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におい|詩

あの人と真夜中の街を
相合傘をして歩いた
ふたりで歩いていると
不思議と
はじめて歩く街とは思えない

人目を気にせずに歩いた
雨がわたしたちを隠してくれている

少し濡れて
しっとりと冷たいけど
そんなことは構わなかった

半分
夢見心地で
心がくすぐったい

しっとり
甘い夜だった

夜が明けると
わたしはひとり
あれは
夢だったの?

昨日着ていた花柄のシャツを手に取る

あの人のにおいがした
夢ではなかったのだろう

あの人の髪や体
あの人が吸うタバコ
それに
わたしのにおいも少し混じっている

まるでシャツに描かれた花が
香っているかのようだ


甘いにおいが残るシャツに
顔をうずめる
あの人の顔が浮かぶ

大人の男だけど
子どものような
まっすぐな
かわいい表情
だけど目は
捕食する蜥蜴のようだった


あの記憶を辿るように
何度も何度もシャツに顔をうずめる

やっぱり
甘くて
いいにおい
わたしが甘い時間を過ごした証


これもわたしの愛し方
感情に抗わない
向こう見ずなわたしの愛し方


”わたしのために、わたしを生きる”

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