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Cambridge IGCSE「経済(Economics)」2-2資源配分における市場の役割[392]

 これまでずっと日本での中高の社会について教えてきましたが、オランダに来てIGCSEのカリキュラムで学ぶ子たちのサポートをしていると、学習内容が濃く試験もなかなか難しい構成になっているものの、学び甲斐のある内容になっていると感じます。今回はIGCSEで教えられている「市場」についてまとめていくので、日本の公民や政治経済の科目の教え方の参考になればと思います。


 市場には、たくさんの売り手と買い手が存在します。同じ種類のものを販売する業者が他の業者よりも高い値段で販売したらどうなるのか、買い手が買うものをどのように決めるのか、それに影響する要因を考えます。

 また、売り手は、誰のために何をどう生産するかを考えるために、資源をどのように配分するのかを決めます。その結果、製品価格が生産者の意思決定に、また需要と供給が資源の割り当てにどのように影響するのでしょうか。そして、資源配分の決定は、政府と民間企業が協力して行ったり政府が行うこともあります。

市場システム

経済とは何か?

 財やサービスは、企業が生産し人々が消費します。アラブ首長国連邦(U​​AE)の首都アブダビの地域経済は国家経済の一部であるように、経済は単独ではないと考えます。UAEの経済は中東の経済の一部であり、中東の国々はアジア経済の一部になります。
 そして、サウジアラビアやカタールなどは石油や天然資源が豊富であるものの、世界全体の需要を満たすことはできづ、その希少な資源を最適に割り当てるための選択が必要になります。

市場システムの機能

 市場システムでは、需要と供給のバランスの中で希少な資源を効率的に割り当てる作用が働きます。価格を中心に買い手と売り手によって市場が構成され、そこで価格が上がれば需要は減少(高いから買うのをやめる)し、供給は上昇(利益が増えるからたくさん売りたい!)します。そのようにして、需要と供給が釣り合うところに価格や数量が決まることを「価格メカニズム」といいます。

市場均衡

 商品とサービスにおける需要と供給が等しい状態で、余剰(供給過剰) または不足(超過需要)はないことを示します。そこでは、生産されたものが全て一定の均衡価格で消費されます。そして、需要と供給が均衡価格で販売された場合、全ての資源が効率的に割り当てられることになり、市場が均衡状態であると言えます。

市場の不均衡

 均衡のとれていない状態の市場のことを示します。供給か需要のどちらかが上回っている状態で、価格が消費者にとって高すぎるか、生産者にとって供給するには低すぎる場合に発生します。例えば、リンゴの需要が増加し供給が変化しない場合、超過需要になるためリンゴの価格は上昇します。その反対に、リンゴの需要が減少しても供給がそのままであれば、供給超過によって価格が下がります。この状態は不均衡な状態ですが、やがて均衡状態に戻っていきます。

ドバイの不動産余剰(考察課題)

 アラブ首長国連邦のドバイは観光客に人気の都市です。ドバイでは貿易に制限がなくさまざまな企業が集まっています。2012〜2016年では市内の住宅や別荘の需要が大幅に上昇したことで、この需要増加に対して多くの企業が建設関係に多くの資源を割り当てました。その結果、不動産の供給過剰が発生しドバイでの住宅不動産価格は2017年以降下落することになります。
 「この一連の流れを市場の均衡・不均衡という観点から、需要・供給・価格の変動についてを分析する」とこの単元で学んだことが整理されます。

主要なリソース割り当ての決定

3 つの経済的決定

 経済が直面する問題は主に3つあります。まず希少な資源を最善の方法で割り当てるには、経済的な選択と決定が必要です。それは、「何を生産するか」「どうやって生産するか」「誰のために生産するか」です。

何を生産するか?

 どの社会にも欲求には終わりがなく無限です。しかし、資源は有限でありすべての欲求が満たされるわけではありません。社会は、利用可能な資源を一部の商品やサービスの生産に割り当て、他の商品やサービスには割り当てないという重要な決定を下さなければなりません。
 例えば、利用可能な土地を病院にするのか、娯楽施設にするべきなのか。労働力を交通システムの構築に使うのか、ファストフードの準備に使うべきなのか。意思決定権をもつ立場の人々にとって、利用可能な資源で何を生産するかという決定は非常に難しいことなのです。

どうやって生産するか?

