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アメジストの魚2-3



要が入ったのは若者に人気のありそうなカフェではなくて、そのいくつか隣にある喫茶店だった。いわゆる純喫茶のような雰囲気の漂う扉を入るとどこか懐かしい匂いがした。

「マスター、こんにちはー。」
「やぁ、いらっしゃい。」

店主に挨拶を済ますと、迷うことなく店の奥のテーブル席に座った。

「ここのコーヒー美味しいんだよ。」
「そうなんだ。」

店員が来てオーダーを聞いて去っていく。
少しして運ばれてきたコーヒーとケーキを口に運びながら要の言葉を待った。

「あのさ、茅尋。」
「ん?」
「その声、どうしたの。」

不安の入り交じったような顔がこっちを見ている。
声が震えてしまいそうだった、今僕はどんな表情をしているんだろう。

「あぁ、ただの喉風邪だよ。」
「喉風邪…?」
「そう。」
「嘘は好きじゃないよ、私。」

彼女はそう言うと、僕の首を黒いタートルネックの上から指で確かめるようにゆっくりと触れた。