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海外で初めての「日本語教室」運営(Vol.1事業スタート編)【284】

 オランダのデン・ハーグにある学習教室Edubleです。今回は有料記事として、教室運営に関する情報発信をさせていただきます。

 2020年に「日本語塾」として開設、そして「日本語教室」という名前を経て、現在は「学習教室」としています。事業を0からスタートさせて、初めの1年は2〜3人だった規模の教室が、3年経った現在は約20人の生徒数を確保し、事業を継続できるようになりました。

 現在私の運営する教室は、決して大きな規模で運営しているわけではありません。授業、時間割、事務処理などは私一人で行っています。最初のオランダの商工会議所とのやりとりは妻が行ってくれました。教室運営をスタートさせて3年が経過した現在は、個人でできる範囲として収支のバランスが取れるようになっています。

 そのため、教室運営をどう進めたら良いのかということについて、スタートから現在までを振り返り、「ここは押さえておいたら方が良い」と感じたことをまとめています。
 私はかつて地方の教育公務員だったので、会社で働いた経験は一切ありません。そのため、「自分で仕事を創る」という経験は人生で初めてでしたが、教室運営を通じて多くのことを学びました。

 この記事は、個人の範囲でできる教室経営として、これから海外で日本語教室を開設したい方向けに書きました。また、海外で既に教室の業務を始めているけれど、うまく生徒確保ができず改善の必要があると感じておられる方にも役に立つ情報があると思います。

「海外で日本語教室を開いて、子どもたちの学習サポートをしたい」
「これから海外で生活するための収入源として、子どもに日本語を教えるという仕事に関わりたい」
「海外で暮らす子どもたちのために日本語でつながり、共に学ぶ空間を作りたい」

と考えておられる方々のお役に立てたら何よりです。ただ、ここで紹介しているのはすべての教室がうまくいくノウハウではなく、「私が教室を経営する上で大切だと思ったことを紹介している」ということを念頭においた上で読んでいただければと思います。

 どの教室の経営にも合うような「正解」とされる手法などありません。常に自分の行いを振り返り、教育的な目標と照らし合わせながら修正すべき点を考え、他の人と関わる中でそれらを深めていくことが重要です。そして、自身の努力ももちろん必要ですが、それに加えて、自分だけではどうしようもないような、保護者の学ばせようと思ったタイミングなどの問題もあります。この記事では、ご自身にできる準備の指標としてまとめており、そういった視点から読んでいただければと思います。よろしくお願いいたします。


日本語教室開設までの流れ

教室の場所はどこにするのが良いか?

 教室を構える場所はかなり重要です。日本語教室というのは、需要がかなり限られているサービスになるので、日本人の家族もしくは国際結婚をされた日本人が多くいるエリアを知っておく必要があります。教室の立地として、利用しようと思った時に通いやすいかどうかは大きな要因になります。

 私の教室は、ハーグのセントラル駅からは少し離れた場所にあります。というのも、私の場合は自宅の1部屋を教室として運営することを決めていたので、自分たちが暮らす場所を拠点としてサービスを開始せざるを得ませんでした。もちろん、セントラル駅すぐ近くなどであればアクセスが良く、その辺りの住んでおられる日本人の方々も多いので、通いやすい立地にあると考えられます。また、大きな駅の近くであれば、ハーグ近郊にお住まいの方も通う選択がしやすいと思います。
 おそらく、駅付近での教室開講の方が生徒の数はもう少し増えると思います。しかし、駅付近になると家賃が上がるので、教室を自宅内に設けるのか、教室としての場所を借りて運営するかで選び方は異なります。

 まずは、ご自身の教室設置の条件を整理してみてください。自分の希望を明らかにし、同時に現時点では選べない選択肢を排除して、そこからそれぞれを比較するとご自身にとって納得のいく選択ができます。

HPやSNSの活用

 教室の場所や運営することが決まったら、同じ地域に住む人たちに周知することが重要です。自分から周知する活動をするとともに、SNS等を活用して日本語教室の様子が分かるように情報発信をする必要があります。

