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「資料問題」客観的なデータを分析する - 中学生の日本語授業②【Aflevering.21】

 日本語教室での取り組みについて、中学生の授業に関する記録をしています。「中学生の日本語授業①」の記事では、授業の構成や私のこだわりについて述べた後に、「作文課題」の指導とその効果について、実際の授業実践を例に挙げてまとめました。

 そしてここでは、中学生の授業での実践記録その②として「資料問題」を使った客観的なデータの分析やその取り組みの効果について述べていきたいと思います。

日常生活で主観的に感じていることと、統計やデータが示す客観的なデータの比較

 先週の授業テーマが「主観と客観を意識的に分ける」でした。そのため、「作文課題」では自分が主観的に考えたことを、客観的に見つめ直すという活動をしました。そして今回の「資料問題」では、客観的なデータ分析を行い、そのデータが示すことは何か、またなぜそのような結果が出たのかを考えるトレーニングをします。また、生徒が書いた資料問題の解答の振り返りをした後に、そのデータに対して自分の感覚的な判断と異なる場合は、なぜ異なるのかについてディスカッションをします。

 「資料問題」の内容は、文部科学省の国立教育政策研究所「平成29年度 全国学力・学習状況調査」の中で、日本の中学3年生を対象に行った「友達との話し合い」に関するデータ分析をします。データの内容を簡単に言うと、友達の話を聞くときに相手の話を「最後まで聞く」ことや、話を受け止めて「自分の考えをもつことができる」という質問に対して、「当てはまる」もしくは「どちらかというと当てはまる」と回答した生徒の割合がそれぞれ95%、88%であったのに対して、「自分の意見を発表することが得意だ」という項目に対しては50%となっています。まずこのデータを正確に読み取れたかどうかを確認した後、そのデータに対する自分の考えや意見を求められます。

 生徒の解答を見てみると、データの読み取りや特徴に関しては明確に示すことができていました。しかし、分析に関してはもう少し深掘りする必要があるように感じました。ある生徒が書いた文章の中には、「『自分の意見を発表することは得意だ』という質問に対して私は『当てはまる』と答える」とだけ書いてありました。

 私はその解答に対して、いくつかの質問を投げかけました。「なぜ得意だと思ったのか」「自分が得意だと思えた背景には何があると考えられるか」「(インターナショナルスクールに通う生徒の場合は)日本の中学生が自分の考えと異なる回答をする背景には何があるのか」までを一緒に考えてみました。すると生徒は、これまでの授業内でどんなことをしてきたのかを振り返り、ペアワークや発表などのアクティブな活動が多かったことによって、「発表することが得意だ」と思えるようになったと気づくことができました。

 この時に、発表が得意であることが、苦手と感じている生徒よりも優れていると勘違いを起こさないように配慮しながら話を進めていきます。発表が得意な生徒がいたり、調べるのが得意な生徒、資料を作るのが得意な生徒がそれぞれの得意なことを掛け合わせるによって、苦手なところを補い合い、みんなで協力して最終的に良いものを作ることが大切だということを理解してもらいました。

 その後、生徒自身も「発表することは自分で得意だと思っているけれど、じっくり調べたりすることは苦手なので、得意なところで補い合える関係を築きたい」と言っていました。また、生徒は自分の周りの日本人の友達とはお互いに考えたことを話し合うことを普段からしていたので、この資料問題のデータは正直驚きだったそうです。

 自分とは違った環境で育った人は、自分とは違う考え方をしており、その多様性を受け入れる練習として良い機会となったと感じています。そういったことについて考える機会を授業の中で設けることができたら、日本に帰国した時もそのギャップに戸惑ったり、日本と海外に勝手な優劣をつけたりすることなく、いろんな価値観を受け入れる力をつけられるのではないでしょうか。

学んだことを他の学習に応用する

 以前、中学生の授業で「日本とヨーロッパにおける自然に対する意識の差」に関する文章の読解問題に取り組んだことがありました。各問いに対する解答の答え合わせと解説をした後に、文章全体の趣旨や筆者の考えについてディスカッションをしました。すると、生徒は読解で扱った文章の内容について「環境問題に対する国の政策の違い」に関するディスカッションの材料にもなると気づくことができました。

 今回の授業を受けた生徒は、「努力」に関する作文課題では、努力の成果以上に努力する「過程」に注目することの大切さに気づき、過去の経験を振り返ったことで自分は努力できる人間だという「自信」を持つことができました。さらに、自分はやりたいと思っていることに対して努力を続けられる環境を提供したり支えてくれた「周囲の人々への感謝」にも気づくことができました。

 また「資料問題」では、「意見を聞いたり考えたりすることに比べて、発表することが得意だと思っている生徒は少ない」というデータを分析することによって、自分の感覚とは異なる価値観に触れ、その違いについてじっくりと考え話し合いました。それによって、違いがあることを否定するのではなく肯定的に捉えることができれば、学習そのものを充実させることができると気づくことができました。

 課題の内容から感じたり考えることは生徒によってそれぞれ異なると思いますが、それを共有することで議論はより充実していくと思います。そして、授業を終えた後も、他の面接の質問に対する回答に使ったり、さらには日頃の学習態度にも変化を与えると思っています。

 これからも中学生に必要とされる理解力と表現力を高めると同時に、授業でのディスカッションを通じて学びの蓄積と応用を繰り返し、「複眼的思考力」を身につける手伝いをしたいと思っています。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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