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アメジストの魚2-5



喫茶店を出て、商店街を抜けた先にある海の見える公園に着く。この街の唯一のシンボルだが、天候の影響のせいか人は少ない。僕らは自販機で飲み物を買ってからベンチに腰掛けた。

「今まで何してたの?」
先に沈黙を破ったのは僕だった。

「彼のところで一緒に暮らしてたよ。茅尋だって知ってるでしょ。」

「街を出てからずっと?」

「うん、つい最近まで一緒に暮らしてたよ。今は1人だけど。」

「なら、その傷だらけの体は…?同棲相手に、」

「そうだよ。」
要は僕の言葉が言い終わる前にそう言った。

「彼は愛してるって言ってくれたの。どれだけ殴ってもその後はごめんねって泣きながら謝ってくれる優しい人だった。」

「…。」

「でもね、愛じゃなかったの。彼の私に向ける愛は他の人達が大事に抱えてるような綺麗なものじゃなかった。」

「うん。」

「それに気付いてしまった。だから逃げてきた。彼の事も思い出も全部置いて、この街に逃げてきたの。」

「そう、だったのか…。」

「ねぇ、茅尋。」

「ん?」

「愛って、好きって難しいね。」

そう言った要の顔は、とても寂しそうに見えた。