 Facebook、Twitter、InstagramなどのSNSを活用し、教室の風景や子どもたちが学んでいる様子(顔などが写ったり、その子が特定されるようなことは避けます)を掲載しておくと、サービスの利用を考えている保護者に教室での様子を伝えることができます。
 また、教室や子どもたちの雰囲気だけではなく、授業へのこだわりやカリキュラムについて言及した投稿などもあると、保護者が教室で行われる学びのスタンスも知ることができます。私の中では、SNSに情報を載せることは定期的に開催される説明会の代わりになっていると考えています。定期説明会のように時間や場所の制限を受けることなく、保護者がアクセスしたい時に教室の内容が伝えることができます。

 私が活用しているSNSでは、Facebookとnoteに反響があったように思います。Twitterは、文字数の制限と反響があまり得られなかったので、今はもう活用していません。Facebookの在オランダ日本人コミュニティーなどに情報開示をしながら、Facebookのページを見てもらい教室に通うかどうかの検討をしてもらっています。
 また、意外にもこの"note"に投稿している私の「授業記録」を見て受講を希望してくださった方もいます。ちなみに、"note"を経由してサポートを利用してくださる方は、全てオンラインで受講してくださっています。それは、お住まいがハーグから離れている場所だったり国外だったりするからです。そしてオンラインレッスンは、主に中高生が利用してくれています。

 また、SNSを通じて知っていただいた方もおられますが、最終的にはHPから経由してお問い合わせいただくパターンが最も多いです。そのため、HPの作成はしておいた方が良いと思います。

 Googleサイトなどでも簡単に作成することができます。そういったコンテンツを利用しても良いと思いますが、私は友人でお願いできる人がいたのでお願いしました。特に「お問い合わせフォーム」が便利です。ここからの問い合わせが圧倒的に多いです。

教材準備

 日本語学習のサポートとなると、学習レベルや年齢に合わせた教材の準備が必要になります。今の便利な世の中であれば、オンラインで手に入るものはそれなりにあるので、とてもありがたいです。それでは、物質的に必要なものとオンラインで用意しておいた方が良いものを確認していきます。

・大きめのホワイトボード
 文字を学んだり、小学校高学年のグループワークでアイデアをまとめる時に必要になります。

ホワイトボードのおかげで少し「学習する空間」っぽい雰囲気があります

・絵本や子ども向けの本
子どもたちの日本語習得には、文字に触れる機会は必須です。ただ単に機械的な読み書きの授業にならないように、好きなお話やお気に入りのお話などに触れながら会話の機会を増やします。また、授業の前後に本を読む時間などを設けて、その本の内容に関する話などをすればより効果的です。

・少し大きめのモニター
 これは視覚的な教材を活用する時に便利です。また小学校高学年や中学生のレッスンでは、プレゼン発表に活用することもできます。

モニターは、プレゼン発表以外にも動画で学ぶ時にも必要になります

・プリンターとWi-Fi
 これは必需品です。子どもたちの学習プリントやプレゼン資料を印刷したり、紙を使ったクラフトをする時などにも役立てられます。手を動かして何かを作るのが好きな子もいるので、それぞれの得意な分野を活かして学べると良いですね。

・学習用デスク
 初めは最初に掲載した写真にある「大きなテーブル」を使っていました。その方がアットホームな学びになるかと思いましたが、それぞれのワークに取り組む時にお互いの距離が近すぎて集中するのが難しくなったり、机の高さの問題があったため、現在はIKEAのミッケを使用しています。

この学習デスクであれば、向きを変えてみんなで協働作業をすることもできます

授業で使用する学習教材

 最近はとても便利になり、インターネット上にたくさんの便利な教材があります。私が授業づくりで使っているものを掲載いたします。ただし、それぞれのサイトに規約があり、それを商業目的で使用する時には事前にそれぞれの注意事項を読む必要があるのでご注意ください。私はこれらの教材を参考に授業の教材は自作、もしくはホワイトボードを使ったノート学習を展開しています。

