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オランダの国際バカロレアの生徒が学ぶ「ルネサンスとは?」【235】

 4ヶ月前ぐらいに、IB教育のMYPで学んでいる社会科の学習について記事にまとめました。そこでは、日本の公立中学校では学ばないレベルの高さと探究的な問いに驚いたことについて書きました。ただ難しいレベルをやっているからといって、素晴らしい教育だと決めつけるのは時期尚早というものです。そのレベルに12,13歳の子どもたちがついていけているのか不安もありますが、その辺りは実際に教えている教員でないと感覚としては分からないかもしれません。

 私が公立高校で教えていた時(2年以上前です)に、社会科の学習に対する危機感がありました。それは、高校生になった時に、せっかく中学の社会科で学んだことがほとんど残っていないということです。おそらくテストのためだけに大量に暗記を余儀なくされたことが原因だと思います。
 高校の社会科としては、中学で学んだことを土台として、さらに深く掘り下げたいところなのです。しかし、生徒にとってみたら「よく覚えていない」というのが実情でした。「日本史」では、用語は覚えているけれど、歴史的に何が大切なのかよく分からないということがあったり、「政治・経済」においても、中学校で学んだ内容についてもう一度説明をしなければならないということがありました。

日本で学ぶ「社会」と、IBで学ぶ「個人と社会」

 日本の社会科は単元や内容が網羅されているように感じます。そのため、どの時代も満遍なく学ぶことができます。歴史に関しては、地域に偏りがありますが、それでも広く学ぶことができるのが特徴だと思います。網羅している反面、それらのつながりや単元の深さが不十分になってしまうというのは、社会科教員にとっては共通の理解を得られると思います。

 一方で、私がサポートしているIBの生徒は、かなり深いところまで学ぶことを求められているように感じます。もちろん、すべての生徒がそのレベルに到達できているわけではないようですが、今の13歳の生徒が学ぶ内容は間違いなく日本の高校レベルです。IBの特徴は探究的な学習であるため、テーマを中心に学んでいるのが分かります。その裏を取ると網羅型の学習ではないため、歴史的な前提を理解することが必要になるところについては難しいと感じるかもしれません。ただ、それとは逆に通史の授業をやっていても次の時代に繋がるよう理解させるのはなかなか難しいところもあります。そのため、テーマ型であったとしても歴史的背景についてはきちんと単元に入る前に補ってあげることで、十分学習内容につなげることができます。

 私個人としては、テーマ型の方が生徒は理解しやすいと考えます。IBでの「社会」がどのような内容をしているのか、先日サポートさせていただいた生徒の「ルネサンス」の学習を例に紹介させていただたいと思います。

IB(国際バカロレア)MYPの生徒は「ルネサンス」をどう学ぶ?

 日本語で解説する授業のために、授業でのスライドなどを見せてもらいましたが、学ぶ内容に関しては、あまり変わらないようにも思います。ただ、印象として違うと感じるところは、生徒たちへの問いかけが多くペアワークなども用いられているところです。この辺は、アクティブラーニングをうまく導入されている教員であれば同じことを既に実践されているかもしれません。また、私が教えているIB MYPの生徒は単元が終わるごとに小テストのようなものがあるので、単元ごとの理解度をチェックしやすいというところがあります。

 それでは、ルネサンスをどのように学んでいるのかを紹介させていただきます。

メインテーマ:「中世」と「ルネサンス」の違いについて学ぼう

 授業では「主要な問い」が用意されていて、その問いについて考えたり答えていく中で単元の内容が分かっていくというスタイルになっています。全体の印象としては、先生が単元に関するストーリーテラーになって全部を説明しようとするのではなく、問いかけをしながら、歴史の学習を通して「考える力」を付けるように促しているような印象があります。

授業で使用された「主要な問い」

・ルネサンス期になって変わったことは何か?
・ルネサンスはどこで、なぜその場所で起こったのか?
・パトロンとは何か?なぜ彼らが重要なのか?
・ルネサンスの発展とコンスタンティノープルの陥落にはどのような関係があるのか?