 生産するものを決定したら、次はそれをどのように生産するかを考えます。その商品やサービスを作るために、どのような生産要素が必要になるのか、従業員はどれぐらい必要になるのか、どれくらいの土地が必要か、どのような資本が必要なのかを考える必要があります。
 例えば小麦を生産する場合、より多く必要とされるのは労働力と資本どちらなのでしょうか。資本を投入して高速で高価な機械を使えば、少ない労力で小麦を収穫することができます。その一方で、伝統的な方法では作物の収穫に必要な資本は少なくなりますが、より多くの労働力が必要になります。

誰のために生産するか?

 最後は生産された商品やサービスを消費するのが誰かという問いに移ります。例えば、商品やサービスの代金を支払うことができる人が限られている場合(高価な嗜好品や医薬品)があり、商品やサービスを全ての人に平等に分配されるべきものなのか、一部のお金が払える人だけが受け取るべきものなのかということを考える必要があります。全ての人に平等に分配されるべきものがそうなっていない場合は、政府が補助的に介入することもあります。

経済システム

 国が採用する経済システムによって資源の割り当て方法は異なります。その方法は「自由主義経済」「計画経済」「混合経済」に大別できます。

・自由市場経済(香港)
 政府の介入はほとんどないため、何をどのように誰のために生産するのかは、公的機関ではなく民間部門が決定

・混合経済(フランス)
 資源配分に関するすべての決定は、政府と民間部門が共同で行う
 政府が介入するのは、市場が資源を効率的に配分できない場合のみ

・計画経済(北朝鮮)
 資源の配分、商品やサービスに関するすべての決定は公共部門が行う
 生産に関する決定は、政府が管理する公共部門の組織のみが行う

 ここでは経済システムのみを説明し、それぞれの詳しい内容は別の単元で学びます。

価格の仕組み

 市場では需要と供給のバランスによって価格が決定(価格メカニズム)し、資源の配分はそれに合わせて行われます。自由主義経済における民間企業では、労働者の賃金を決定する際に、企業の労働需要と個人からの労働力の供給によって決まります。需要が高ければ、それだけ人を集めたいと企業が考えているので賃金は上昇します。その反対で、供給がたくさんあれば企業が働き手を選ぶことができるため、賃金は下がります。

自由市場経済における価格メカニズムの役割

 自由市場経済では、買い手と売り手の相互作用によって商品やサービスの需要と供給が変化します。商品やサービスの価格は、需要と供給によって決まり、賃金は労働サービスの需要によって決まります。

 価格と資源配分は、何を・どのくらい・誰のために生産するのかによって変わります。例えば、最近の研究ではキャベツを食べると健康になることがわかりました。このため、人々はジャガイモよりもキャベツを多く買うことになる可能性があり、市場でのキャベツの需要が増加する可能性があります。それによって、生産者がジャガイモよりもキャベツを供給したほうがより収益が得られると考え、資源をキャベツに移すことになります。そして、消費者がキャベツを高い価格でも購入することによって、その製品の需要が高まっているということが生産者に伝わり、より多くの資源をその生産に割り当てることができます。その反対に、ジャガイモの価格が下落し、利益があまり見込めないと判断した生産者は生産を減らし、土地の使用や労働力をジャガイモの生産に充てることがなくなります。

自由市場経済における価格メカニズムの特徴

 経済システムのところでも確認した通り、自由主義経済における価格の決定についてまとめると、政府の介入はなく民間部門が資源の割り当てを決定し、その割り当ては需要と供給のバランスによって決められた価格に基づいて行われます。
 価格が高い場合は、利益が見込まれるので供給量が増え、利益を得られない商品やサービスは生産されません。そして民間部門での競争が行われるために、消費者に選択肢が生まれ、高品質の製品を競争力のある価格で製造・販売されます。今の便利なスマートフォンやスペックの高いPCは、このような競争の中で生まれてきたと考えることができます。

まとめ:経済的な考えと身近な事例

 この辺りの単元から「経済」の本格的な内容を学ぶようになり、専門的な用語や概念が登場してきます。現実世界の中にここで学んだことが当てはまると、「経済は面白い」と感じる生徒も一定数は出てくるのではないでしょうか。実際に私がサポートする生徒は、「経済の内容は難しいけれど、今の世界を詳しく知ることができるから面白い!」と言っていました。
 こういった学びが抽象的な概念のまま知識として覚えないといけないとなれば楽しく学ぶことは難しくなります。学んだことで自分の生活の捉え方や世の中の見方が変化し、それによって生徒たちが学ぶことの喜びを感じることができることが学習には不可欠だと考えます。

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