・幼児向け
ちびむすドリル」

「ぷりんときっず」

「ペーパークラフトなどのサイト」

・小学生(学習系)
 小学生クラスの子たちと学ぶときも、クラフトや初期の文字学習などは幼児向けのプリントなどを授業に取り入れることもあります。つまり、その子たちに合った教材選択が何よりも重要です。

「すきるまドリル」

「東京ベーシックドリル」

 その他にも、参考になるウェブサイトはたくさんあります。ここでは私が主に参考にさせてもらっているものを掲載させていただきました。
一度ネットでいろいろ検索してみると自分に合うものが見つかると思います。

 私の教室ではホームページにある教材を見て、そのアイデアを参考にさせてもらって、必要な時は自作のプリントを使っています。私は学習の積み重ねやその後の達成感なども大切にしたいと思っているので、プリント学習ではなくノート学習を中心にしています。もちろんプリントと残してファイリングしていけば、成長記録として見ることもできます。また、年齢的にノートに文字を書くのが難しいこともありますが、極力ノートを使うようにしています。ノート1冊が終わった時に、自分がこれまで学習を積み重ねてきたことを実感し、初めは読めなかった文字も後から振り返ると読めるようになっているという成長を感じてほしいからです。ここは私のこだわりとして実施しています。プリントかノートかについては、それぞれの講師がやりやすい方で判断したら良いです。

 教材作りは大変で、著作権などが絡むこともありますので、まずはアイデア集めとして色々見ていただき、保護者に購入してもらうものや教室で配布する教材を決めておきましょう。

文字カード

 文字の習得には反復学習が何より重要です。そのために、文字やイラストと文字が一緒になっているカードを使って学習すると良いです。私は、DAISOで購入したものや、友人から譲ってもらった公文の文字カードなどを使っています。また、個人で並び替えや遊びができるようにそれぞれが使える文字カードなどがあっても良いと思います。その他にも、すごろくやシンプルなボードゲームなどもあると、遊びながら日本語に親しむ時間も作ることができます。

遊びながら学ぶことも大切に

ノートは各自用意、筆記用具も

 教科書とノートは各自用意してもらいます。国語のノートの用意が難しい場合は、教室に置いてある日本から持ってきたノートを購入してもらうか、白紙のノートを購入して用意してもらいます。そして、教科書については大使館からの配布対象になっていない子もいるので、もう必要でなくなった教科書などを保護者から譲っていただきストックしておくと便利です。その方が教材もいろんな子に使ってもらって良いと思います。また、オランダ現地の学校だと筆記用具は学校のものを使っていることがあるので、各自用意してきてもらうかあらかじめ教室に用意しておくと良いです。

告知(生徒集め)

 教室業務を開始してすぐには生徒が集まらないこともあります。講師をされる方が既に子どもの日本語指導の経験されているとか、現地コミュニティに馴染み深い人であれば、生徒も集まりやすいかもしれませんが、大抵は周知などもしながら生徒集めをしていく必要があります。その場合は、現地のコミュニティページや掲示板などで告知すると良いと思います。
 初めての場合は、ご自身の経歴や教えるスタンスも合わせて記載すると伝わりやすくなります。その際にSNSなどの投稿があるとより効果が高まるかもしれません。

授業料の設定と授業時間

授業料の決め方

 授業料の設定はとても難しいですが、様々な条件を整理していきながら決めていきます。まずは、同じような日本語教室をしているところの授業料のリサーチをしてみましょう。それを基準にしつつ、自分に必要な収入に照らし合わせて考えます。例えば、家賃・生活費、その国の物価や同じ職業の人たちの1時間あたりの賃金なども踏まえて調整し、最終的に決定することになります。
 また、趣味程度で行う業務なのか、それなりの収入を期待するかで料金は変わります。また、競合がいるかどうかなども大きく影響するので、価格は時間をかけて設定されることをお勧めします。

