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Cambridge IGCSE「経済(Economics)」1-3機会費用【356】

 IGCSEで学ぶ中学生の「経済」の内容についてまとめています。今回は「機会費用」について考えていきたいと思います。日本で学ぶ際は、公民や政治経済などの一部で学びますが、IGCSEの場合は「経済」という単体の科目として学んでいます。私自身もこのカリキュラムで学ぶ生徒のサポートをしながら、とても興味深いと思ったので記事にまとめています。日本の中学社会をより深い学びにするための参考になれば幸いです。一般的な日本で学ぶ社会科のイメージと大きく違うのは、「経済用語を具体的な事例と一緒に学び、その用語についての説明が求められる」ところだと感じます。


「無料のランチなどというものはありません」

 このフレーズにどのような意味が含まれているのでしょうか。これは19 世紀から 20 世紀初頭にアメリカで生まれました。酒場のオーナーたちは、ドリンクの購入を条件に無料のランチを宣伝していました。

 1938年に、初めてこの言葉が純粋に経済的な意味で使われていることが知られました。それは、エルパソ・ヘラルド・ポスト紙に掲載されていたもので、経済的困難に直面している国王について書かれた 「8つの言葉でわかる経済学」という記事にあったとされています。このことわざは現在、経済理論の基礎の1つとなっており、コストや費用がかかることを意味します。

「無料のランチなどというものが存在しない」についての詳しい説明は以下の動画も参照しつつ進められます。

機会費用の定義

 携帯電話を購入するために諦めたものといえば、どんなものがあるでしょうか。経済学的な考え方でいうと、携帯電話を購入する時に失われたものを考えます。ラップトップの価格やそれについて調べたり、ラップトップを探して歩いた時間なども含まれます。さらに購入しなかった場合の銀行に預けているお金の利息なども含めて考えることができます。
 つまり機会費用とは、意思決定において次善の選択肢が失われることを表します。

次善の機会が逸れてしまう

 機会費用の例を考えてみると、新しいSamsung製のスマートフォンを購入すると、iPhoneを購入する機会を失ったことになります。これをお金の問題ではなく、機会損失の問題として考えます。
 もう少し複雑な例を見てみます。ある人は両親に会うために、週末に飛行機で帰国したいと考えています。航空券の価格を調べてみると、金曜日よりも木曜日の方が€50安いことがわかりました。木曜日のフライトを予約しようと思いますが、金曜日にアルバイトをする機会を逃すことに気づきます。アルバイトで得られる賃金は€90です。ここで安いフライトを選択した場合、働いて得られる賃金を失うことになるので結果的に損をしたことになります。

 このテーマの最後には、大学進学、学校のテニスコート建設、農地を太陽光発電施設に利用の3つの事例に対して代替のシナリオを考えるという活動が紹介されています。

時は金なり

 アメリカ建国の父の一人であるベンジャミン フランクリンは、18 世紀の学者でもありました。彼は著書『若い商人へのアドバイス』(1748 年)の中で、「時は金なりであることを忘れないでください」と書きました。

 勉強している間、その時間の代わりに賃金を稼ぐために使うこともできます。これは非金銭的支出であり、失われた機会とは別の生産的または収入を得る方法に使えたはずの時間ということになります。

大学って価値あるの?

 大学教育の費用が高騰している現代では、多くの学生が高校卒業後の進路として大学に行くべきか、それとも働くべきかについて考えています。

 4年制大学の学位を取得することで、給与が高い仕事に就くという期待があります。しかし、学費が高くなることで、深刻な借金を抱えるリスクもあります。大学に価値がないと考える人たちは、学生ローンの問題点について指摘しています。借金が重なると、その後の住宅購入や結婚、貯蓄が遅れることなどが問題だと考えられています。世の中全体を見渡すと、大学の学位がなくても十分に成功を収めた人がたくさんいるのです。
 その一方で、大学に通うことは優れた投資であると考える立場の人たちもいます。大学を卒業すると、高い収入を得ることにつながりやすく、平均収入の差で見ても大きな違いがあると米国連邦準備制度理事会(FRB)が示しています。2019年になりますが、「大学にはそれだけの価値がありますか?」の記事に掲載されています。

意思決定に対する機会費用の影響

 経済的な選択は、家計、企業(生産者)、政府によって日々行われています。消費者は企業から購入するものを決定し、労働力を提供するかどうか選択します。企業は、何をどのように誰のために生産するかについて選択をします。政府は、経済にどの商品やサービスを提供したいかを選択します。このように、それぞれの立場で意思決定プロセスにおける機会費用のジレンマに直面しています。

消費者の選択

 消費者が何かを購入するとき、次善の代替品を購入する能力を犠牲にします。新しいシューズを購入すると、他の商品を購入したり、お金を節約することなど(機会費用)ができなくなります。

従業員、企業、政府の経済的選択

従業員の選択

 世帯は消費者として、どのような商品やサービスを購入するかなどを決定します。彼らには従業員として難しい選択もしています。
 労働時間を長くするのか、仕事を減らして家族との時間を増やすのか、仕事のポジションをどうするのか、さまざまな選択肢にはメリットもデメリットもありますが、最終的に決定が下され機会費用の影響も現れます。

企業の選択

 企業はどれだけ生産するか、何を生産するか、誰のために生産するかを選択します。農家は自分の土地で何を生産するのかを考え、小麦を生産するとしたら、大豆を生産する機会の損失が犠牲になります。

 石炭会社が排出廃棄物を削減する新技術に資金を充てるべきか、 給与増額に充てるべきかを考えます。給与の方に資金を投じると地元の環境は悪化し、この地域の人々の健康上の問題につながります。

 自動車会社がセダン車を増産すべきなのか、SUVのマーケティングに資金を投じるべきなのかを考える場合、収益性が高いSUVを選択すると、景気変動にお影響を受けるSUVの利益が変動する可能性があったり、燃料消費量の多いSUVによって環境やエネルギーの問題の懸念が出てきます。

政府の選択

 世界のほぼすべての国が混合経済システムを採用しています。政府は経済を運営するための資金を税収と借入金によって受け取っています。

 政府は新しい学校の建設にお金を使うべきなのか、それとも新しいスタジアムにお金を使うべきなのでしょうか。政府がスタジアムに資金を投じる場合、機会費用は学校と土地、労働力、資本などの学校を生産するために使用されたであろう資源になります。

 この単元の活動として、家庭、企業、政府が他に選択できることを考えていきます。「家庭は夏休みにお金を使う」「企業は株式の買い戻しに資金を費やす」「政府は借金を返済するためにお金を使います」という事例をもとに他の選択肢を考えていきます。

 今回は「機会費用」に関する説明やワークなどを紹介しました。次回は生産可能性曲線図(PPC)についてまとめていきます。

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