授業で使われた資料について

 テーマを中心として学んでいるため、歴史的背景に関する知識や理解を補う必要があります。その辺りは、先生が説明したり、資料を生徒と一緒に見て学んでいるようです。

 この授業では、ルネサンス期になって中世にあった価値観がどのように変化したのかを考えさせようとしていました。以下に授業で紹介されていた資料をここに記録しておきます。

黒死病 悪魔の存在と医学

 イタリアのペストの医師(つばの広い帽子屋くちばしなどを身にまとった奇妙格好)の画像が用いられていました。当時の感染症の正体がはっきりとしていなかった中世では、科学ではなく宗教が価値観の根底にあることを示したかったのだと思います。

絵画や地図などの比較

 中世のルネサンス期の絵画、地図などを比較していました。生徒が感じるのは、中世は「下手くそ」で、ルネサンス期は「リアル」になっているというところです。なぜそんなにも違うのか、この辺りについて考えさせる問いかけがありました。

天動説と地動説

 また当時は、地球が中心となり天体がその周りを回っているのか、もしくは太陽が中心でその他の惑星が回っているのかについても大きな論争がありました。その背景について考えることも中世とルネサンス期の違い、特に価値観の変化を理解するのに役立ちます。

フィレンツェと古代アテネの共通点

 こちらは地図を示して生徒に問いかけていました。私自身もどの焦点に絞って答えるのかはっきりとは分かりませんでしたが、ルネサンスがどの時代に関連しているのかを考えさせるきっかけにしたかったんだと思います。
 一例として、古代ギリシアの彫刻などが示されていました。

イタリア商人の活躍

 イタリア商人の貿易ルートの地図が示されていました。これが示すのは、なぜどのようにしてルネサンスがイタリアのフィレンツェから始まったのか、という問いかけになっているのです。それは、十字軍遠征やビザンツ帝国の崩壊とイタリア商人たちの活躍が、ルネサンスに大きく関係していることを伝えるためであり、この辺りのつながりを理解するのが中学生にとってはまだ難しいかもしれません。

 トルコにあったイスラム教のオスマン帝国による侵攻を受け、ビザンツ帝国(東ローマ帝国)の主要都市コンスタンティノープルが陥落しました。そこで行き場を失ったギリシアの学者たちを保護したのがイタリアの商人であったというのです。これを先ほどの古代ギリシアの文化やイタリア商人の貿易範囲などと合わせて考えることができたら、ルネサンスに関する理解が深まるのではないでしょうか。歴史をつなげる難しさと共に、面白さがそこにあります。

絵画「聖母マリアと赤ん坊のイエス」

 ルネサンスの歴史的なつながりを少しずつ見てきたところで、一つの絵画を比較する活動が入ってきました。それは、同じテーマの絵画について、それぞれ時代で描かれ方がどのように異なるかを考えるということです。

 まずは生徒たちが分類をして、そこからその理由や根拠などを分析していきます。ここから、中世で一度描き方のレベルが低くなってしまうことについて確認することができるのです。ここで、宗教との関係性などにも少し触れているようです。そして、最後にはルネサンス期に用いられた遠近法などを紹介し、絵画のレベルがぐんと上がったことなどについて触れていました。

まとめ

 ここまでルネサンス期の時代の特徴について、他の時代と比較して考える授業について紹介してきました。私が感じるのは、授業で扱う中身は日本とそこまで変わらないということです。ただ、この「個人と社会」の担当をしている授業の主体は生徒にあり、資料の分析などが中心になされていて、個人で考えを整理したりペアでディスカッションする時間が用意されているところが特徴的だと思いました。また、単元の終わりに記述問題を含む小テストが行われていることも、生徒にとっては区切りが良いように感じます。あとは、テーマ型の学習をする際の注意点として、学習する内容の前提となる知識をどれだけ端的に生徒たちに伝えることことができるかです。

 IBのMYPではスコアが短期間で出されますが、それは他の生徒と比べるものではなく、自分の中でのフィードバックに用いるように先生から指導を受けるそうです。確かに、他人と比べてしまうと「自分にとって何が大切なのか」という本質的な学びは見えてきません。
 私はIB教育に出会って、自分がこれまでに受けてきた教育について考え直すことができました。また、オランダの教育についても少しずつ分かってきたことで、日本、IB、オランダ3つの観点から教育を見ることができるようになってきたので、今後も自分なりに感じたことをシェアさせていただきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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