授業時間の決め方

 授業は45分、60分、80分、90分などいろいろな決め方ができますが、私の教室では90分にしています。
 「90分では子どもの集中力がもたないのでは?」という疑問を持たれるかも知れません。確かに、読み書きだけにフォーカスした授業だと90分は厳しいです。しかし、海外における日本語学習というのは、文字を読んだり書いたりすることだけにフォーカスする必要はなく、むしろそういったものは無機質なものになってしまい、子どもたちが退屈だと感じてしまうことがあります。

 そのため、私は読み書きの基礎としての活動は行いますが、それ以外にも「聞く・話す」の観点に基づいた日本語の会話や、遊びを通して日本語のコミュニケーションを取る機会も設けています。そこでは、子ども同士のコミュニケーション、先生と子どものコミュニケーションを活発に行い、日本語能力だけにとらわれない子どもの人間的な成長を促すことを大切にしています。実際に、「学び」というのは現実世界とのつながりがなければモチベーションを保つことは難しいです。特に、放課後に学校でもない空間で勉強をするというのは子どもたちにとっては大変なことなので、楽しめる空間にもしておきたいと思っています。

 みんなですごろくで遊んだり、それぞれ好きな絵を描いたり、好きな遊びをやりたい子同士が集まったり、それぞれが思い思いの時間を過ごすことなども行っています。そうして、自分らしい時間を過ごす中で子どもたちの自然な会話能力を育てる工夫もしています。また、天気が良い日は散歩に出かけて身の回りにあるものを日本語で表現したり、季節を感じ取るようにして、いろんな観点から日本語能力を高める工夫をします。
 そうすることで、日本語を通して人とつながることの喜び、日本文化への親しみを感じながら学んでいってほしいと思います。

 読み書きのワークだけやるなら45分でも十分でしょう。しかし、その奥にある「学習者としての成長や人としての関わりなしに、継続的な日本語学習は難しい」と私は考えているので90分にしています。

日本語を学ぶ土台になる「人としての成長」

 昨今では、子どもの「社会との関わり」があまりにも少なくなっていることが懸念されています。親と学校の先生ぐらいしか接することのない環境では、子どもの社会を見る目は育ちません。そのため、私のような他人の関わり、とはいっても私もいわゆる「先生」というポジションになってしまうので、他の大人との関わりを作るよう心がけています。
 具体的には、近所で本の貸し出しをしてくださっている方のところへ子どもたちとたまに訪問したり、いろんな大人にも触れる機会を作ったりしています。

教室の授業スケジュールについて

「授業カレンダー」でお互いにスケジュールを立てやすい体制を

 私が住んでいるヨーロッパ地域では、特にバケーションを大切にしている家庭が多いです。日本語学習だけでなく、子どもの健全な発達を願ってお互いに授業スケジュールをうまく調整できるようにしておく必要があります。
 そのため、学校が休みの期間には授業が中断でき、家族旅行やイベントに参加できるようにしておくと良いです。保護者は柔軟なスケジュール対応があると助かります。

 かといって、こちらの予定が上手く立てられないのもストレスになります。むしろ、教える立場の人間も休むことで、心身共にリラックスできたり、新しい授業アイデアなどを思い浮かべる大切な期間になります。お互いのスケジュール調整のために、向こう3ヶ月の授業スケジュールを事前に立てておきましょう。

私が作成した授業スケジュール

3ヶ月サイクルで固定の授業回数を回す

 スケジュールに関してもう少し詳しくお話ししておきたいと思います。バケーションの時期は月によって変わります。7月から8月にかけてほとんど休みだったり、5月や10月には連休が入ります。また、現地の学校の休みは大体同じですが、インターナショナルスクールになると休みがズレたりします。実際に、ブリティッシュやドイツのインターナショナルスクール、アメリカンスクールなどはオランダ現地の学校と休みの時期は少しズレています。

 私は事務処理の都合上、毎月の請求ではなく3ヶ月で10回の授業を受講してもらっています。そうすると、3ヶ月に1回の支払いをしていただくことになり、事務処理上もミスが少なくて済みます。そして、毎回の請求額が変わることなく1年を通じてそのペースを維持することができるのです。

 収入を上げたければ他のイベントを入れたり、追加授業の申し込みを受け付けるか、3ヶ月で12回にしても良いかもしれませんが、利用者の都合も踏まえながら決定していってください。

