」も大切だということが述べられています。変化が激しいということは、私たちの価値観も大きく揺さぶられます。つまり、何かの考えに固執してしまうことは、自分が現実世界の変化について行く事ができず、幸せを感じられなくなることもあるかもしれません。

 私の経験から言うと、学校の先生は物事を複眼的に捉えるトレーニングを受けておらず、さらに考える余裕を仕事の中で与えてもらえないというのが現状です。職員会議で何かを抜本的に見直そうとする発言も、この場合どうするのか、本当に実現可能なのかという話から先に進まず、そのまま夢物語として終わってばかりでした。みんなどこかで諦めていたり、それどころではなかったり、最悪の場合自分には関係ないと思っている人もいるようでした。まさに「無知・無関心」です。

 子どもに必要な力は大人が持っていなければなりませんが、そのための教員のスキルアップの機会が限られていることも問題だと思います。「何でも屋」としての教員ではなく、子どもたちを育てるプロとしての仕事であってほしいと思います。

「見えているもの」と「見えていないもの」

 私たちが暮らす社会はとても複雑で、何と何がどうつながっているのかを理解するのはなかなか難しいことです。
 人間はお互いに協力するために「虚構」を作り出し、ある一定の行動規範に従って動いてきました。
 しかし、その虚構に頼りすぎてしまうと、現実世界の複雑性に気づくことができない危険性があります。何事もシンプルに考えられたら楽なのかもしれませんが、それに踊らされていては本質的な議論ができません。

 また、一度何かの価値観に縛られてそれに基づいてずっと行動してきた人はその価値観を手放すことにかなり抵抗を感じるとも書かれていました。その価値観とその人のアイデンティティが限りなく一緒になっているため、自分を否定するように感じるからなのかもしれません。

 SNSにおいても、自分を必要以上に大きく見せることで、自分の在り方に苦しさを感じたり、他の人のきらびやかな生活を見て自分を卑下することなどがあるそうです。
 これについても、オフラインでの人と人とのつながりが疎かになればなるほど、SNSによるストレスは強くなるのではないでしょうか。

 本書の中に書かれていたことで、参考になった文章を紹介いたします。
 「万物は絶えず変化していること、永続する本質を持つものは何一つないこと、完全に満足できるものはない」
 これは仏教の教えでもあると書かれていました。

 また、虚構に関して「屋根の重み」という表現をしていたところが印象的でした。
 一度作られたシンプルな物語も、その上に社会制度が成立してしまうと、現実を変えるための物語を作り変えがなかなか難しいということです。

 そして、ユヴァル氏は「虚構」と「現実」について考えるヒントを与えてくれています。
 それは人々が犠牲になると考えるのではなく、人々が虚構の中でどれだけ「苦痛」を感じているかというところに注目するのが良いとしています。今私たちを取り囲む虚構によって、どれだけの苦痛を感じている人がいるのかに注目することで、虚構を見直すヒントが分かるかもしれません。

私たちの「責任」と「行動」を

 私たちの忙しすぎる毎日、あるいは平和すぎることによる「無知・無関心」を脱却し、自分たちにできることを考え議論する力が必要です。
 本書の中でも「個人の力と責任を自覚し、行動を促す」ために「知る義務」が必要だとされています。私たちの行動規範である「虚構」の中で、現実に目を向けて自分たちの行動を考え対話していくことが大切なのです。

<参考文献>
・ユヴァル・ノア・ハラリ、柴田裕之訳『21 Lessons-21世紀の人類のための21の思考』(河出書房、2019)

この記事が参加している募集

人生を変えた一冊

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?