 ただ始めたばかりの日本語教室だと、数ヶ月固定で支払うことに抵抗のある保護者もいるかもしれません。初めは月毎に支払いをしてもらい、だんだんと教室としての運営が軌道に乗ってきたら実施しても良いと思います。

体験授業や面談

 教室運営において、子どもたちとの関係はもちろんのこと、保護者との関係も大切です。なぜなら、大人同士が分かり合えている方が子ども達も安心でき、家庭と教室の両輪でサポートができるからです。例えば、家では問答無用にノートに書かされたり、ドリルをたくさんやらされていながら、教室では聞く話すに重点的に取り組んでいると、子どもは混乱するかもしれません。
 私自身がいつも考えているのは「書き」をどうするかです。ひらがなやカタカナ、漢字の形にどこまでこだわるのか、あるいは書き順など、親と先生の言っていることが違うと混乱する可能性もあります。
 そういったことも含めて、保護者とコミュニケーションをしっかり取る時間を確保する必要があります。また、直接話す機会がとれない時も授業報告をしたり、子どもの成長を共有することを心がけると良いです。

まずは「知ってもらうための活動」を

 始めたばかりの教室は、保護者からの信用がまだありません。そのため、無料体験などの授業やイベントなどを通じていろんな人に場所の認知を上げることを優先したら良いです。何事も新しいことを始めたら軌道に乗るまで数年はかかると考えた方が良いでしょう。
 収入や利益を期待する前に、まずは講師の人柄や教室での教育のスタンスなどを知ってもらうことを考えるのが次につながります。

 教室としての運営が安定してきたら体験授業は1回あたりの授業料を請求しても良いかもしれません。もちろん無料のままでも良いでしょう。
 私の場合は1回あたりの授業料を支払ってもらっています。その理由は、支払いをしてもらってレッスンをしっかり行うことを重視しているからです。

クラス編成

継承語クラスと日本の塾のような学習クラスは別で考える

 日本で生活していると気づきにくいのですが、海外で生活している子たちに日本語を教えるとなると、授業内容や構成はそれぞれの子どもに合わせる形で考え取り組まなくてはいけません。

 現状として、家庭で使用する言語が現地の言語や英語であることから、そもそも日本語の会話もおぼつかない場合もあります。そういう場合は、年齢に関わらず読み書きの前に会話でのやりとりからスタートしなくてはいけない状況だったり、小学生高学年でもひらがなぐらいしか書けない子もいます。そのこと自体は何も問題ではありませんが、学習内容やレベルの設定は慎重に考える必要があります。
 ここで注意しなければいけないのは、日本の小学校の学年と同じレベルで学習を求めないということです。彼らは学校で日本語で学んでいる訳ではなく、保護者や日本人の親戚、お友達と触れ合うために生活の言語として日本語を使っている程度です。

 そのため、一人一人の日本語ニーズを見極めながら、それぞれの子たちに必要な学習の組み立てが必要になります。とはいっても、最初は日本語での会話が満足にできるようにしてあげる方が、子どもたちも喜び、日本語に対しての自信が持てると思います。

 現地での生活が長い子どもの場合は、日本で育った場合の年齢相応の日本語レベルであることはほとんどありません。そのため、現地の言語を話すので第2言語として進めていくことが必要になります。また、両親が日本語ネイティブであっても、海外生活が長く現地やインターに通っている場合は日本語がうまく話せない子もいます。

日本語能力だけではなくその子の全体像を見よう

 子どもの日本語能力だけにフォーカスすると、「日本語が遅れている」とか「日本語ができない」といったレッテルを貼りがちです。
 しかし、子どもの全体像を見るようにして、言語を総合的に見ると、その子は他の言語でコミュニケーションができていることに気づくことができます。特に、子どもを総合的に見るというスタンスは非常に重要で、日本語ができないからといって自信を失わせるような言葉がけをするのではなく、その子の日本語以外に誇れることに注目してあげてほしいと思います。

 日本語以外の言語もある子については、日本語の学習に対して子どもとじっくり話し合う時間が必要です。そもそも日本語の勉強自体必要ないと感じている子もいるので、それぞれの日本語との向き合い方からよく観察して、日本語学習をサポートする立場としてどのような学び方がその子に向いているのかを考える必要があります。

 まずは、保護者面談などを通してその子の日本語環境に関するリサーチを行ってください。以下に私がいつも聞いている質問内容をシェアさせていただきます。

・日本語に触れる機会は日頃どれぐらいありますか?(家族、親戚やお友達などとの関わり)
・家庭で使っている言語はどんな言語がありますか?
・学校の学習言語は何ですか?
・日本に関するもので好きなことはありますか?
・日本語で言われたことがどれぐらい理解できると感じますか?または、日本語でどれぐらいの自己表現ができますか?
・今後日本で生活する予定はありますか?

Eduble新規保護者面談資料

 以上が、私が日頃「保護者面談」で訪ねている内容になります。また、これまでの生活はどの国でしてきたのか、日本での生活経験があるかどうかなどもお話しを伺う中で聞いていきます。

カリキュラムと授業内容

学習内容を考える前に必要なこと

 学習サポートをする上で、カリキュラムは非常に重要です。しかし、それ以上に大切なのは、子どもたちにとって「教室をどんな空間にしたいか」ということです。さらに子どもたちとどんな関係を築きたいと思っているかが重要です。

 私にとって教室は、子どもたちが自分らしくいられる場所で、日本語が上手く話せようが苦手であろうが、子どもたちが「安心感」と「楽しさ」を感じられる場所にすることをまずは大切にしています。
 しかし、学習として継続させるのであれば、安心に上乗せさせる「充実感」も必要になります。そこで、学習として「やるべき時はやる」というメリハリをうまく付けることも大切にしています。
 つまり、自分らしく「安心」していられる場所でありながら、日本語もそれぞれのペースで向上させることができる「達成感」を感じられる場所にしたいということになります。

 このように、子どもたちの発達を考えると、日本語ネイティブの子と第二言語である子が同じ空間で学ぶことには大きな意味があると思っています。しかし、学習の進め方という観点では、そのままでは問題が生じてくるので、バランスを考えながらクラス展開をしています。

授業記録と学習記録は保護者と共有

 体系的な学びの継続と、保護者が教室での活動が分かるように授業で実施した内容や成長したところなどを記録しておきましょう。保護者が確認できるとともに、講師自身もその子の成長や今後の課題が分かります。
 言語の学習効果は、すぐに現れないこともあるため、毎回どのような積み重ねをしているのかを明確にしておいた方が保護者も安心できると思います。ただ、あまり細かすぎる報告になると複数の子どもたちの報告を毎回しなければいけないので、負担には注意してください。

 余裕があれば、活動の様子を表した写真や学習成果を表す動画などを撮影して共有すると保護者にも伝わりやすいです。

 私は「Googleドキュメント」に日付と学習内容を書き込んでいき、クラスへの連絡や成果物の掲示などは「Googleクラスルーム」を活用しています。

カリキュラムの決め方

 カリキュラムについては、教室でオリジナルのものを作成しても良いですが、保護者にとっても分かりやすいものが良いと思います。
 私の場合、小学生の場合は教科書を使って大体の進捗を記録しています。もちろん、文化的な学習や子どもたちの興味・関心に合わせた学習にも取り組むので、教科書の学習をすべてにするわけではありませんが、あくまで学習の進み具合の目安ということで設定しています。漢字学習においても、「大体2年生ぐらいまでの漢字は習得できています」という指標を設けています。

 また、学習の到達度を示す簡単な表などを教室に貼って、単元の確認が終わったらシールを貼るなどして、子どもたちが達成感を感じやすいようにしておくと良いと思います。
 週に一度とかのレッスンであれば、学習した漢字を忘れてしまったり、音読がなかなか上達しないということもあります。そのため、6割ぐらいできていれば次に進むという感じで進めて、時々少し前のレベルを復習しながら進めていくとバランスをとりながら前に進めます。

「オンラインクラス」は時間や場所の制限を超える

 ここで、1つ教室でのサポート以外に行っているオンラインサポートについて述べておきます。このクラスのメリットは、何よりも時間や場所の制限を受けないことです。私はオランダの午前中を使って、日本にいる中高生のオンライン家庭教師をしています。日本との時差は8時間(サマータイム時は7時間)なので、こちらの午前は日本だと生徒たちが利用しやすい夕方になります。その他にも、オランダ国内でも教室までは通えない子がオンラインで受講したりしています。現に、国際バカロレア(IB)に通う子たちは夜の時間帯にオンラインで学習サポートをしています。

 オンラインレッスンのデメリットは、相手の学習状況が見えにくいこと、幼い子はじっとしているのが辛いことです。そのため、レッスンを受ける年齢や学習に対するモチベーションなどが大きく影響してきます。サポートの質が低下しないように、事前に実施可能かどうかをよく考える必要があります。

欠席や振替について

 子どもの体調不良による急な欠席だったり、天候の影響などで公共交通機関がストップすることや家族での旅行などでお休みをすることがあります。

 授業料の事後請求をしているのであれば特に問題はありませんが、事前に支払ってもらっている場合は、キャンセルもしくは振替が必要になります。
 しかし、子どものことなので急に体調が悪くなったりすることもあり、そういった不安を保護者が感じないようにする配慮も重要です。そして、教育分野の仕事でもありますので、支払った分の対価は必ず提供したいという気持ちもあります。

 その反面、子どもが授業を欠席にすることを何でもかんでも受け入れてしまうと、保護者の方が平気でドタキャンをしたり、簡単な理由で休ませたりなど、継続的な学習ができなくなるリスクもあります。
 そのため、私は一定期間で授業回数を必ず消費するという規定を設けています。その代わり、3ヶ月で10回受講するというペースでバケーションや子どもの精神的なゆとりを確保しつつ学習を前に進めるという考えです。期間を超えてしまう場合は、保護者と話し合いをして期間外の受講をするかどうかを決める必要があります。

振替のルールを徹底する

 それでは、教室の安定した運営と、保護者が安心して利用できるようにするにはどうすれば良いのでしょうか。
 私は2時間前までの欠席連絡であれば、別日に振替が可能としています。それであれば当日子どもの体調が悪くても安心して休ませることができますし、ドタキャンのリスクは避けられます。また、家族の旅行などの計画も立てられます。この振替に関する決まりと、3ヶ月間で10回の受講を基準に進めていくと安定した運営ができ、複数ある授業スケジュールの管理もしやすくなります。

 ちなみに遠方から片道1時間半から2時間ぐらいかけて通ってくださる方もいます。その方たちには3ヶ月期間での受講回数を調整して、継続的に通いやすいようにしています。

規定と個別配慮のバランスを

 複数の方々にサービスを利用してもらうには、一定の決まりがないと運営が難しくなります。しかし、個別配慮を怠ってしまうと、保護者はサービスの利用が窮屈だと思って継続することが難しいと感じてしまいます。
 ここで大切なのは、保護者との対話です。日頃の授業報告にも言えることですが、それぞれの家庭に合わせたある程度の配慮は必要で、規定よりも少し緩めの最低限のルールは自分で設けておくと個別対応がしやすいです。

 私の場合は、2時間前までの振替ルールは絶対とし、3ヶ月期間を過ぎた時点で何回か授業が余っている場合は、それを次の期間にも回すようにしています。しかし、元々の規定があることで、保護者もなるべくその期間に通おうとスケジュール調整をしてくれるので、そこまで大きく規定から外れることなく実施できています。

 以上が、私がこれまでに重要だと思った「海外での日本語教室の運営」に関する情報になります。
 日本語教室の運営の情報として万能なものではないかもしれませんが、これからスタートをされる方や改善点が見つからない方のお役に立てたら何よりです。まだまだ私も改善すべき点が色々とありますので、自分自身もこれからアップデートしていきたいと思います。

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